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穴から落ちたソコは異世界でした  作者: 森都 めい
第1章 森の中で
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9. 瀕死の子


 気配をたどるウェンティアの後をついていくと、木の根元のくぼみに黒い塊があった。どうやら丸まって眠っているようだ。一応息はしているみたいで、かすかにお腹の辺りが動いている。


「あら、獣の狼と魔獣のブラックウルフの混血ですわね。だから魔獣の気配が薄かったんだわ」

「混血? そういう動物も多いの?」

「そうですね、混血は珍しくないのですが、成長できるのはホントに少ないです」

「どうして?」


 ウェンティアによると、まず母親が魔獣だった場合、獣の臭いがあるものは他の仲間に食べられてしまうらしい。まだ、獣が母親の場合の方が成長できる。ある程度までは母親が育ててくれるからだ。でも、獣の中にいて魔獣の臭いが強くなってくると仲間も母親もそばに寄らなくなってしまう。そのあと一匹で成長できるものだけが生き残れるそうだが、そうそういないという。


「この子も多分獣の狼が母親だったのでしょう。だからある程度までは育ててもらえたんだわ。でも頭のところに少し角が見えるでしょ? あの角が生えだすと魔獣の臭いがより強くなってくるので、きっと仲間たちから嫌煙されてしまった。狼は群れで生活しますから、多分母親も仲間たちと行ってしまったのね」

「じゃあ、この子は置き去りにされてしまったの?」

「そうでしょうね…この子は魔獣の力の影響が強いんじゃないかしら。だから魔素も取り込みながら何とかここまで生き延びてきた。頑張ったのね、強い子ですわ。だけど、この先は時間の問題のようね」


 おまえ、独りぼっちなんだ。独りって辛いよね。それでも生きようとしている。ここまで一生懸命やってきたのに…何とかしてあげられないかな。

 顔の辺りを見てみる。ホントだ、少し見えている額に角が生えている。でも混血だからか、うまく角が生えることができないみたいで、変な形になっている。よく見ると三日月みたいな形だな。


「ウェンティア~、あのさ、この子、何とかならないかなぁ」

「え、え~。その子を治してあげるってこと? まぁルイなら治すことは可能かしら。そうね…確か、スキルに “調教” があったかしら?」

「あ~、あったような。見てみる。スマホ。えーとねぇ、あ~あるよ」

「さすが、ルイのスキル! ちゃんとあるわね」

「調教って何のスキル?」

「そのスキルでこの子を従魔にできるのよ。ルイは、この子を従魔にしてみたらどうかしら?」

「え?! 従魔?」

「そうよ。従魔にすればルイの魔力も与えることができるし、契約ではあるけど私たちとずっと一緒にいられる。ルイは攻撃力が少ないからきっといい戦力になるわ」

「一般的に従魔ってみんな持ってるの?」

「いいえ、従魔にも自分の魔力が必要だから、レベル3の魔力がないとダメだわ。仮に従魔にできたとしても魔力を与えながら自分も魔力を使うから、普通はもっと小さな魔獣で行うのですが」

「普通はどうやって従魔にするの?」

「従魔にするには、従魔用の魔道具が売られているので、それを使うの。どうしても従魔が欲しいとか動物が大好きって人で魔力が多い人しかわざわざその魔道具は買わないから、それも従魔を持っている人が少ないってこともあるわね」

「ねぇ、私の魔力、ウェンティアにもあげているんだよね。この子は大きくなると思うけど、この子にも私の魔力をあげちゃうと、私の魔力、枯渇しない?」

「全然! 私たちがいただく魔力なんてルイにとっては微々たるものですわ。ルイの魔力はそんなことでは動じないぐらい余ってますから大丈夫です」


 そうなんだ。私の魔力ってそんなにあるのね。というか、あり過ぎじゃない? 目に見えないものだからよくわからない。


「従魔かぁ、そういえばこのあとって街に行くんだよね。こんな魔獣を連れていたら、みんな怖がらない?」

「従魔なら影に潜むことができますから、他の人がいるところでは隠れて、私たちだけの時は出てきてもらうってこともできるわ」


 そんな便利なことができるのかっ。わからないことだらけで、疑問が次々と浮かんでくる。


「従魔契約を結ぶって、この子の意思はないんだよね。私が勝手に従魔にしちゃっていいのかな?」

「私の考えでは、今だけ治してあげるより、この先もずっと一緒にいてあげる方がこの子にとっては良いことかと。それにこの子が、もし従魔になることを受け入れたくないという時には契約は反発されてできませんから、そのことは気にしなくてもいいと思いますわ」


 一応この子にも拒否権があるんだ。それならいいのかな。ここまで生きてきたその命を助けたいし、独りぼっちというところにスゴク共感してしまって、この子に寄り添ってあげたいという気持ちがなぜか大きくなってしまった。私がウェンティアに出会えたように、この子との出会いも縁だろう。



「従魔にするにはどうしたらいいの?」

「スキルは選択しましたか?」

「うん、スマホのスキルに “調教” を入れたよ」

「では、その子の手を持ってください。ルイの魔力が流れ始めたら契約が始まりますわ」


 この子の手? 前足でいいかな。ちょっと隠れている前足を失敬する。触ると一瞬びくっと驚いた感じだったが、相当弱っているのか動くのが億劫みたいで嫌がらなかった。そのまま両前足をつかむ。私の手の平と同じくらいあるよ。きっと大きくなるね。肉球が少しザラザラしている。頑張って生きてきたその手に私は魔力を送り込んだ。

 じわじわと魔力が流れていくのがわかる。私の両手も温かくなっていく。頭の中に言葉が浮かび、私は無意識に声を出していた。


「汝、我が求むる時、助けとならん。我、汝の生きる助けとならん。ここに我、ルイ・オウカとの絆を結ぶ…」


 ウェンティアと契約を交わした時のように、足元から風が吹き、舞い上がった。でも今回は気持ち悪さはない。これでいいのかな。


「ルイ、その子に名前を付けてあげて」

「え、名前?」


 そ、そんな~! 名前を付けるんなら初めに言っておいてよ~。何にも考えてないよ…どうしよう。

 その時、角になれない角が目に入った。あーそうね、この子の名前は…


「あなたに “三日月” という名を与える…」


 その瞬間、弱っていた魔獣の子が光に包まれ、全身の毛が逆立ち、光が消えると共に治まった。よく見るとその子の体が一回り大きくなったような気がした。



「ふー、これでこの子は従魔になったの? 相変わらず何事もなかったかのように眠っているけど」

「拒否もされなかったし、名前もちゃんと付けたから従魔になったと思いますけど。ねぇ、名前のミカヅキってどういう意味ですか?」

「ミカヅキはね、私のいた世界にも夜の空にほんのり輝く星があるの。この子の額の角のような形の時があって、それを三日月って呼ぶんだ。黒い体の中に白く浮かぶ角の様子を見てその景色を思い出しちゃった。だからミカヅキって名付けたの」

「額の角のような形って、あー “ほそなが” のときですね」

「こっちの世界では “ほそなが” って言うの? そのまんまやな」

「その言い方は何ですの?」

「気にしないで…」

「あとは “はんぶん” と “まんまる” ですわね」

「あはは、わかりやすい言い方だね」


 そうなのだ。この世界にも夜の空に浮かぶ月のような星がある、それも2つも! 大きくて黄色い光を放つ星がポーラ、それより一回り小さくほんのりと赤く光る星がエラと呼ばれている。それぞれの公転速度が違うようで、2つ一緒に見れる時と1つずつしか見られない時がある。2つが並んで、それも真ん丸に見えるときは “瑞星(ずいせい)” と呼ばれ、良いことがある前触れとされているらしい。

 この子の名前も “ほそなが” よりは “三日月” の方がいいでしょ。


「とにかく、私のいた世界ではこの角の形を三日月と呼んで、それにちなんでこの子の名前はミカヅキってつけたのよ」

「わかりましたわ。その子の名前はこれからミカヅキですね!」



 ミカヅキが起きないので、私たちもそこで一晩過ごすことにした。土魔法で壁を作って周りを囲んだ。それからウェンティアに結界を張ってもらった。

 今日はまんまるなエラが夜空に登り始めている。ほんのりと朱色に染まる森には魔獣がいる。だけど、なぜか私は満たされた気分で眠りについた。



読んでくださり、ありがとうございます。


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