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魔王様には、ならないで! 〜死にループした暗殺者の皇女は、魔法学院で王子と精霊に溺愛されました〜  作者: 卯崎瑛珠
三章 未来を変えるには、強引に行きます

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21. チートパーティ


 魔法学院の一年生は大ホールへ集められ、ダンジョン踏破まで騎士団によって警護されることとなった。

 一方の二年生はダンジョン近くまで引率され、改めて担任のドグラスが状況を説明する。


「皆さんのうちの誰かの軽率な行いが、このような事態を引き起こしました」


 厳しく硬い声は、いつもの温厚な先生という様子とは全然違う。何人かが、罪悪感のためかサッと目を伏せた。

 事の深刻さが十分に伝わる態度だ、とマナは唇を噛み締め耳を傾ける。


「ダンジョンが呪われるようなことを、学院の生徒が行なったなどとは考えたくはありません。ですが、そうとしか考えられません」


 ドグラスの発言に対して、許しもなく声高に反対意見を言うのは、セスト・パルヴィスとメリル・ルグランだ。

 

「我々の誰かがわざと行った、と? 証拠はあるのか」

「その通りですわ! なんだか一方的に責められているように感じます」


 その他の生徒たちも、何か言いたげにじっとドグラスを見つめている。メルギウスは、表情を変えず前へ進み出た。精霊王オベロンから、ダンジョンへ無断で潜る生徒が何人もいたことを聞いていたことは、明かせることではない。どうする気なのだろうか、とマナはハラハラしながら見守るしかできない。


「僕は、魔導師団長エリゼオからこのダンジョンのクリアもしくは破壊を命令された」


 途端に、生徒たちがどよめく。


「今不満を挙げた二人が生徒を代表して、僕たちのパーティの後から記録係としてついてくるのはどうか。中立の立場で王宮と学院へ報告してもらうためだ。いかがか」

 

(なんて、思い切ったことを!)


 マナが瞠目すると、メルギウスはかすかにフッと口角を上げた。セストはそれに煽られ、顔を真っ赤に染める。


「願ってもない。生徒の潔白を、この目で見て証明する!」

「わ、わ、わたくしは……」


 ところがルルは同行を想定していなかったのだろう。完全に逃げ腰だ。マナは同情し、

「メル、あの。記録係はセストだけでいいんじゃないかな? 怖がっているのに連れて行くの、可哀想だよ」

 とフォローを入れたつもりが、

「文句だけで行動を伴わないような人間まで思いやれるだなんて、マナはなんと慈悲深く素晴らしい女性なんだろう!」

 とさらに煽ることになってしまった。

 

「メル⁉︎」


 まんまと激昂したルルが、マナをキッと睨んでからメルギウスに向き直る。

 

「心外ですわ! っ、わたくしも、参ります!」

「よし。呪いはすでにダンジョン内を侵食していて、一刻を争う。今すぐ向かう。いいね」

 

 学院内ダンジョンは、初級魔法使いには適しているが、その分狭い。早く対処しなければ、呪いが表にまで染み出してきて、学院自体閉鎖することになりかねない。


「レンゼンさん、記録係二人の護衛、お願いしますね」

「マナ殿……私は殿下の安全を当然最優先しなければならない。だが、精一杯努力しよう」

「ありがとうございます!」

 

 レンゼンは優しい目で、マナの肩をポンポン叩いた。


   ★★★


 メルギウスが、ダンジョンの最初の試練であった『風の扉』を開けながら、こともなげに言う。

 

「呪いに触れると、命を失うまで侵食される。気をつけて」

「えーっと、触っちゃったら、どうするの……?」


 マナが恐る恐る聞くと、

「魔導師団から聖水をかけてもらうまで、耐えて」

 と明るい笑顔を返された。


「うわあ」


 メルギウスから、『めんどくさいこと起こしやがって』という苛立ちがダダ漏れだと感じるのは、気のせいだろうか? とマナが思っていると、背後からルルが悪態をつくのが聞こえた。


「大体、焦りもしますでしょう。試験も受けていないのにランクCとか婚約とか。世間知らずな男爵令嬢のせいですわよ」

「え、そうだったんだ」

「無自覚ですの⁉︎」

「無自覚っていうか、無知でした。なんか、ごめんね」

「はあ⁉︎」


 悲鳴のようなルルの声が、洞窟にこだまする。気づけば、第二の土の試練の場所まで来ていた。

 ムキになってさらに言葉を重ねようとしたルルを遮って、セストが驚きと恐怖の混ざったような声を出す。

 

「なんだ、これは!」


 メルギウスが、やれやれと呆れ顔で振り返った。

 

「試験の後に聞いただろう? 切り立った崖は、大変じゃなかったかな? と」

「っ……」

「セスト。試験の間、君は何をした? 何をして、精霊を傷つけた」

「俺は! 何も!」

「見てみろ。……光よ、周囲を照らせ」

 

 メルギウスが照明の魔法を唱えると、不意に目の前が明るくなり――崖の向こうでうぞうぞと(うごめ)く黒い何かがたくさん見えている。


「ヒイッ!」


 引き()った顔のルルがセストの腕にすがりついた。セストは鬱陶しそうな顔をして振り払おうとしたが、あまり力を入れても、と思い直したようだ。しかめっ面で奥歯を噛み締めて我慢している。


「何もしていないのに、サラマンダーが傷つくわけないだろう。見てみろ。あれが育つと、モンスターになって棲みつく。そうなったら、手遅れだ」


 冷たい声を出したメルギウスが、前方へ右手を伸ばし、蠢く生物へ手のひらを向ける。


「……焼き尽くせ」

 

 途端に激しい炎が崖向こうに巻き起こり、モンスターの素を焼いていく。

 

「手伝うね!」


 メルギウスの隣に立ったマナが、サラマンダーの力を借りて、炎をさらに大きくする。

 佇まいは無邪気でしかないが、やっていることは物騒すぎた。

 

「う、そ……」

「凄すぎる……」


 学院での実習ではとても披露することはできない規模の魔法に、ルルは恐れ、セストは驚いている。

 

「目で見ないと理解できない。なるほど。こういったことも、必要なのかもしれないな」


 護衛騎士のレンゼンは一人、保護者目線で頷いてから提案した。

 

「殿下。索敵に走ります」

「頼む」


 メルギウスが腕を振るうと、崖がゴゴゴと派手な音を立て対岸とくっついていく。

 完全に崖がなくなる前に走り出したレンゼンは、あっという間に崖を飛び越え対岸へ消えていく。

 規格外な魔法とレンゼンの行動の速さに、セストもルルもあんぐりと口を開くしかできない。

 

「さて、僕たちも行こうか」

「ええ。ルビに会った場所までは、大丈夫」

「あの広い場所か」

「うん。呪いが一番深いのが、あそこなんだと思う」

「ということは、そこに何かがいるに違いない」


 歩き出したメルギウスの肘に手を添え、マナはセストとルルを振り返った。


「行きましょう!」

 

 セストは肩を怒らせるようにして気合いを入れ、足を踏み出す。

 一方ルルは、怯えた表情で立ち尽くしている。


「いやよ! 怖い!」

「でも、記録係でしょう? 大丈夫、守るから」


 マナが説得を試みるが、ルルは拒絶しその場を動こうとしない。


「嫌と言うが、戻る方法はないぞ」


 セストも、ルルへ言い聞かせ強引に腕を引いた。このダンジョンの構造上、入口扉は、内側から決して開かないからだ。


「こんな、こんなのって。ありえない!」


 セストに無理やり歩かされたルルは、どんどんパニックに陥っていく。

 恐慌状態に陥ったのか、次から次へと恨みのようなものを吐き出し始めた。


「大体、なんでこんな暗いとこ二回も! 魔法なんて別にできなくたって……精霊? こんな、化け物!」


 ちょうどサラマンダーと対峙した広場に着いた頃、マナの肩口が燃えるように熱くなったかと思うと、眼前に激しい炎が巻き上がった。

 

(まずい!)

 

『また、バカにしただな』

「ルビ⁉︎」

『ずっと我慢してただよ……でももう、我慢できないだね……汚いだのなんだの、勝手に壁壊したりベタベタ何か塗ったりしたのは、まだいいだよ。んでも、化け物呼ばわりは……ダメだ』

「ルビ! 落ち着いて」


 マナが必死にサラマンダーを落ち着かせようとする横で、メルギウスが苦しげに吐き出した。

 

「呪いで闇の心を刺激されている。精霊は、純粋だからね」

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