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1. ループ

 

 贅の限りを尽くした――ドアノブからカーテンに至るまで、日光に当たればギラギラと輝く素材や質感――部屋に、女性が二人いる。

 

 一人は、気だるげにソファに腰掛け、豪奢なドレスに身を包んだ部屋の主と思われる女性。部屋だけでなくドレスにも、細かな宝飾品がこれでもかと縫い付けられていて眩しく、とても直視できない。

 おそらく、年を重ねた自身の肌から目を逸らさせるためでもあるのだろう。一方で、この国の正妃ならば必ず背後に侍っているはずの侍女長は見当たらない。つまりこの女性は、正妃ではない。

 

 もう一人は、水色の髪で地味なお仕着せに身を包んだ、小柄な少女と言ってもいいぐらいの見た目の女性だ。

 

 豪華な扇の向こうで、残酷な公妾(こうしょう)は少女を睨め付ける。

 

「要らない子。呪われた子。せめて、陛下の役に立ちなさい」

 

 少女は、ただただ、深く頭を下げた。


   ★★★

 

 水色の髪の少女は、冷たい地面に寝転がっていた。仰向けになった目に映る空には暗雲が立ち込め、ゴロゴロと不穏な音を響かせながら、稲光が頻繁に瞬いている。

 

「が、ふ……」


 口からは、とめどなく血が溢れている。鉄のような匂いのする生温かい液体は、髪をべっとりと汚し、土に吸い込まれると黒くなる。喉奥から込み上げるものを必死に吐き出す少女は、体を懸命に持ち上げようと悶えるが、十分な力は残っていないようだ。やがて諦め、首だけを弱々しく横に振るのみになった。

 

 そんな少女のすぐ側に、冷たく赤い目でその一部始終を見下ろすように立つ存在がある。

 

 真っ黒なロング丈のローブに身を包み、長い黒髪は風に揺れるがままで、よく見ると頭頂には黒い角が二本生えていた。

 その男は、なぜか頬を涙で濡らしている。


「はあ。このような世界など、要らぬな」


 独り言のように放った瞬間、男の全身を、真っ黒な炎が取り巻いた。メキメキと音を立て、背中に黒い翼、指には黒い爪が生えていく――その姿はまるで。

 

「ま、おう……」


 少女が吐息のように呟くと、それを聞いた男は、自嘲気味に笑った。

 

「ああ。全て滅ぼしてしまうから。安心して……そのまま死ね」

 

   ★★★

 

 質素な内装の部屋には、小さな窓に机とベッド、小さなクロゼットしかない。

 そのクロゼットは扉が開けっぱなしで、中に制服のようなものが吊るしてある。

 

「あああ!」


 ベッドから飛び起きたのは、水色の髪をした少女だ。

 額にはびっしょり汗が浮かんでいて、心臓が胸から飛び出すのを押さえるかのように、胸に手を当てる。


「はあ、はあ、はあ……えっ!」


 しばらく肩で息を繰り返してから、少女は首を横に振り部屋を見回した後、驚きに目を見開く。


「私、死んだはずっ……生きてる⁉︎ しかもなんで、なんでまた学生寮にいるの⁉︎」

 

 水色の髪の少女――マナは、自分の時間が巻き戻っていることに、愕然とした。

 

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