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8 薬と人体のスペック

 それからどれだけの時間が経過したのかは正確に把握していない。


 薬の副作用で意識が飛んでしまわないように耐えながら、目の前の化物と対峙し続ける為に一秒一秒を全力で駆け抜け続けたが故に、そんな事に意識を割く余裕など一切無かった。

 ただ肉体が限界に近付いている事を実感できるという事は、ある程度の時間は経過しているという事だろう。


「……ッ」


 動悸が激しい。

 頭痛と吐き気に寒気が酷く、脂汗が滲み出る。

 早急に薬の効力をある程度中和させる為の薬を服用しなければならないと、今やるべき事を脳が訴えてくる。


 だけどまだだ。


「まだなんだ……ッ!」


 此処で引けば匂いを覚えたこの化物がアヤの方に向かう恐れがある。

 それは駄目だ。

 アヤが目的のベニセイリュウタケを持って戻って来るまでは……続行だ。

 だけどそうやって自分を奮い立たせよと必死になっていても、結局のところどうしようもない程に限界だったのだろう。


「……ッ!?」


 生い茂る木々の中から射出された矢がグレートベアーの腕に突き刺さったのを見て、自分でも驚く程の安心感が湧き上がってきたのだから。


 そしてその木々の方に意識が一瞬向いた隙を突くように、おそらく打った瞬間から動き出していたであろうアヤがレインの近くの木々の間から飛び出してきて、辛うじて立っていたレインを一瞬で担ぎ上げて走り出す。


「アヤ……」


「大丈夫っすかレインさん! レインさん!? 意識ぶっ飛びかけてる顔してるっすよ!?」


 言いながら道中捨てられていたレインのリュックも掴み、全力疾走でその場を離れていく。

 その速度は……レインの想定よりも遥かに速い。

 この速度で逃げる事に集中すれば、ある程度削りを入れたグレートベアー相手なら逃げきれる筈だ。

 その事実を確認して思わず問いかける。


「お前……は……何錠、飲んだ……?」


 この速度、間違いなくアヤもレインと同じ事をしている。


「ベニセイリュウタケ見付けてからすぐに一錠っす! 約束破ってごめんっすけど! 絶対ヤバい事になってるレインさんに一刻も早く助太刀しなきゃって思って!」


 と、そこでアヤはふと気付いたように声にならない声を上げてから言う。


「って事はレインさんもやってんすか二錠目飲むの!?」


(……二錠目、か)


 この速度を叩き出して一体何錠飲んだのかと心配になったが、最悪な回答では無かった。

 考えてみれば当然だ。


 この手の薬の効力は元となった人間の力を増幅させるものであり、一定量の力を付与する物ではない。

 故に服用した際の上昇値は飲んだ人間のスペックにかなりの割合で依存する。


 元々の素早さがこちらよりもずっと速いアヤなら……ベースとなる肉体のスペックが高いアヤなら、仮に自分が一錠追加で飲む場合よりも高い効力を得られる。

 それ故にこの速度だ。


「俺は最初の入れて……四錠。だから心配するな。二錠飲んで、今の時点でその調子なら……逃げ切ってすぐ対処すりゃ、俺みたいにはならねえ。軽く済む。良かったよ……心配だった」


「いやいやそんな、私の心配なんてどうでも……四錠!? レインさん四錠!? はぁ!? ぜ、絶対ヤバい奴じゃないっすか! ど、どうすれば……」


「自分の処置は……自分でやるよ」


 言いながら抱えられた体勢のまま、ポーチから青色の丸薬を取り出し呑み込む。

 これが処置。

 身体能力を強化する薬をある程度中和し強制終了を促す為の薬だ。


 もっとも完全ではない。

 これ以上酷くはならないが、此処から先暫くは副作用と戦わなければならないだろう。


「アヤも落ち着いたら一錠、飲んでくれ」


「わ、分かったっす……それでレインさんは大丈夫なんすか!?」


「……辛うじて大丈夫だ。ベニセイリュウタケも見つかったし……全てにおいて、大丈夫」


「いや全然大丈夫そうじゃ……」


「大丈夫だよ」


 そう答えるが、窮地を脱した事により張りつめていた気持ちが緩み始めた。

 先の丸薬の事も伝えた訳で、もう此処で一旦止まっても良いだろうと全身が訴えている。

 今回はそれに従う事にした。

 というより抗う事が出来ない。


「……でも悪い、ちょっと寝る。王都に着いたら叩き起こしてくれ」


「ちょ、レインさん!?」


「わりぃ、頼むわ……ほんとわりぃ……」


 そう告げた所で完全に限界を超えて、意識がブラックアウトした。

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