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7 勝利条件

 次の瞬間、接近してきていたグレートベアーの正面に躍り出て側頭部に蹴りを叩き込んだ。


 直撃を喰らったグレートベアーは大きくバランスを崩し、そのまま地面を勢いよく転がって、生い茂る木々をなぎ倒していく。


「よし!」


 最低限の手応えを感じられ思わず声を上げた。

 心拍数が上がり激しい頭痛が頭に響き始めているが、その代償から得られる対価としてはあまりに大きい。

 素人の近接格闘で叩き出せる成果としてはあまりにもだ。


 だがまだ圧倒的に足りない。

 あくまで最低限。

 勝ち目がないところから勝てる可能性が感じられるところまで身体能力を引き上げられただけで、その一撃で屠れるなんて事は絶対に無い。


「……ッ!」


 側頭部に蹴りを叩き込んだにも関わらず、脳震盪を起こした気配もなく立ち上がったグレートベアーはその場で勢いよく腕を振るった。

 そのモーションで繰り出される攻撃は知っている。


(斬撃……ッ!)


 鋭い爪と剛腕から繰り出される斬撃だ。

 以前後方支援担当ながら戦った事が有るから知っている。


 だが、その威力は桁違いだ。


 大幅に強化された動体視力と聴力に嗅覚、脳の演算能力の全てを駆使して、それで辛うじて攻撃を躱した次の瞬間、後方に生い茂る木々が十数本単位で薙ぎ倒される轟音が耳に届いた。


 その音だけで、通常有識者の中で語られるグレートベアーの強さではないのが理解できる。

 十中八九、今の状態でも当たれば即死だ。


 やはりこの怪物はSランクのパーティが全力で戦ってようやくどうにかなるレベルの化物。

 いくら薬の力で能力を盛っているとはいえ、後方支援担当の薬剤師が一人で対峙して良い相手ではない。


 だからといって、やる事は変わらないが。


 再び放たれた斬撃を掻い潜りながら接近し、勢いそのままに胴体にドロップキックを叩き込んだ。

 そして先の一撃のように木々を薙ぎ倒しながら地面を転がるグレートベアーを、同じく体制を崩し地面を転がりながら目視で確認しつつ確信する。


(ワンチャンあるかと思ったけど……まあ殺し合いって意味での勝ち目はねえな。つーか頭痛ぇ…………鼻血まで出てきやがった)


 普段から前衛を張っている人間が同じ事をすれば話は別かもしれないが、こちらは基本後方支援を担当していた薬剤師だ。

 近接格闘の経験も殆ど無ければ、ベースとなる肉体のスペックも足りない。


 故に半ばごり押しで表面上なんとか優性に戦えてはいるが……視界の先でやはり平然と立ち上がって来るグレートベアーを見て分かる通り、こちらの一撃一撃が軽く、殆ど効いていない。

 このまま戦い続けて勝てたとしても、それはかなりの泥仕合の先の勝利だ。


 そしてそこまで体が持たない事は、自身の身長や体重などを考慮して限界ギリギリの量の丸薬を呑み込んでいる自分が誰よりも正確に理解できる。

 全ての能力値が限界突破し、五感からあらゆる情報を吸収できている状態と、それら全てを手放しかねない程の意識レベルの低下が強制的に理解させて来る。


 とにかく言える事はただ一つ。

 やるべき事はただ一つ。


 此処から先、今の調子で勝ちにつながらない戦いを続けつつ、体の内側から蝕んでくる副作用と戦い続ける。

 アヤが戻って来るその瞬間まで。

 それができればこちらの勝ちだ。


「まあ分かりやすい勝ち方が見えている分、楽勝だよお前の相手は」


 未知の病への対処と比べれば。旧来の医療従事者として活動していく事と比べたら。


 決して向いているとは思えない冒険者なんて仕事を副業としてやっている真の目的の達成と比べれば、圧倒的にイージーだ。

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