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6 奥の手

 その後何度か戦闘を繰り返しつつも、辛うじて怪我を負わずに目的のポイント付近まで到達する。本当に辛うじてだ。


「レインさん……これ一人でやろうとしてたの…………マジっすかぁ……?」


「お前があの場に来てくれてなかったら……今頃死んでるんじゃねえかなぁ……ッ」


 お互い相当に体力を使った事もあり、息切れしながらそんなやり取りをする。

 そしてそんなやり取りをしながら身に付けたポーチから薬を二錠取り出したレインは、その一つをアヤに手渡した。


「これは?」


「一時的にある程度疲労感を飛ばしてくれる奴だ。それ飲んで無理できる分後でツケは回って来るけど、こんな状態で無理するよりよっぽど良いだろ」


「確かにこのまま戦い続けるとやべーっすからね。一錠頂くっす」


 そして二人ともその薬を飲んだところでレインは言う。


「……さて、前聞いた話じゃここら辺に目的のブツが生えてる訳だけど」


「一応特徴は聞いたっすけど私現物見た事無いんで……間違えないっすかね。なんか毒キノコ採っちゃったりとか」


「ベニセイリュウタケに近い特徴のキノコはこの辺には生えてねえ筈だ。そもそも赤と青のラインが縦縞に入ったキノコなんて他に知らねえし」


「確かに……っていうか毒キノコみたいなビジュアルっすね改めて聞いても」


「薬の素材としては使えるけど普通に毒あるから、食べると食中毒になるぞ」


「ま、まあそんなやべービジュアルのキノコ食べないっすけど」


「あと一応言っとくけど、他のヤバそうなキノコは下手に触るなよ。毒キノコの中には触れただけでアウトな奴も結構あるから。もし触れちまったらすぐに言ってくれ。解毒剤作るから」


「頼もしいっすねー」


 そんなやり取りを交わしながらも各々周囲に注意しながら歩くと、そこでアヤが声を上げる。


「レインさん!」


「どうした、見つかったか!?」


「いや、あれ……」


 アヤが指さしたのはキノコが生えてそうな地面では無く、正面方向。


「……?」


 言われて強化された視力で正面を注視すると……何かいた。

 生い茂る木々の先に、ライトニングラビットなどとは比べ物にならない巨体の化物の姿が見える。


 そのビジュアルはこれまでの冒険者生活の中で何度か見た事が有る。

 グレートベアー。

 全長三メートル弱の漆黒の獣。

 大きな個体でも全長三メートル弱程度……だった筈だ。


「れ、レインさん……あれなんかデカくないっすか」


「三メートル強……いや、四メートル位あるんじゃねあれ……えぇ……」


「グレートベアーって目と鼻が凄い良かったと思うんすけど……なんかこっち見てないっすか」


「滅茶苦茶見てんなぁ。ロックオンって感じじゃん」


「「……」」


「レインさん!」「アヤ!」


 二人同時に声を上げて来た道を全力で引き返す。


「あ、アレは流石にマズいっすよアレは! 控えめに言ってマジでヤバイっす!」


「クソ、なんであんな馬鹿デケエ奴……!」


 言いながら後方に視線を向けるが、先程のロックオンという言葉は的を得ていたのだろう。

 こちらに狙いを定めて二足歩行でかなりの速度で追ってきている。


(……まさか人が立ち入らなくなっただけで生態系変わっちまったのか!?)


 推測できる可能性としては、ここらで取れていた希少な素材が人間に採られなくなった分あの化物が食すようになった結果、妙な成長の仕方を遂げてしまったとか。


 ……だが成長の理由なんてのはどうでも良い。

 問題は明らかにフルメンバーのパーティでぶつかってようやくどうにかできるレベルに思えるあの化物をどう対処するかだ。


(とにかく時間を、稼ぐ……ッ!)


 ポーチから木の実と粉末状にした薬品を取り出して木の実にふりかけ、向かってくるグレートベアー目掛けてぶん投げる。


「アヤ、後ろ向くな!」


「了解っす!」


 次の瞬間、木の実と薬品が化学反応を起こして強烈な光が炸裂する。

 お手製の閃光玉だ。


「どうだ……ッ!」


 背後を振り返ると今の一撃で目にダメージを与えられたのか、グレートベアーは途中で立ち止まっている……逃げきるチャンスだ。

 全部諦めるなら。


「よし、効いたみたいっすね……で、どうするっすか? 稼いだのは作戦会議の時間っすよね」


「お前が良いならそうしたいけど……どうだ?」


 流石にこの状況で我は通せない。

 場合によってはアヤだけを逃がした上で作戦を立てなければならない。だけどアヤは言う。


「悪かったら此処まで来てないっすよ」


 そう言ったアヤと共にその場で立ち止まり臨戦態勢を取る。

 本当に……本当に心強い。

 だったらこの場は二人でどうにかする。

 頼らせてもらう。


「ありがとう。で、とにかく何をするにしてもあの化物をどうにかする必要がある」


「多分真正面から普通に戦っても私らじゃ勝てねえっすよ」


「だろうな……」


 臨戦態勢は取っているものの、まともにやって勝てる見込みがあるならそもそも逃げずに迎え撃っているわけで。

 そしてまともから逸脱しても勝てるかどうかは怪しい訳で。

 だけど見込みがないところから、怪しい程度にまで可能性を引き上げられるなら十分だ。


「アヤ、一つ頼めるか?」


「なんすか?」


「俺がアイツを足止めするから、アヤは迂回してさっきのポイントまで戻ってなんとかベニセイリュウタケを見付けてきてくれ」


「……え?」


「勿論ああいう個体が他にいるなら……いや、そうじゃなくても一人じゃ無理な相手が出てきたらもうキノコ探しなんかどうでもいいから、なんか合図出して逃げてくれ」


「いやいやいや、こっちはともかくアレ足止めって……レインさん一人で!?」


「無茶に聞こえるのは分かる。でも死にに行くとかじゃねえよ。ちゃんと策はある」


 嘘は言っていない。ちゃんとある……真っ当じゃない策なら。


「どうする、アイツはもう動き出すぞ。そっちに注意が行かねえようにも俺はもう動かねえと」


「……ッ」


 アヤは声にならない声を上げながらもこちらの目をじっと見て、やがて決心したように声を上げながら動き出す。


「速攻で見付けてくるっす! マジで無理しないでくださいっすよ! 約束っすからね!」


「おう!」


 そう言って茂みの中に入っていったアヤを見送った後、すぐさま視線を既に動き出そうとしているグレートベアーへと向ける。


「……さ、やるぞ精一杯。やれる事を限界一杯まで」


 約束を早速破る事にはなるが、此処からは最大限無理をする。

 手始めに背負っていたリュックサックをその場に置いた。

 状況に応じて薬品を調合する為の素材が詰められた薬剤師の必須道具ではあるが、この状況に挑むには重い荷物でしかない。

 主に薬宝の森に突入する前に調合した薬品や、先程の閃光玉の素材のように緊急性がありそうな物だけが詰められたポーチがあればそれで良い。


 そして正面に足取りを向けながら、そのポーチから三錠の丸薬を取り出す。

 薬宝の森に足を踏み入れる直前にアヤと飲んだ、身体能力などを総合的に引き上げる薬。


 一度に服用可な数は一錠。

 二錠目は薬が切れる二時間が経過した段階で初めて良しとされる。

 そんな錠剤を、一錠目の効力が切れていない状態で更に三錠。


「やっぱ二錠半……いや、三錠だ。限界は此処だ……日和るなよ」


 そして小さく息を吐いてから。


「人の命が掛かってるんだ!」


 覚悟を決めてそれらを一気に呑み込んだ。


 行ったのは紛れもない薬物の乱用。

 調合した薬剤師自らによって取り行われる、自他ともに決して推奨してはいけない過剰摂取。


 そうして手にしたのは圧倒的な諸刃の剣。

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