8 同業者からの評価 上
「あなたは?」
「たまたま日帰りで温泉に入りに来た地元の人って言えば良いか……いや、ちょっと待てよ。待ってくれ。なんだか違う気がしてきたぞ」
「……?」
「俺は王都で冒険者をやっていて地元には久々に帰省しているだけなんだが、この場合俺の紹介は地元の人間で有ってると思うか? どちらかと言えば王都の人間なんじゃあないのか」
「えっと、あなたが地元の人間って思うなら地元の人間って事で良いんじゃないですかね」
「よし、じゃあ俺は地元の人間だ。シティーボーイと地元の人、うまく使い分けていこう。ところで兄ちゃんは旅行者かな?」
「まあそんなところです……っていうか冒険者って事は同業者ですね俺達」
「おお、兄ちゃんもか。じゃあ今後、一緒に仕事をする事もあるかもしれないな」
「ですね」
冒険者のパーティは基本三、四人で組まれる事が多いが、依頼内容によっては複数のパーティが合同で事に当たるというケースも稀にある。
だから実際、そういう事もこの先あるのかもしれない。
そういう意味でも、そして多分気を使って声を掛けてくれたという意味でも、邪険に扱うという選択は無い。
「その時はよろしくお願いします。ああ、俺はレインって言います。レイン・クロウリー。薬剤師をやっています」
こちらの自己紹介に、男の眉がピクリと動く。
(……薬剤師ってのが引っかかったか?)
上に行けば行くほど、薬剤師のポジションは賢者に取って代わられる。
それ故に薬剤師という紹介だけで、冒険者として大したことがないと考えられるのは残念ながら一般的な考え方であり、この男も薬剤師なら一緒に仕事をする事は無いなとどこかで考えたのかもしれない。
そしてそんな男は一拍空けてから口を開く。
「俺はラグナだ。ラグナ・ルーベル。弓使いをやっている。以後よろしく」
そこまで自己紹介をした後、ラグナは言う。
「本当は旅行者に見えるアンタがなんか浮かない顔をしていたのを見てお節介かもしれないが話を聞いてやろうかなと思った訳だが……どうやら少し事情が変わったみたいだな」
「……?」
「世の中狭いな。そして人の縁ってのは奇妙な物だ。互いの活動拠点に居た時は顔を合わせる機会が無かったのに、こうしてそこから遠く離れたところにやってきて初めて出会う事もある」
「あの……あなたは……」
「ジーンとロイド。この二人の名前は知っているな」
「……ッ!?」
「その反応を見る限り、やはりアンタはあのレイン・クロウリーだ。会えて光栄だよ。一度話して見たかった」
「いや、ちょ、ちょっと待ってください。あなたはアイツらとどんな……」
「一度だけ組んだんだ。アンタの代わりにパーティに入ったらしいリライタルという一級賢者と一緒に、名前は聞いてないが……俺も元居た弓使いとの入れ替わりでな」
「……」
「自分のところのパーティが今も継続して長期の休業中だったからよ。一時的に世話になるつもりでな。その一回限りでもう抜けたが」
そして同情するような表情を向けてラグナは言う。
「詳しい話は聞いてないが、一度の仕事で色々と察せられる情報は得られた。大変だったな」
……そして、と間を空けてからラグナは微かに笑みを浮かべてレインの目を見て言う。
「アンタに自覚があるかは分からないが、アンタはきっととんでもなく優れた薬剤師だ。あの連中に無能だの何だのと言われていたのだとすれば、それは全て忘れるべきだ」
「……俺が抜けた後、何が有ったんですか?」
初対面なのにこちらを持ち上げてくる彼の言動がよく理解できなくてそう問いかけると、苦い思い出を思い出すように彼は言う。
「アンタと組んでた二人だけどな、とてもSランクに上がってこれるような実力じゃ無かったんだ。勿論弱いわけじゃあないが……俺から見ても立派な力を持っていたリライタルっていう一級賢者の強化魔術を付与されてなお、全く実力は足りていない」
「……え?」
何を言っているのかよく理解できなかった。
否、ある程度理解はできている筈なのだ。
だけど突然言われたそんな言葉に対し、自分を肯定するだけの……理解して受け止めるだけの自尊心が足りていない。
そんな反応を本当に何も理解できていないとラグナは捉えたのか、彼は笑みを浮かべて言う。
「多分アンタは賢者の強化魔術を付与された事が無いな? そして付与された事が有る奴と組んだ事もない。だからピンと来てないんだろうけど……アンタの薬の効力は、一級賢者の強化魔術よりも優れてるって事を俺は言いたかった。当然副作用なんかの問題もあるだろうから、上位互換とは言えねえさ。だけどそれでもあの連中をSランクまで引っ張り上げたのは紛れもなくアンタの薬のおかげと言うわけさ……誇って良い。アンタは凄いんだ」




