4 良い賢者と悪い賢者
「ああ、おはよう二人共」
「おはようございます」
とりあえず二人に挨拶を済ませると、アスカが何かに気付いたように言う。
「どうしました? 二人共難しい顔して」
「あんまり晴れって感じの表情じゃないっすけど……」
「……何かありました?」
アスカの問いにリカが答える。
「アヤさんの地元には私達みたいな旧医療従事者がいないんだって話をしてまして」
「それで俺やシエスタさんが危惧していた未来のモデルケースみてえだなって。そういう話」
「それは……お二人にとっては確かに暗い話ですね」
「そして最終的にもっと色々な人にとって暗い話になりかねないと」
アヤは小さくため息を吐いてから言う。
「我が地元ながら、中々悩ましい状態っすよね……」
「ちなみにアヤさんが王都に出てくるまでの間は、特にトラブルは無かったんですか?」
「そうっすね。私の村に居た賢者さんは一級っすから実力は折り紙付き。それに物凄く頑張ってる人ですしね。受け身じゃなくて住民の家を定期的に回って、変わった事が無いかとか聞いて回ってたりしますし」
「医療に携わる者から見てもすげえ好感持てる立派な人だな。文字通り地域医療を支える医療従事者だ」
「それならそれこそこの前のアスカさんみたいな事がなければ、問題が起きようがないって感じですね」
「まあ賢者さんの過労が心配されるっすけど」
「私の時の、えっと……あのリライタルっていう賢者とは大違いですね」
「賢者で一括りにしたら可愛そうっすよ」
「アイツの場合、一般的な賢者とも一括りにはしたくねえけどな」
「……さっきとは比べ物にならないほど嫌な顔したっすね」
「そりゃ……俺アイツの事嫌いだし」
ちなみにその嫌いな相手とこの一ヶ月間で顔を合わせたのは一回だ。
患者を連れてきたのではなく、偶然ばったり顔を合わせたのが一回。
『私は一級賢者で優秀なのです! やはりこの前のような事など基本起きない! 故にこれからも薬剤師如きの力を借りる事はないでしょう!』
そう言って高笑いしながら言うだけ言ってどこかへ消えていった。
あんなクズでも賢者の絶対数が足りないから仕事は山のようにあるし、そして高らかに笑える程にはうまくやれているのだろう。
そんな風に本当に生理的に無理で腹が立ってぶん殴りたくなるような奴ではあるが……一ヶ月近く経った今でも、本当にどうしようもなければこちらを頼る……もとい使うつもりでいるのは進展と言えるだろうか。
あの日の後日、アスカからはなんであんな奴と名刺交換なんてと酷く困惑はされたが、それでもあの行為に価値は有ったのだとそう思う。
ある筈だ……多分。
おそらく。
「私が言い始めたのに申し訳ないですけど、あの賢者の話はもうやめましょう。シンプルに不快なので」
「それもそうだな」
レインとしてもできる限りは忘れていたい。
忘れる為にも話を戻そう。
「とにかく、そんな賢者が頑張ってるから村では目立った問題は起きていない訳だな」
「……まあ一応私が村を出る少し前位まではお医者さんも一人残ってたっすから、100%あの賢者さんのおかげって訳じゃないっすけど」
「そうなのか?」
「まあお察しの通り賢者さんの独壇場っすから。何%がその人の分かは分からないっすけど」
「でも……やっぱり辞めちゃったんですよね」
「まあ色々と限界だったんじゃないかって思うっす……色々と」
何か思うところのあるようにアヤはそう言う。
もしかするとアヤの知人とかだったのかもしれない。
そう考えるとアヤが旧医療従事者に偏見を持たず理解を示してくれるのにも頷ける。
……あまり明るい方に話が発展しなさそうなので、その辺りの事を追求はしなかったが。




