2 向かうべき場所
金が無いという悲しい話を交えながらも食事は続き、最終的に意地を見せて会計を終える。
……しばらく私生活は要節約である。普段から常に心がけてはいるつもりだが。
「いやー美味しかったっすね。私大満足っすよ」
「そりゃ良かった」
「またその内何もなくてもご飯行きましょう。というか遊びに行くっす。今度は割り勘っすよ」
「そうだな」
「……今一瞬いい表情浮かべたのは、友達と遊びに行く約束ができた喜びっすかね。割り勘の喜びっすかね」
「ゼンシャダヨ?」
「まあそういう事にしておくっす」
……実際のところ本当に前者ではある。
アヤは普通に友達を遊びに誘った位の認識だろうが、こちらとしては普通に嬉しい提案だ。
割り勘である喜びというか安堵は少ししかない。
と、そんな楽しい話を交えながら帰路につく。
……そう、帰路。
もう終わりだ。
そんな今だからこそ、するべき話がある。
今日どこかのタイミングでこの話を切り出すとすれば、きっとこのタイミングだった。
「なあ、アヤ」
「なんすか?」
「……中々切り出しやすい話題じゃねえから此処まで引っ張ったんだけど、お前に言わないといけない事があるんだ」
「え?」
アヤが驚いたような表情を浮かべ、そして何故か頬を人差し指で掻きながら視線をそらす。
「な、なんすか?」
……なんだかこちらが勘違いしそうな反応を見せるアヤに、ちゃんと本題をぶつける。
「実は飯行く前に一回家に帰った時に知ったんだけど、シエスタさんの実家からウチの診療所に電報が来てたんだ」
「あ、そういう話っすか」
一瞬肩を落としたアヤは、それでも一拍空けてから真剣な声音で言う。
「そりゃ美味しいもの食べて楽しむぞってタイミングで話しにくいっすね……いやこのタイミングでもというか、明日でも……なんて訳にもいかないっすか」
「……ああ。流石に今日中に話しときたいなとは思ったからさ」
一ヶ月経って元の生活には戻ることはできている。
だけどそれは亡くした人間への気持ちが風化している訳ではなく、ただ感情を整理してメリハリを付けやすくなったというだけの話で。
少なくとも翌日にまで話を寝かせるような事をするつもりは無かった。
「それで手紙には何書かれてたんすか?」
「シエスタさんの遺品の日記に、俺の事が書かれていたらしい」
「へぇ」
「一緒に切磋琢磨する同業者として書かれてたんだと思う。つまりご両親からすれば俺は娘が地元を離れて頑張っていたのを見ている人間なんだよな」
「……まあ確かにそういう事になるっすね」
「だからこっちに出向くから話を聞かせてくれないかって、そういう内容だった」
「それで、今日来たって事はまだ返信してないんすよね。なんて返すんすか?」
「こっちから伺いますって返すつもりだ」
呼んですぐに決めた答えをアヤに伝える。
「あれから一ヶ月だ。葬儀はシエスタさんの親族だけで行われたし、その後も結局査定用の依頼受ける日程をギルド側に組まれたりとかもあって墓参りにもいけてないしな。いい機会だろ」
だから返信前に皆の……特にアヤに話を通して置かなければならなかった。
「シエスタさんの両親に顔合わせにいって、墓参りにも行く。お前も墓参りに行くって行ってたよな。着いてきて地元案内してくれ」




