表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
医魔のアスクレピオス~不遇職【薬剤師】はS級パーティを追放されても薬の力で成り上がります~  作者: 山外大河
1章 賢者と薬剤師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/33

ex 賢者と薬剤師 上

(……まったく、昨日は酷い目会いました)


 一級賢者リライタルは、冒険者ギルドを後にしながら不機嫌さを顕にしながら内心でそう吐き捨てる。


 彼が今日冒険者ギルドへやってきたのは、元仲間達に伝言を残すためだ。


 昨日の一回限りで冒険者をやるのは止める事にした。

 このまま続けていてはあのレイン・クロウリーという憎たらしい薬剤師に対する劣等感がより一層積もってしまうと思ったからだ。


 自分の方が……一級賢者の方が薬剤師よりも優れている筈なのに。


 だからその唯一の汚点から背を向けた。

 否、見るべき方へと向き直した。


 今回冒険者家業にまで手を伸ばしはしたが、賢者は本来医療従事者である。

 そして薬剤師も冒険者を行うのは本来の業務からかけ離れているといえる。


 そう、自分が負けたのは本来のフィールドの外側。

 いわば場外乱闘で負けたに等しいのだ。


 だからこそ本来の領域へと戻ってきた。

 その為にあの二人にパーティを抜ける旨の伝言を残してきたのだ。


 もっともこれからも冒険者としてやっていこうと思っていたとしても、薬剤師に下駄を履かせてもらっていただけの無能な上に、自分を経歴詐称と罵った連中と組む気は無いわけだが。


 ……無能と言えば。


(そういえば今頃彼はどうしているだろうか?)


 確かに冒険者としては有能だったかもしれないが、医療従事者としては無能でしかない薬剤師の顔を脳裏に浮かべる。


 彼はあのどうやっても手の施しようのない少女を救うつもりだった。

 やれるはずの無い事をやると啖呵を切ったのだ。

 一級賢者である自分が無能であるという誹謗中傷を添えて。


 思い返すだけで馬鹿馬鹿しく、愚かしく、そして腹立たしい。

 ……そんな彼は今頃絶望しているだろうか。していれば良いなと思う。


 当然助けられる命が絡んでいればそんな不謹慎な事は絶対に考えてはいけないとは思うが、どうであれ助けられなかった命だ。

 どうせ死ぬ命に関わっているなら、気にする事もない。

 どうしようもない程の曇り顔を浮かべていれば良いなと強く……強く渇望する。

 そしてそんな風に求めていただろうか。


 レイン・クロウリーとばったり鉢合わせた。


「……ッ!?」


 あまり明るい表情ではないがそれでも自分が想定していた表情とは違うものを浮かべている彼と。

 自分が加入し脱退したパーティに所属していた馬鹿みたいな喋り方をするアヤという女と。


 そして……本来であればもう死んでいなければおかしい筈の少女と。


(馬鹿な……一体私は何を見ていると言うのだ)


 まるで亡霊でも見ている気分だった。

 だけどこちらに気付いて不快感と警戒心を向けてくる少女は決してそんなオカルト染みたものではなく……明らかに血が通って生きている。


「誰かと思えばアンタか。奇遇だな、こんなところで」


 レイン・クロウリーもこちらに気付いたらしく、一瞬驚いたような表情を浮かべた以外は固い表情のままそう声を掛けてきた。

 そして進行方向もあってかこちらに近寄りながら彼は言う。


「尽くしたぞ、最善を」


「貴様……ッ」


 ……色々とこの短期間で溜まっていたのだと思う。

 その言葉を聞いた瞬間糸が切れるように、気がつけば言葉ではなく手が伸びていた。


 掴みかかろうとしたのだ。

 レイン・クロウリーに。


 その後どうするかなどの計画性が有ったわけではなく、ただ衝動的に。

 だが次の瞬間、視界がぐるりと回転したかと思えば背中に強い衝撃が伝わる。


「今この人に何しようとしたんですか!」


 その声が耳に届いてようやく、一瞬で自分達の間に割って入った少女に背負投げを食らわされたのだと気付いた。


「お、お見事っす……」


 どこか唖然とするようにそう言うアヤや自分を置き去りにするように、強い怒りを少女からぶつけられる。


「あなたはあんな事だけじゃなくて、人に暴力まで振るうんですか!」


「……ッ」


「ふざけるのもいい加減に……ッ!」


「アスカ、ストップ」


 アスカと呼ばれた少女の肩に手を置いて止めたのはレインだった。


「悪い、アヤ。コイツと話があるから、アスカを連れて先に行っててくれないか」


「え、いや、それは良いんすけど……」


「ちょ、レインさん! この人また何かしてくるかもしれませんよ! 大丈夫ですか!?」


「その時は自分でなんとかする。守ってくれたのはありがたいけど、今のアスカじゃ過剰防衛っつーか、次があったらやり過ぎそうでさ。それにアスカはもうコイツの顔を見たくねえだろ」


「それはレインさんも同じじゃ……」


「言ったろ。俺はコイツに話があるんだ……そんなわけでアヤ、頼むわ」


「りょ、了解っす。ほら、行くっすよアスカちゃん」


「は、はい……」


 アスカと呼ばれた少女は最後にこちらを一睨みした後、アヤに連れられて冒険者ギルドの中に入っていく。

 そしてこの場にはこちらに視線を向けながらも去っていく通行人。

 何人かの野次馬。

 そして。


「まあそんなに時間は取らせねえよ。ただいくつかお前に言いてえ事があるだけだからさ」


 自分とレイン・クロウリー。賢者と薬剤師が残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ