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医魔のアスクレピオス~不遇職【薬剤師】はS級パーティを追放されても薬の力で成り上がります~  作者: 山外大河
1章 賢者と薬剤師

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15 価値ある人間

「今のレインさんの話を踏まえて考えると……うまく行ってなかったんですかね」


「……分からない」


 否、分かる。

 きっとうまく行っていなかったのだ。


 自分に価値が見出だせなくなる程に。


 ……アスカの話だとシエスタがパーティに入って来たのはつい最近という事になる。

 そしてそれより前から冒険者をやっていた筈のシエスタが新たに加入するという事は……以前所属していたパーティを抜けたからという事になるだろう。


 それが円満な移籍だったのならば、自分は分かった気でいるだけで見当違いな事を考えている事になる。

 見当違いであってくれる。

 だけど今日自分の身に起きた事を考えると、どうしたってそうではない可能性にバイアスが掛かる訳で。


『やあやあ元気でやってるかい、レイン君。私? 私はアレだよ。元気元気の超元気だよ!』


 顔を合わせるとそんな明るさを見せていた彼女が、裏では自分と同じかそれ以上の目に……下手したら何度も合っていたのだろうと考えてしまう。

 ……アスカの口振りを見るに、その答えを彼女は持っていなさそうだけど。


(……此処までだな。これ以上は駄目だ)


 だとすればこの方向性での話をこれ以上広げる訳には行かない。

 それはきっと彼女の名誉を余計に傷付ける事に繋がると思ったから。


 自分達の知らない事を。

 有る事無い事を憶測で話し続けるような事をする訳にはいかない。

 自分達が患者の前でするのは、きっと前向きな話だけでいい。


 ……そう、前向きな話だ。

 籠る感情はとても前向きな物とは言えないかもしれないけど、それでも彼女の為にこれだけは言っておかなければならない。


「シエスタさんのこれまでの事は分からねえよ……だけどアスカが此処にいるのは大前提としてシエスタさんのおかげなんだ。だから……だから頼む。お前はあの人の事を、価値の無い人間だなんて思わないでやってくれ。あの人を……肯定してやってくれよ」


「……当たり前じゃ無いですか。言われるまでも無いです」


 アスカは小さく息を吐いてから、静かに……それでも強い意思の籠った声音で言ってくれる。


「ボクは大きな価値のある人達に、助けて貰ったんです」


 分かっていた。

 アスカがシエスタの事を悪く思っていない事位。

 だけどそれでも言葉で聞きたかったのだ。

 聞いたところでそれをシエスタに届けてやる事は出来ないのは分かっていても、それでも。


(……しかし人達、か)


 自惚れでなければ、きっとその言葉には自分も含めてくれているのだろう。

 だけど果たして自分にはシエスタ程の価値が有るのだろうか。


 価値ある人間になれるだろうか。


 ……どうであれ、尚更折れる訳にはいかなくなった。

 現状の自分がどうであれ、価値ある人間だと自他共に認識できるように精進していかなければならない。


 そうする事が結果的に自分だけではなく薬剤師の……旧医療従事者の。

 シエスタの価値を証明する事にも繋がるだろうから。


 ……その為にも行動を起こさなくてはならないだろう。

 自分を今の道に導いた先輩が九割九分亡くなってしまった今、すぐに大きな動きを見せるような事は流石に勘弁してくれとは思うけれど、それでも今の状態でもやれる事ならやっておいた方が良い。


「……なあ、アスカ」


「なんですか?」


「一つ提案というか、相談したい事があるんだ」


「ボクに……ですか?」


 その言葉に頷いてからアスカに言う。


「今回みたいな事があって、まだ冒険者を続けるつもりがあるんだったら……俺とパーティを組まないか?」


 やるべき事……最終的な目標に至る為に必須な行動。


「ボクとですか? いや、ちょっと待ってください。今ってパーティを組んでいないんですか?」


「今日、俺達と一悶着有った賢者と入れ替わる形で追放された」


「……ッ!?」


「だから俺は今フリーなんだ。だけど最終的な目標を考えると、このままじゃいけない」


「レインさんの目標……いや、でもボクにはそこまで対した実力は……」


「……何よりもまず偏見の有無だ」


「……」


「シエスタさんの事、そして今日俺の身に起きた事を考えると、普通にパーティを組んで上を目指しても、上に行けば上に行く程切り捨てられやすくなる。だから……大前提として旧医療従事者に偏見を持っていない奴と組まなきゃ駄目なんだ」


 だとすればアスカは理想の人材だ。


「……お前ならきっと大丈夫かなって。そう思ったんだ」


 現状、大丈夫だと思って勧誘できるのはアヤ以外だとアスカだけだ。

 具体的な実力は分からないが、こちらにとって何よりも重要視したい要素を持っている、この先出会えるか分からない程の希少な人材なのだ。

 だから……そのお願い。


 当然、望みは薄いとは思う。


 パーティが全滅した。

 自分も死にかけた。

 その経緯でその仕事に復職しようと思えるかどうかを考えれば、頷いてくれる可能性がどれだけ薄いものなのかは明白だ。

 正直酷な事を言っているかもしれない……だから、本当に無理なお願い。


「……どうかな?」


 その問いに、少し間を空けてからアスカは答える。


「……手伝わせてください。ボクにはレインさん達や……シエスタさんに。返さなきゃいけない恩が山程ありますから」


「……助けてもらったからって理由で無理はしていないか?」


 一応の確認に、アスカは少しだけ表情を曇らせて言う。


「まあ少しは怖いですよ……それでもボクがレインさんやシエスタさんがやろうと思った事に協力したいと思った。それだけは事実なんです」


「……そっか」


 どこか安堵するようにレインは息を吐く。

 これでどれだけ目標に近づけたかは分からないがそれでも。

 それでもこの提案を呑んでくれた事実が、自分達の存在を肯定する事に繋がるから。


「これからよろしく」


「はい、レインさん」


 救われたような気分になったって、おかしな事は無い筈だ。

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