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医魔のアスクレピオス~不遇職【薬剤師】はS級パーティを追放されても薬の力で成り上がります~  作者: 山外大河
1章 賢者と薬剤師

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14 命の選択

 そしてそれを聞いてアスカは優し気な笑みを浮かべて言う。


「もっと胸を張って言って良い事だとボクは思いますよ。ちゃんと話を聞いたら、凄く立派な事をやってるんだって思えましたから」


「……そうか」


 そう言ってくれると話した甲斐が有ったと思う。

 話して良かったと思う。

 ……そもそも大前提として人に認めて貰えるような事を生業としてきていないから、そんな言葉一つで気力が湧いて来る……とはいえ。


「凄いですよ、レインさんは」


「ありがと。でも実を言うとな、俺がやっている事って言うのは別の奴の二番煎じというか、影響されてというか……道を示してくれた奴が他に居るんだよな。オリジナルじゃない」


「そうなんですか?」


「ああ。同じ道を歩んでいる先輩が居るんだ」


 一年と少し前、薬剤師の勉強会で知り合った先輩がいる。


『どうだい少年。キミも前向きな気持ちで冒険者をやってみないかい?』


『少年って俺もう17ですよ。あと近々誕生日ですし』


『17歳は少年じゃないかい? あとハッピーバースデー』


『いやどっちかというと青年じゃないですかね』


『ほな少年とちゃうかぁ……ハッピーバースデー青年』


『あと誕生日迎えてないのにハッピーバーデーもおかしくないです?』


『ほなバースデーとも違うかぁ』


 三つ上の女性のその人はその時点で既に冒険者をやっていて、そしてそこに旧医療従事者として大きな目標を持って活動していた。

 今のレインと同じ事を……もしかしたらその時点で他の誰もやろうとしていなかった事を、その先輩はやろうとしていた。そんな尊敬できる薬剤師だ。


「名前をシエスタ・キリロフっていう。称賛の声が送られるんだったら、まずはその人にだな」


 そんな名前を誇らしく言うとアスカは目を見開いた。


 ……まるでその人を知っているように。


 それを見て血の気が引いたのは言うまでもない。

 ここから先の話をする為の助走としてこれまでの話をしていた筈だったのに……かえって踏み込み辛くなった。


 聞いておきたかった事の半分程度が自分の知っている情報だと、そう思えたから。

 そして知らない情報が、自分の知りたくない情報に思えたから。

 そう思っていても尚更此処から先の話を聞かない訳にもいかなくなって、レインはアスカに分かりきった事を問いかける。


「……知っているのか、シエスタさんを」


 そしてアスカも気まずそうにその問いに答える。 


「……つい最近、ボク達のパーティに入ってくれた薬剤師さんの名前がシエスタさんでした。同姓同名の人じゃ無ければ……多分、ボクはそのシエスタさんを知っています」


「……そうか」


 一気に場の空気が通夜のように凍るがそれでも、なんとか言葉を紡いだ。


「……シエスタさんの事で、少し聞きたい事がある。聞いていいか?」


「……どうぞ」


「多分だけどシエスタさんは、ヘルデッドスネークに咬まれたアスカに抗毒血清を打ち込んだ筈だ。そうだろ?」


「……はい」


「その結果アスカは生き永らえたけど、運悪く抗毒血清が致命的に体質に合わなかったが故に最終的にあの賢者に頼る事になった。だけど……それは普通ならおかしいんだ」


「おかしい?」


「ああ」


 レインは力なく頷く。


「抗毒血清は摂取した後、医師や薬剤師による一定期間の経過観察が必要なんだ。もしかしたらアナフィラキシーショックを起こすかもしれない。そしてヘルデッドスネークの抗毒血清の場合は今回がまさにそうだったように少し時間を空けてから心身に異常をきたす事もある。そうなった時に対処する為に、一定期間患者の元を離れてはいけない」


「……」


「まともな医療従事者なら……シエスタさんが関わっているなら、アスカが一人であんな事になっているなんて事自体が有り得ないんだ」


 だからこそ、半ば答えが分かっている疑問が湧いてくるのだ。


「アスカ達に……シエスタさんに、何があった?」


 良くない答えだということが分かりきっている疑問が。


「……あの日、ボク達のパーティは特別難しくもない仕事をしに行ったんです。大した事のない討伐依頼。準備だって万全でした。だけど……そこに生息してるなんて報告が無かったヘルデットスネークが現れたんです」


 ……報告が無かった。それは即ち見つかっていなかったというだけなのだろう。


 現状それを調べる事を生業としている者でも生態系の全てを把握している訳では無いし、仮に把握していてもそれが常に最新の情報とは限らない。


 昨日自分達が遭遇した相手がそうだったように、何かがきっかけで変わる事も充分あり得る話だ。

 でも、だとすれば。


「……よくシエスタさんは抗毒血清なんて持ってたな」


「あの人は本当に準備が良いというか……不測の事態に備えて最低限以上の物を一杯持ってましたから。荷物、重そうでしたよ」


 そう言って少し笑みを浮かべるアスカだが、その表情はすぐに沈む。


「だから大丈夫だった筈なんですよね」


「……」


「あの時、あの場には偶然別の依頼でやってきていた別のパーティが居たんです」


「……その人達も咬まれたのか」


「ええ。正確には咬まれた直後のその人達を私達が見付けたんです。その人達に、シエスタさんは抗毒血清って奴を使って……そしたら最終的に残ったのは予備の一つだけ。だから撤退するって話になったんですよ。だけどいる筈のないなにかがいるという事はもう何が出てきてもおかしくない状況という事で……色々出たんですよ、場違いな奴が」


「……」


「他のパーティの人達諸共、私達のパーティも半壊しました。残ったのは……私とシエスタさんだけです。そんな時でした……私達が咬まれたのは」


「それで……譲ったんだ、シエスタさんは」


 元々、同行していた薬剤師が自分よりも他人を優先したんだろうとは考えていた。

 立派な事をしたんだと思っていた。

 思ってはいたが……それが知人という事になれば受け止めがたい。

 おそらく自分でも同じことをするとしても……それでも。


 そしてアスカは言う。


「はい……価値のない自分よりも、なんて事を言って」


「……ッ」


 より頭を抱えたくなるような、そんな言葉を。

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