桃の奇跡
簡単で短くそれでいて、少しだけ心に残るような作品になっていたら良いと思います。
ある小さな村の話。
旱魃に苦しむ小さな村があった。
長い日照りの影響で草木は枯れ、近くの池や川は干上がり、村人は飢えと乾きに苦しんでいた。
草木が枯れていく中、村の外れにある一本の大きな木は枯れる事無く 大きな桃を実らせ、その桃は旱魃に苦しむ村人たちにとって貴重な水分と食料だった。
不思議な事に、桃は何日経っても無くなる事がなかった。
村には二つの井戸があった。
一つは村の真ん中に、もう一つはある老婆の物だった。
老婆は村の外れに独りで住んでいて、咽を怪我していて言葉を発する事ができなかった。
あまり村にも出てこなかったので、以前から村人は老婆を気味悪がっていた。
そしてそんな老婆に桃を持っていく者は誰もいなかった。
長い旱魃の中、村の井戸水はどんどん減っていった。
村長は老婆の所に行き、井戸の水を分けてくれるように何度もお願いしたが、老婆は井戸水を誰にも渡さず、首を縦に振る事も無かった。
そしてとうとう村の井戸水は底を尽きてしまった。
しばらくは桃で乾きを防いでいた村人たちも、日に日に老婆への不満が強くなっていった。
ある日、村人たちは皆で老婆の家にいき咽の乾きを訴えた。
しかし老婆は悲しそうな顔で首を横に振るばかりだった。
そのとき、誰が投げたのか、石が老婆の細く小さい体に当った。
それに続くように次々と石は投げられ、気がつくと老婆は血を流しながらうつ伏せに倒れていた。
老婆は村の真ん中の井戸に生きたまま落とされた。
そして老婆の井戸水は村人たちに分けられた。
何日か経った頃、突然木に桃が実らなくなった。
そればかりか日に日に木は枯れていった。
頼りにしていた桃が無くなり、木が枯れるよりも早く人々は死に絶えた。
そして誰もいなくなった村に慈雨が降り、絶え間なく降り続く雨は全てを洗い流した。
村も人も罪も…
淡白な作品ですが、この淡白さで昔話のような雰囲気
を作ろうと思い意図的に淡白にしました。
作品に込められた思いとしては、
人の(老婆)優しさが作った奇跡、それを人の(村人)醜さが壊してしまった。
こんな哀れで醜い物語を慈雨が全て洗い流してくれた。(無かった事にしてくれた)
って言うハッピーエンドのつもりで作りました。