招聘
ある日、エムとセンは王宮から呼び出された。理由はまったくわからない。
王宮の入り口にはデルタとアルファが待っていた。二人も理由はわからないという。そして誰に会うのか、どんな話があるのか、それもわらかないという。
待合所で待っていると、近衛騎士の兵士が数名やってきた。
「こちらへ」
案内されて、長い、長い廊下を歩く。
「もしや、この先は」
アルファがデルタに耳打ちする。
「ええ、これはたいへんなことです」
廊下の突き当たりの大きな扉の前に来た。
「お見えになりました」
近衛騎士が大きな声で告げると、大きな扉がゆっくりと開き、中に案内された。
正面には、きれいな女性が笑顔で立っている。
「女王陛下です」
デルタとアルファは、すぐにひざまずいて頭を下げた。エムも慌てて真似をする。センは立っているだけだ。エムが引っ張って「真似をして」と小声で告げた。
「よいのです」
女王ソフィーネ13世は優しく声をかけた。
「あなたたちが王国の救いだと聞いていて、もっと早く会いたかったのです。でもまわりにとめられていたの。ごめんなさいね」
「もったいないお言葉です」
「あなたがセンね」
そう言ってセンの頭に手をやった。
近衛兵士が止めようとするのを遮る。
「まだ、からっぽね」
と言う。
「あなたがエムね。これからセンに愛を教えてあげて」
「愛を?」
「そう。そうすればもっと強くなれるわ」
「もっと強く……」
「今とは違う強さを手に入れることができるわ」
エムは、よくわからないという表情のまま、とりあえずうなずいた。
「アルファも手伝ってあげてね」
「御意のままに」
「今日は会えてうれしかったわ」
そう笑顔で言うと女王は退室していった。
*****
「うわあ、緊張した」
「陛下の言葉の意味はわかったのか?」
エムは思い切り首を振った。
「愛を教えるって、どういうこと?まさか……、その……、エッチなことをすること?」
センの顔を見て、真っ赤になる。
「あはははは、まさか。エッチなことで愛を教えられたら、世界は愛で溢れているよ。なあデルタ」
「なんで僕にふるんだよ」
「これから考えていかなきゃいけないんだけど……」
そうしてアルファはソフィーネ13世の魔法について説明を始めた。
「魔法の力の源は何か知ってるよね」
「空気中にある魔素と呼ばれるものですね」
「そう、それは必ず生命と結びついてる。生命の少ない砂漠では魔素は少ない。この国には山があり、たくさんの生きものが住んでいる。だから魔素も濃いんだ。これはわかるよね」
「はい」
「だから、その大量の魔素を元にしているので、我が国の結界も強い。でもそれだけじゃないんだ。陛下の魔力も膨大だけど、それ以上に、陛下の国民への愛情もある。だから、あれだけ強い結界が造れているんだ」
「はあ」
わかってきたようで、まだわからない。
「なかなか難しいな。例えば、同じ力の者が戦うとき、勝ちたいと思う者と負けてもいいと思う者のどっちが勝つ?」
「それは勝ちたいと思う者ですね」
「そう、力も大事だが気持ちも大事だ。陛下の国民を守りたいという気持ちが、結界を強くしているんだ。これは研究所の調査でも明らかになっている」
「そして、陛下を愛する国民、国土の山々、生きもの、すべてが無意識に陛下に魔力を送り続けている。それも力の源なのだ」
エムはうなずいた。
「その気持ちがセンにはない。陛下が空っぽだといったのはそういうことだと思う。センは命令されたから戦うと言うし、死んでもよいとも言う、それでは本当の力にはならない。陛下が言いたかったことはそうではないかな」
「何となくわかってきました。でもどうすればいいんですかね」
「僕にもわからないけど、人間らしい生活をさせることではないかな」
「それでいいんですか」
「たぶん……としか言えないけど……」