王都到着
王都に着くと、そのまままっすぐに軍本部に向かう。
石造りの巨大な建物の入り口は、せわしなく人が行き交いしている。センの顔がわかる者もいるかもしれない。帽子を深くかぶらせて、できるだけ顔が見えないようにもした。
受付で、情報局の上司を呼び出しもらうことにした。センを軍本部の奥に連れていくには、不安もあったからだ。
上司のデルタ少佐が、受付まで来てくれた。
「おつかれさん。大活躍だったね。でもどうしたんだい。呼び出したりして……」
「報告があるのですが、ここでは話しにくいこともありますので……」
デルタは、状況を察して
「じゃあ、外へ行こう」と外に出た。二人も後に続いた。
連れていかれたのは、小さな酒場。昼なので客はいない。
「ここなら大丈夫だよ。で、何?」
「彼のことです」
センは帽子をとって、顔をみせた。
デルタはベテランの情報局員である。当然マギロイドの顔も知っている。
「えっ、これは……」
「ええ、彼はマギロイドです」
「でも、なぜ?」
エムは、製造工場の顛末を詳しく話した。センが初めて目を開いたときに見たのがエムだったこと。そしてそのためにセンがエムの忠実な下僕となったことを。
「鳥類の刷り込みと同じなんだな」
「ええ、それで私が死ぬとリセットされるそうです」
「それじゃあ、死ぬわけにはいかないな」
「当たり前です」
エムは、じっと何かを考え込んでいる。
「それでお願いがあります」
「何?」
「マギロイドの秘密を暴くことには協力したいと思いますが、人体実験のようなことはしないでほしいんです」
「その約束は難しいな」
「それならば、協力はできません」
「軍の命令でも?」
「そのときは除隊します」
「無理矢理すると言ったら?」
「我が軍で、センにそれができる力はありません」
センは、二人のやりとりを無表情で聞いているだけだ。
デルタは、しばらく考える。
「よしわかった。それは約束しよう。上にも必ず約束させる。ただ、結界が破られてこの国が侵略されそうになったら、そうも言ってられないからな」
「はい、そのときは覚悟します」
そして、国境での戦闘でマギロイドを瞬殺したことも伝えた。
「本当か?」
「ええ、それで潜入では弱点は見つかりませんでしたが、いくつかわかったことがあります」
「よし、彼を軍本部に入れるように手配しよう。魔術研究所のトップにもわたりをつけておく。そこでこれからを考えよう」
「はい」
「それじゃあ、任務の成功と無事の帰還を祝って乾杯しよう」
「昼からいいんですか」
「ああ、問題ない。セン君は?」
「彼はまだ子どもですから……。それにお酒を飲んでどうなるかもわかりません。暴走したら、止めれませんよ」
「確かにそうだな」
「でも食べるのは好きだから」
「じゃあ、ここの自慢の料理を思う存分食べてくれ」
「本当に、彼は食べますよ」
「かまわない。いくらでも食べてくれ。もしかしたら救国の英雄になるかもしれないしな」
******
センは、エムの家に一緒に住むことにした。王都で独り暮らしをしていた。
エムの実家は深い山の中だった。隠蔽・擬態のスキルがあることがわかり、12歳のときに情報局からスカウトされて、今は王都で独り暮らしをしていた。任務は危険なものだったが、やりがいもあり、ギャラも高額なので満足していた。
家についても教えることはいっぱいあった。
まず風呂にも入ったこともない。宿の風呂は共同だったので、センはまったく入っていなくて、かなり汚れていた。エムも一緒に入って、身体の洗い方なども教えてやる。
エムにとってセンは子どもだった。宿でもセンの前で着替えるのも平気になっていた。
そしてセンもエムの身体にはまったく関心がない。
料理も一緒につくるようにした。後片付けも。
掃除もベッドメイキングも教える。
そのたびにセンから質問が出る。
「なぜ、掃除をするのだ」
「だって、きれいな方が気持ちいいでしょ」
「気持ちいい?」
これを繰り返すだけだった。
軍からは、3日の休みをもらった。
二人で街へ出て、センの服や生活に必要なものを買い、それからセンの髪を染めてカットした。ぱっと見でマギロイドとはわからないようにするためだ。