初めての戦闘
国境近くでは、小さな戦闘が各所で起きていた。
王国の国境には、帝国兵が侵入できないように強力な結界が張られていた。ソフィーネ13世の強力な魔力をもとに、国の魔術師が総力を上げたものだ。
帝国軍の本体はまだ来ない。前線の部隊は、本体が来る前に少しでも結界を削る戦闘をしかけてきていた。
放っておいては結界が破られてしまう。それを妨害するための戦闘がいくつか起きていたのだ。
結界のために、二人も簡単には入国できない。王国の防衛隊とコンタクトをとって、結界内に入れてもらわなければならなかった。
防衛隊とコンタクトをとるためには戦場を抜けなければならない。街などでは隠蔽のスキルが使えるが、戦場では隠蔽無効の魔術が展開されている。戦場で兵士が隠蔽されるわけにはいかない。
センの力も借りて、戦場を突っ切ろうと茂みの中でタイミングを待っていた。
*****
そのとき、帝国軍の中にマギロイドが一体現れた。
戦場を風のように駆け抜けて、あっという間に防衛隊の陣地の前に来る。
両手を前に突き出すと、そこから強力な雷撃が出て、陣地が100メートルにわたって消し飛んだ。
マギロイドの力を目の当たりにしてエムの背筋が凍った。
しかし、この攻撃を防衛隊も想定していて、陣地はダミーだった。
防衛隊の本来の陣地から、魔法戦士による雷撃、炎などの攻撃がマギロイドに集中した。 しかし、マギロイドの周囲にシールドがあり、まったく効いていない。
そしてマギロイドがまた手を出して攻撃しようとした。
防衛隊は、一気に撤退する。
また、雷撃で一瞬にして陣地が蒸発した。
防衛隊は、なんとか逃れたが、たった一体のマギロイドに手も足も出ない。
エムは、諜報活動が主だから、マギロイドについては知っていても、こうして戦場で実際に見たことはなかった。
「弱い方を助けようか」
センが声をかけた。
お願いしたいところだが、センを王国に連れていかなければならない。今の戦闘に巻き込むわけにはいかない。
「いや、まだ待って」
センはうなずいた。
「彼の魔力は、もう少しで尽きそうだ」
「わかるの?」
「おそらく。ここに来る前も、どこかで戦っているはずだ。もう1回今のを打てば、しばらくは次が打てない」
「勝てる?」
「問題ない。僕は最新だから、第2世代には負けるはずはない」
「世代があるのね。今度詳しく教えて」
「わかった」
帝国軍のマギロイドは、結界に向かって雷撃を放った。これを繰り返して結界を破ろうというのだ。陣地を攻撃させれば、その分結界への攻撃が減る。
マギロイドに対しては、それしかできなかった。
結界にあたった雷撃はすさまじいものだが、結界はびくともしない。
「今なら……」
「じゃあ、行って!」
エムの許可が出て、センは飛び出した。
センが放った雷撃は、帝国のマギロイドのシールドをあっさりと破壊した。シールドがなくなり防御もできない。魔力が切れて攻撃もできないはずだ。それにもかかわらずマギロイドはセンに向かって突っ込んでくる。そしてセンが放った炎で、なすすべなく蒸発してしまった。
「すごい……、これが君の本当の力なのね」
「いや、まだ本当の力は出していない」
センは、無表情で、当たり前のことだと言わんばかりに答えた。
「まさか……」
マギロイドがやられたのを見て、帝国軍は退却していった。
防衛隊は、何が起きたかわからない。ただ帝国軍が退却していったのだけはわかったようだ。
*****
二人は、帝国軍が撤退した戦場を突っ切って防衛隊の陣地に向かった。
雷撃による電気が残っているのか、地面に転がっている刀などの金属がバチバチと音を立てていて、何かが焦げた匂いがする。
「何者だ!」
戦場で歩いて向かってくる二人を見て、槍を向けて防衛隊の兵士が声をかけてきた。
「王国軍情報局のエム少尉です。任務から帰還しましたので、入国許可を求めます」
エムは、階級章を掲げて、身分がわかるように示した。
「横は誰だ?」
「協力者のセンです。彼を王国に連れて帰るのも任務です」
「よし、通れ」
兵士は階級章を確認すると槍を下げ通してくれた。
通り抜けるときに、センの顔を見て兵士たちが、ぎょっとした表情をする。
「似てるな」
「そうでしょ。よく言われるみたいですよ」
まさかマギロイドがいるとは誰も思わない。
軍では階級がものを言う。少尉であるエムがそう言うならと、疑われることもなく、二人そろって入国を許された。
そこから王都まで、5日の距離だ。軍の馬車で送ってもらうことにした。