異変
メアリー(エム)は、センと一緒に田舎に帰って、両親の畑を手伝うことにした。
麦畑を歩くセンの後を、ミィが跳ねながらついてくる。
メアリーの両親には、センを仕事の後輩だと紹介していた。
まさか兵器であるマギロイドとは紹介できない。
両親は、もしかしたらメアリーの彼ではないかとの期待もしていたようだが、しばらくして、2人に恋愛感情が無いことがわかり、少しがっかりもした。
センの感情も日ごとに豊かになってきて、もう誰が見ても人間にしか見えなかった。
いや、元から人間であったのだが、人間として成長してきたのだ。
村の人々とも笑顔で挨拶するようにもなっていた。
女の子の注目も浴びていた。村に若い男は少ないし、センは、まあイケメンだ。
平穏な日々が続いていた。
いや、続くはずだった。
その平穏な日々を破ったのは、元上司のデルタだった。
「ひさしぶり」
センと畑で作業をしていると、デルタが突然現れた。
「お久しぶりです。どうしたんですか?」
デルタは最初は笑顔だったのが、少し困惑したような表情になっていく。
「いや、お願いがあってな……」
なんか歯切れが悪い。
「ここじゃあなんですから」
とデルタを家へと案内した。
メアリーはお茶を出してセンと一緒にデルタの向かいに座った。
「それでお願いとは?」
「まあ、言いにくいんだが……。エムに戻ってくれないか……」
メアリーは想定していたようで落ちついている。
「それはなぜですか?」
「元帝国のマギロイドが、王国の牧場で働いていることは知っているな」
メアリーはうなずく。
「そのマギロイドが一体いなくなったんだ」
デルタは説明を続けた。
600体のマギロイドの主は、女王ソフィーネ13世である。女王の命令で、王国の牧場で働いてる。
牧場には、家族を戦争で失った者もいた。だから、マギロイドをすんなりと受け入れることはできなかった。
しかし、一緒に働くうちに、皆がマギロイドも人間であることを理解していき、情も湧いてきていた。
そんなときに起きた出来事だった。
一体のマギロイドが忽然と姿を消したのだ。
マギロイドの姿形は、みな同じだった。だから牧場の人たちは、髪型、髪の色を変えたりして、個々のマギロイドが区別がつくようにもしていた。
そして名前もつけて、家族のようにも接していた。
姿を消したマギロイドは、第2世代。その中でも初期に製造されたものだった。
牧場では、牧羊犬の世話を担当しており、犬をかわいがり、豊かな感情を持つようになってきていた。牧羊犬担当グループのメンバーの家にも住み、牛乳が好きだった。
姿を消す理由はまったくない。
「探査はできなかったのですか?」
センがたずねた。
「ああ、姿が見えなくなったとき、すぐに現れるだろうと楽観していたんだ。ところが2日経っても、3日経っても現れない。それで慌てて探したそうだ。牧場のマギロイド全体を投入して、もちろん探査の魔法で、数十キロ四方を探した。それでも痕跡すら見つからなかった」
「第9世代もいるのであれば、第2世代が、その探査から逃れることは無理ですね」
「死んでいる、ということは考えられないんですか?」
「通常、マギロイドは破壊されない限り死ぬことはない。ただ、寿命はあって、100年くらいで細胞が劣化して消滅するらしい。しかし、第2世代が生まれてから、まだ数十年だ。寿命が尽きるということは考えられない」
「命令を無視して、独自に行動することはもっと考えられない……」
センが独り言のようにつぶやいた。
「そこで、もう一度エムに戻って、この事件だけでも担当してくれないか?もちろんセンもだ」
メアリーは、黙ったまま考えている。時間だけが流れていく。
目の前のお茶もすっかりと冷めていた。
「センは、どうしたい?」
「メアリーが望むならばなんでも」
「それが困るんだよな」
「僕の考えを言って良いならば、事件を担当したい。仲間に何かが起きているのならば、助けてやりたい」
それを聞いたデルタは(センは本当に変わったな)と感じた。
「わかりました。今日からエムに戻ります。よろしくお願いします少佐」
「ありがとう。助かったよ。あと、この間中佐になったんだ」
「それはおめでとうございます」
デルタは手を出し、エムに戻ったメアリーとがっちりと手を握った。
「それで、いつから?」
「できるだけ早いほうがいい。準備もあるだろうから、日はまかせる」
「わかりました。今の片付けもありますから、明後日には」
「ああ、頼む。牧場には私から連絡を入れておく」
「それじゃあ、今日は、再会を祝して宴会でもしますか。昇任のお祝いも」
「それはいいな」
はしゃぐエムとデルタをセンが遮った。
「ちょっと待って、気になることがある」
真剣な面持ちで言う。
「魔道士ゲオルクだ。生きていれば今年で100歳になる……」




