聖王長
「ああ。装甲勇者様? どうされたのですか? どこかお怪我でも……?」
王女も兜を脱いで、俺を心配してくれた。エマさんだっけ? かなりの美人だ。
俺も今は結構な美人? 可愛い系のはずだ。……デスマーチに入る直前に配布された無料アバターだこれ。
どんなのか試しに自宅のPCでアバター編集してるときに確かにこいつを見ようとして切り替えたはずだ。その直後に会社から連絡があって明日の早くから応援に行けとか言われて、すぐ寝ないと、とそのままいつものくせで保存してからソフト落とした記憶あるわ。
……その後ずっとデスマーチで帰宅できなかったり、できてもPC触る余裕なかったから、そのままで忘れてたわ。
……うう、このコラボイベントがアドベンチャー系でないことを祈ろう。俺にそんな趣味はない。そんな趣味でもあるのか男でも女アバター、もしくはその逆もけっこういるとは聞いているが、まさか自分もそうなるとは。しかもイベントでこれは……。
いや、もう仕方ない。切り替えよう、王女を困惑させてしまっている。
「いえ、ごめんなさい。ちょっと解決しない困りごとを思い出しただけです」
くっそー、声までかわいいな。まあ元のおっさんアバターの声のままだと気持ち悪いだろうからこれでいいけど。
「聖王様から神託を授かっておりました。もし勇者が現れたならこれを渡すように、と。装甲勇者様なら十分条件に当てはまるかと。どうかお持ちください」
そうエマから言われて渡されたのは、装飾具だった。ぱっと見ではなにか俺には分からない。
「これイヤリングですわ。これをこちらではつけておくように、とのことでした」
イヤリングなのか。確かに今のアバターなら似合うかもしれない。一個だけだけどな。まあ渋いおっさんがつけるようなものではないようにも見えるが、意外とシンプルだから邪魔にはならないかもな。
「ありがとう、さっそく装備させてもらう」
そういって右耳につけてみた。構造は簡単だから触ってみれば付け方ぐらいは容易に想像がついた。
「装備って。装甲勇者様は変わってらっしゃるのですね」
エマにそう突っ込まれ、笑われた。ゲームだとどの部位でも身につけるものは装備って言うんだよ、とはエマには言えないな。雰囲気が潰れるし理解はされないだろう。苦笑だけ返しておく。
「よくやった。プレイヤーネーム、ヒジリよ」
ん? なんだ、聞き覚えがある声だな。
「わしわし、わしじゃよ」
オレオレ詐欺みたいな古臭い言い方する知り合いはいないよ。けど思い出した。今俺をプレイヤーネームなんていうやつは運営だろ? ミッションの最初の方で語りかけてきた。
運営がプレイヤーに直接そんな悪ふざけしていいのか?
「うん、まあ、運営じゃな。こっちでは聖王長と呼ばれておる。実際にはそうでなくて良いから、敬うようにしておくれ。わしじゃなく聖王の方をな。お前たちの解釈で言えば、聖王はその世界の神と考えて良い」
聖王が神様だってことは分かったけど、その長を名乗るあんたがなぜ直接俺に?
「まあいろいろとあるんじゃよ。今回言っておきたいことは二つ。一つは今回のコラボイベントは隠しイベントとして行われておるから、【ミッションブレイク2】内を除く、ネット上でこれらの話はしないでほしいのだ。いわゆる拡散不可というやつじゃな。もちろん強制は出来ないからお願いとなる」
なんか老人口調で話しているけど、この声も可愛い系だよな。声優誰だろ?って感じの。