死骸
いきなり現れた聖王長の幻影?が続けて話しかけてくる。どうやら俺だけに見えているし、聞こえているようだ。
「今ヒジリが気づいたことが大本の理由につながっているということだ。他人から言われても納得できないことだと思うので自分で気づいてくれるのが一番良いのだ。今ヒジリは入口に立った。じきに他にも気づくものが出てくるだろう」
おい、ちょっと待てよ。どういうことだ、いったい。今までずっと俺達を監視していたのか? それになんで俺の考えていることが分かった? VR機器では思考を読むことなど出来る装置ではないし、そもそもそこまでの技術はない、とはっきりと明言されていたはずだが。
「少しずれているな。運営にプレイヤーの思考を読むことなど出来ない。今ここにいるものではわしだけができる、というだけのことだ。あまり邪推するな、あるがままを受け取るんじゃ」
……
「ヒジリさん? 大丈夫? ラグかな?」
「まあ今は周りに敵もいないし、じきに戻るだろう」
……ん、なんだったんだ、今のは。
「今、聖王長が来てなかったか?」
「どうした、ヒジリさん。幻でも見たのか? 俺等にはヒジリさんがラグってたように見えたが。もしかして時間軸の歪みでもあったのか? 俺等が加速してたとかさ」
ウォーモンガーが皮肉口調でからかって来た。
「いや、すまん。幻覚と幻聴があったようだ。それに時間加速は不可能だろう? そんなことが出来るならゲームなんかやってないでここで勉強でもしておくべきだな」
フルダイブが実現した今でも、そんなのは不可能だと何度も言われているのにゲーム内時間の加速は出来ないのか?とか言い出すやつが後を絶たない。
さっきも言ったがもしVRゲーム内で加速が出来るということは意識を加速しているということで、脳への負担も大きいと思われるし、それが出来るなら、そもそもゲームなんてやってる場合じゃない。
実験設備をシミュレートできるならそこで時間のかかる世間様に役立つ実験を繰り返すべきだし、そうでなくても考える時間が多く与えられるわけなのだから、勉強も捗るだろうし、思索の時間を多く得られることは発想が大事な学問などに非常に役立つだろう。試験勉強も捗るに違いない。
役立つのに実現していないということは、そんなことは不可能、少なくとも現代においては、ってことだろう。
「わかったよ、謝るよ。どうもラグってたようだな、ヒジリさんが。俺等には意味なく止まってたように見えたぜ」
「そうか。すまなかった。もう動ける。ラグってた間何もないよな?」
「ええ、私たちがいったんダティーズに戻って補給を受けて、皆と一緒にここまで前進してきたぐらいですね。ついでに動かないパーソナルフォートレスにザボスが修理をかけていました」
パーティチャットなのでネ・ムイが答えてくれた。
「すまなかった。だいぶ長い時間ラグってたようだ。珍しいな。アーマーも自然回復で全快できるレベルにまで回復しているな、ありがとう」
そういいつつ、聖王長と交わした会話を思い出す。あれはいったいどういうことだろう? さっきから倒した敵が消えていないのだ。だいぶ前に倒したであろう、巨大な蛇の死骸が未だに転がっているし、先程のドラゴンの尻尾も消える気配はない。
今までなら数十秒もすれば破壊された機体などは消えていたのだ。だから破壊した機体を遮蔽物にしたりは出来なかった。昔から倒した敵は消えるものが多い。
残っていたらどんどんゲームとしての処理に時間がかかるようになるからだし、ゲームでは基本消えるもの、というのもある。けどこのミッションに入ってからは消えていない。
その事実が何につながるのだろう? 少なくともあまりゴブリンやオークの死体はサントノーレには見せたくないな。




