待ち合わせ
少し話が飛びます
今日はいよいよ金曜。今晩東京を出発して大阪に向かう。そのために出張するかのような準備をして荷物はロッカーに放り込んで会社に来ている。有給は余分に来週いっぱい取っている。普段はあまり有給を取ろうとしないから上司に驚かれてにこにこされたのが気味悪かったけどな。せっかくだから大阪を堪能してやる。
無事に仕事も終わり、ネ・ムイと合流する場所に向かう。俺は私服を近所のコンビニに行く用程度しか持っておらず、人前に出れそうなのがスーツだけだったので、全日スーツですますつもりだ。着慣れているしな。
待ち合わせ場所に現れたのは、予想もしていなかったお姉さん、だった。ブラウンのワンピースにつばの広い帽子を被った令嬢? といった趣の人だった。いや自分のほうが年上のはずだが、お姉さんとしか言えない人だった。
最初は人違いかと思ったが、目印にすることにしたブリッジカードをこれでもかと目立つようにつば広帽子につけていたのは彼女だけだった。俺は目立たないように胸ポケットに少しだけ見えるようにしていたのだが。
自分のカードを指さしながらお姉さんが話しかけてきた。
「あなたが、ヒジリさん?」
「あ、ああ、もしかするとネ・ムイ?」
くったくのない笑顔になった。綺麗だが可愛い系なのか? 彼女は帽子を手に持って自分のカードを強調する。黒いストレート長髪の美人さんだ。俺は芸能人とか殆ど知らないので顔の傾向は例えられないのだが、可愛い系だと思うけど、黒長髪ですごい美人のお姉さんにも見える。
「ええ、田中美桜と言います。これからよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。郡山聖です。同じですのでヒジリでいいですよ」
そう言って名刺を渡す。渡してから、あ、しまったと思った。普通友人としては名刺なんか渡さないよな、と。
ネ・ムイさん、いや田中さんが困惑して受け取って、彼女も名刺を渡してきた。いつものくせで拝受して名刺を見てみると、顔写真はかろうじて田中さんだけど、名前が北崎香住となっていた。
「え? これは」
「ごめんなさい、今日はこれしか持ってなかったわ。コスプレ名刺です。名前は……気にしないで。田中美桜が本名ですから」
「コス、プレ……」
いやもちろんコスプレは知っている。が知り合いには今まで一人としていなかったので知識としてしか知らない。コスプレ名刺ってなんだ? 名前が違う……ペンネームみたいなものか?
「別に……、仕事じゃないのに名刺を渡してしまった俺の方が悪いから、名刺渡さなくてもいいのに」
「あ、それもそうよね。名刺を渡されたら渡し返さないと……って。はは、恥ずかしいな、知られなくていいこと知られちゃった」
笑顔もとても可愛い。ネ・ムイのアバターも可愛かったけど方向性が違う感じだし、声も違う。あっちの声はデザインできて自動でボイスチェンジャー的に変えることもできるのだけど同一人物なんだろうか。失礼かもしれないけど一応確かめておく。
「あの……、あっちでの声と違う気がするんだけど、あっちの声はチェンジしてる? 俺はしてるけど似せているからさ」
「ああ。あれは作ってる声でチェンジはしていません。かっこいい系のキャラの時はあんな声で話してます。今は地声です」
かっこいい系の~と言っていた時は確かにネ・ムイの声だった。地声もなんか可愛い。アニメ声っていうのかな、これ。コスプレイヤーってすごいんだな。
「新幹線大丈夫ですか?」
「あ、ああ、まだゆっくり行っても間に合うよ。でもそろそろ行こうか」
「案内、お願いします」
二人で歩いていく。もちろん手を組んだりとかしてないけど、これ同伴とか思われない? 俺おっさんだし、ネ、いや田中さん聞いていた以上に若く見えるし。二十四って聞いてたんだが、うっかりすると未成年でも通ってしまいそうだからさ。え、同伴より悪い親子とか、ないよね?
「実は新幹線とか学校での行事とかでしか乗ったことがないからすっごく楽しみなんですよ」
田中さんが話しかけてきた。コミュ力、強えな。俺は学生のときはぼっちだったし、会社員になってからは仕事に追い回されて、ゲームが趣味のただのおっさんなのに。もちろん彼女なんかいた試しがないし、その類の店も仕事上の関係の付き添いで行ったことがある程度だから、よく分からん。
「へぇ、旅行とかはあまり行かない質? まあ俺がそうなんだけど。だからろくな私服を持ってなくてさ。だからスーツ」
「たまにオフの時の友達と行ったりしますが、だいたい日帰りで済むところですね。大阪も初めてだし、最悪一人ででも大阪探索しようかなと来週いっぱい休みとって意気込んでます!」
両手の握り拳を顎の前に持ってきて構えてた。歩きながら器用だな。
「へぇ、奇遇だな。俺もそうだよ。普段は旅行とか行かないから、休みも来週全部取った」
「え?! そうなんですか! いやぁ、ヒジリもそうだったけど。あ、ヒジリってあっちの、ね。戦闘時気があうかも、って思ってたんですよ。本当に気があうのかも」
「ははは」
思わずへらへらと笑う。社交辞令と分かっていても、気が合うとかこんな可愛い子に言われて嬉しくないはずがない。それに確かにネ・ムイとは気があっていた気がする。
実際ギガース改戦時はとっさの判断が双方噛み合って、うまいこといったのは確かだし。




