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姫(弐)

三人がここに来てからのジンの様子は、どれも初めて見るものだ。今まで日常的にジンの腰に備わっていた刀は、ジンが醸し出す柔らかい雰囲気によって、どこかコスプレの小道具のようでいた。ジンの体躯に対してサイズに違和感はないものの、その用途に反して、存在感は薄かった。だけど、今はその鋭利さが存在感をしっかりと放ち、本来の威厳を取り戻している。そして、速さと力強さによって、今度は今までの、誰にでも敬意を払って優しかったジンの姿が影を潜めている。ジンは刀を巧みに使いこなし、圧倒的な強さで三人に傷を負わせているけど、その表情には、そんな恐ろしい行為をした猟奇的な雰囲気よりも、ただ「悲しい怒り」というようなものが強く滲んでいるように見える。

 既に横腹の辺りを斬られてるにもかかわらず、ショウは刀を杖のように地面に突き立てて立ち上がると、再びジンの方へ駆け出す。ショウはジンに向かって駆けて行くと、途中で大きく飛び上がり、着地ざまにジンに向かって、刀を真上から縦に一気に振り下ろす。ジンは向かってくるショウを待ち受けて、刀を横にすると真正面からショウの打ち込んだ刀を受け止める。受けられても諦める事無く、ショウはそのまま刀にさらに力を込め、顔もジンの方へ近づける。


「てめぇこそ何のつもりだよ、さっきから!戦場じゃあな、“平和”“普通”“理不尽”“善”“悪”そんなもんは無ぇ。ただただ“不条理”があるだけなんだよ。『相手より弱かったら死ぬ。』

ただそれだけの理屈しかねぇんだよ!戦場で死んでった奴らは、相手より弱かったって事実が示されただけに過ぎねぇんだ。むしろその一つのルールの下で、俺たちは平等なんだ。甘ったれた説教垂れんなら、てめぇの方こそ武人なんか辞めちまえ!」


「確かに戦場には不条理しかない。でもだからこそ、死んでいく兵士にとってはこの戦場が最後に生きていた場所なんだ。そこで彼らは命を懸けて戦った!そして、勝者はその最後の瞬間に立ち会うことになる。だったら、僅かであっても、死に行く者が最後どのような生き様を見せたのか、常にしっかりと見届けてやらなきゃならない。俺は生死の行き交う戦場だからこそ、命のやり取りから一切目を逸らしたりなどしない!侮辱的な戦い方などしない!どんな敵であろうと敬意を持って全力で向き合う!」


 徐々にジンがショウを押し返していく。言い終わるなり、ジンは組み合っていたショウの刀を左に振り流すと、刀を返し、ショウに向かって刀を突き出す。ショウは何とか躱そうとしたけど、ジンの刀の方が速く、ショウは右の肩口を貫かれる。


 「ぐあぁ!!」


 ショウが声を上げているけど、ジンは肩口をまだ貫き続けている。そこへセイ様がショウを助けようと、ジンとショウの間に割って入り、ジンに攻撃を仕掛ける。ジンはセイ様の攻撃を躱すためにショウの肩から刀を引き抜くと、セイ様の攻撃を捌き、セイ様の腹の辺りに向かって横一文字刀を振り払う。セイ様はなんとか受けたものの、それでも力負けし、斬り払われてしまう。


「どんな者にもそれまで生きて来た人生がある!思想がある!力に驕り、ヘラヘラしながら斬れる強さがあるなら尚の事、しっかり戦士達と向き合って戦え!同じ決死の瀬戸際に立たされた者として、侮ることなく、心に刻み込め!相手の顔を見る勇気もないなら、刀を捨てろぉ!」


ジンはセイ様を斬り払うと、崩れ落ちる寸前のショウに再び刀を刺し込む。


「ぐあぁぁぁぁ!!」

「俺は忘れない。お前達の事だって覚えてる。」

  

 今度はリュウが斬りかかるけど、ジンはショウから刀を引き抜くと、リュウの刀を捌き、刀を打ち上げられて無防備になったリュウのお腹に蹴りを放つ。リュウは後ろに吹っ飛び、ショウもその場で崩れ落ちている。息も絶え絶えのショウ達三人の真ん中で、ジンだけが立ち尽くしている。


 「絶対に忘れない。お前達の事を。そして、お前達の傲慢の下で記憶されることなく散っていったアイツのことを。」


 刀を握りなおすジン。改めて息を吸い、吐き出しながら少し顔を上げ、ショウの方へ顔を向ける。


 「あ!」


 無意識に私は声を発していた。少し離れた場所から見てもわかるほど、ジンの形相は変わっている。私は声を発するなり、咄嗟にその場を飛び出す。




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