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第一話「転移」③

キリのいいところまで書いているので、今回は少し短いです



 しばらく歩くと、森を抜けた。

 視界が一気に晴れ、目の前には壮大な原っぱと青い空が広がっていた。そして何より、


  「道路だ!!!!」


 人工的に舗装されたであろう道路がある。

 舗装といってもコンクリート等ではなく只の土ではあるのだが、明らかに人間が踏み固めっていった歴史性が見て取れる。


 「ハルト、あんた道を見るのも初めて? あんたの世界、田舎ね」


 森を抜けたことに喜ぶ俺に、にこやかな顔でひどいことをいうサギリ。

 しかし、俺はもう慣れた。この人はこういう喋り方なんだ。



 「この道をまっすぐ進んでいけば街に着くわ。もう少しよ」


 「ついに街……! 人間界! 自然の脅威とはもうおさらばだ!」


 「人間界?自然界の脅威?」

 

 「ついに安全が確保される……! もうあんな怖い森はごめんだよ」

 

 「なーに言ってんの。あんなの雑木林みたいなもんでしょ?」


 「林……? てかあの後も襲われまくったけど……?」



 林って……。スケール感は樹海と同等くらいだと思うけど……。この世界だとあれくらいは藪みたいなもんなのかな?

 

 

 「あれでヒイヒイ言ってたらこの先、生きてけないわよ? 動物も()()()も、まだまだ弱っちいレベルなんだから」


 「そうは言うけどさぁ、普通に死にかけたよ?」


 「ま、ハルトならしょうがないかもね。人間なんて生身じゃイノシシにも勝てないんだから、魔法も『ギフト』も無いあなたにも尚更ね」

 

 「俺も折角なら欲しかったな、『ギフト』」


 

 ――『ギフト』。

 

 この世界には、俺が元居た世界と似通っている部分が多くある。たとえば、存在する生物がすべて固有のものかと言われるとそうではなく、イノシシやシカなどの野生生物、いくつかの昆虫などは地球に居るものと全く同じであった。

 

 一方で、異なる部分も同様に多くある。そのうちの一つが『ギフト』である。

 『ギフト』とはいわば特殊能力のことで、個々人によって力の内容は大きく異なる。筋力や俊敏性などの身体能力の向上に始まり、珍しいものだと空中から(つぶて)や剣などの武器を生み出す魔法じみた能力、人の心を読んだりする『ギフト』もあるとか無いとか。


 『ギフト』は有用性・強さによって低級・中級・上級・最上級にランク分けがされており、地域や時代によってその分け方は異なるものの、低級が6割、中級群が3割、上級と最上級は合わせて1割といったところだそうだ。国によっては、上級以上の『ギフト』持ちでないと高官になれないなど、『ギフト』の影響はとても大きいが、全員に授けられるものではなく、統計的には人口の30%程度が獲得すると言われているらしい。



 「運が無かったのね。ま、『ギフト』持ちなんて3割しかいないんだから、別に珍しくもないんじゃない? 元気出しなさいよ」


 「そうだけど…………魔法も使えないんじゃ、本当にただの一般人だよ」


 「魔法が使えないってのも不思議な話ね。強度の個人差こそあるけど、全く使えないなんて初めて聞いたわよ。やっぱり転生者なのね」


 

 一方で、いわゆる魔法は、この世界では皆が使うことが出来る。すべての人間に血液が流れているように、魔法の源となる()()という物質がこの世界の人には須らく流れている。魔法には水・氷・火・風など自然界に存在する物質を生み出すことのできる属性魔法に加えて、珍しいものだと人体治癒や精神介入を可能とする魔法も確認されている。魔法の強度や種類は、個人の持つ魔素の性質や量によって異なるが、『ギフト』ほどの多様性は無く、魔法の方が研究も進んでいる。ちなみに、一般には人間以外の体内には魔素は存在しないが、何らかの理由で魔素が体内に流れている動物のことを『魔動物』といい、俺が森で見かけた猫モドキや狼モドキはそれにあたる。魔動物は、通常の動物よりも大型化しやすく、獰猛で、魔法に似た攻撃を繰り出してくる、危険な存在である。



 「つまり、俺にはその魔素ってやつが流れてない、だから魔法が使えないってことだよな?」


 「そういうことになるわね。魔素が魔法の源か、確固たる証拠があるのかは分からないけど、それが定説よ」


 「そうなんだ。いいなぁ。魔法、憧れるなぁ」

 

 「そんなあなたに朗報よ。最近じゃ魔法の研究も進んでて、使用者から魔法を分離して持ち運び可能にした魔法、通称『魔道具』なんてのもあるわ」


 「マジ?」


 「マジマジのマジよ。街に行ったら売ってるんじゃない? 安くはないけどね~」

 


 ちなみにサギリは、「私は魔法に関しては一流よ」と豪語しており、魔法使用者としては上位層に位置するらしい。魔法を使っている場面を彼女以外に見たことがないので、彼女がどれくらいの強さなのかは不明であるが、6匹の狼を易々と倒していった彼女の力には、説得力があった。


 

 「サギリには凄い魔法があるから必要ないな」

 

 「うふふ。お褒め頂き感謝するわ。実際私強いから!」



 この人、少し褒めるとすぐに調子にのる。初めはムカついていたけど、それが純粋さから来るものだと感じ始めてからは、この人の将来を案じている。

 おだてられて乗せられて、悪い人に騙されないだろうか……。


 

 「とはいえ、つよつよな魔法もそれはそれで考えものなんだけどね。使う魔素の量も半端じゃないし。高度な魔法だと、魔素を魔法に変換するとき精神的に滅茶苦茶疲れるのよね」


 「そうなんだ。そうは見えなかったけど」


 「あれは基礎魔法だからね。私って魔素の絶対量は多くないから、そう易々と高位魔法はぶっ放せないのよ。『ギフト』も魔法使いとは相性悪くて、むしろ…………厄介って感じ」

 


 急に、サギリの声が暗くなった。何かいやなことを思い出したかのように目を落とす。どうかしたの、と聞こうとするがやめておいた。

 体系化されている魔法とは違い、『ギフト』については秘匿する人が多い。軽度な身体強化などは兎も角として、上級レベルの強化『ギフト』は時として一個大隊を凌駕するほどの力をもつ。精神に作用して人を内側から操る力のある『ギフト』や人の五感に作用する知覚系の『ギフト』は、拷問や諜報活動など国の暗部において使用されることもあるそうだ。国家に対して危険だとみなされた『ギフト』は、時として()()()されることもある。彼女は「無効化」という言葉を使用したが、それが何かは言わなかったし、俺も聞かなかった。何にせよ『ギフト』とはそれだけ多様で、上級になるほど危険。安易に人には教えないものなのだ。


  

 「え、えっと………。そうだ! サ、サギリって結局何種類魔法が使えるの?」

 


 俺は慌てて話を変えようとして、比較的話しやすい魔法の話をつづけた。

 

 

 「4種類かしら。氷、水、風、それと治癒。治癒は浅い傷くらしか治せないけど、重宝されるんだから! 特に複数人で組むときとかはね」


 「す、すごいなぁ」

 

 

 またエッヘンと顎を上げるサギリ。暗い顔をしていたのに、なんと切替の早い人なんだろう。

 やっぱり…………心配になるんだよなぁ。


 ======================

 

 「さ、もうすぐ見えてくるわよ」


 

 それからしばらく歩いて、小高い丘の中腹まで来た時、彼女はその上を指さした。

 

 

 「この長い上り坂のてっぺん、あそこまで行ったら、街の外壁が見えるわ」


 「街…………。 ホントのホントに、もうすぐ着くんだね? もうすぐとか言って、また4時間近く歩いたりしないよな??」



 森を出てからここまで、かなり長い距離を歩いている。

 時計なんて持っていないので、何時間歩いているのかなんてぶっちゃけ分からないが、俺の大雑把な体内時計では4時間ぶっ通しで歩いている。

 


 「まったく貧弱ね。こんくらいの距離すいすい歩けないの? あなたの住んでる世界ってどんだけちっちゃいの?」

 

 「ちっちゃいというか、便利というか……」


 「だいたい、街と森がそんな近いわけないでしょ? 魔動物とかがふらっと来たらどうすんのよ」


 「た、確かに……」



 まったく世間知らずね、と言わんばかりの呆れ顔。両手でやれやれの手をする人、現実で初めてみたぞ。


 

 「ま、私も普段はあんまり歩かないけどね。めんどいから」


 「歩かないのかよ」

 

 「今回は飛行道具節約してるからね。結構費用も馬鹿にならないし」


 「飛行道具……なんてのもあるのか」

 

 「本当に知らないことばっかりね。ま、この道を歩くのも久しぶりで気持ちよかったから、色々と目を瞑ってあげるわ」


 「そ、そう……」



 そんな会話をしながら、丘の頂上を目指して登っていく。丘とは言っても、「小高い」とかのレベルではなく、てっぺんにいる人が米粒くらいにしか見えないであろう程度には高い。外国人は800m程度であれば "hill" と呼ぶらしいが、それくらいの逞しさがある。


 そして、遂に頂上に着いた。



 

 「す、すげえ…………!!」




 丘の稜線を踏み越えた先、1kmほど先にあったのは、石城を思わせる大きな城壁であった。

 途方もない面積を囲んでいるのであろうか。俺の視界には収まらない高く長い壁が、街を大きく取り囲んでいた。現実世界でも感じたことのないスケール感に、圧倒される。


 サギリは俺の横に立って言う。


 

 「やっと見えたわね。ようこそ、城下町ヴァルドレッドへ」



 眼前にそびえたつ城下町。

 来たる異世界生活に、俺は胸を躍らせていた。


お読みいただきありがとうございました。


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