お師匠様との出会い
ー大事なお知らせー
最近更新していなくて申し訳ありませんでした。
これからは、毎月投稿ではなく、不定期投稿になるので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
「ルフレ、いい?これが小銅貨。1枚で10ウェルスよ。これがこの国のお金の最小単位。そしてこっちが中銅貨。1枚で100ウェルスね。とりあえずこれを2枚ずつ渡しておくから、無駄遣いをしないように気を付けながら行くのよ。いい?」
「分かった。それじゃ、行ってきます。」
ふふふ。今日は私がこの世界に転生してきて初めての一人でお出かけの日なのだ。母さんにこの世界の料理がどんなものか知りたい、と言ったら、なぜかすごく喜ばれた。
『あら、なら少しお金を渡すからいろいろ見てくるといいわよ。ちょうど明後日市の立つ日だから。』
少し記憶を探ったことによると、ルフレはあまり家を出たがらない女の子みたいだった。家で裁縫をしたり、布でできた人形を使って遊んだりしていたそうだ。
まあ、それは外に出たいって自分から言ったら喜ばれるわ。引きこもりっぽい感じだったし。
お遣いにも言ってなかったみたいなので、私は母さんにお金の単位を教えてもらい、市場へと出発した。
「相変わらず外のにおいにはなれないな…。」
思わず鼻をつまみそうになるぐらいのきついにおいに顔をしかめながら、私は集合住宅のロビーから出る。ここからは、母さんに何度も教えられたとおりの道のりで市場へ向かうだけだ。細い路地から大通りへ出ると、にぎやかなざわめきが聞こえてきた。
わぉ。なんだか前外に出たときよりも活気にあふれてる。なんでだろう?
道は多くの人でごった返していて、うまく進めそうにない。すぐにぺちゃんこに押しつぶされてしまいそうだ。私が頑張って前に進もうとしていると、誰かに押されてしまった。そのはずみで、ポーンと道の脇へ飛ばされかけた、が…。
「わっ。大丈夫?」
ポンと誰かに受け止められた。
「あ、ありがとうございます?」
受け止めてくれた人の顔を見て、私は驚いた。
この人、前に市場に行ったときに果物を爆買いしてた人だ…!まさかこんなところで出会えるなんて…。
淡いミルクベージュの髪に、それに似た色の瞳を持つその人は、私をそっと立たせると、
「それじゃあ…。」
と真後ろにある建物へ入っていこうとした。
ちょっと待ってー!まだ肝心な名前とあの果物がどうなったか聞いてない!
「あ、あの…!この前果物屋であった人ですよね?」
「え?」
焦って声をかけてみると、その男の人は私をまじまじと見た後、怪訝そうな顔をした。
「えっと…。どこかであったっけ?」
あれ、私、この人絶対見たことあるんだけど?会ってないことになってる⁉人違いだった⁉
困惑して今にも泣きそうな私を見た彼は、焦った様子で
「と、取り敢えず、お店の中、入って。」
と手招きした。
「わぁ…?」
お店って言われたからもっときれいで明るいところなのかと思った(私の日本での感覚だけど)。暗くて何だか埃っぽい店内をきょろきょろと見まわしていると、
「期待外れだったでしょ、こんな薄暗いお店で。」
男の人は自虐的に笑った。
「ここはまだオープンしてないし。いつオープンするかも決めてないからね。はい、お水。」
「ありがとうございます。」
お礼を述べて一口水を飲むと男の人のほうに向きなおった。
「なんか、勝手に押し入っちゃってごめんなさい。前に見たことある人だな、と思ったので。」
「いいよ。泣きそうな顔のまま帰られたら困るし。」
男の人はふわりとほほ笑むと、そのまま厨房に向かおうとして、足を止めた。
「君、名前は?私はアルフレッド。」
「えっと、ルフレです。」
「いい名前だね。響きがとても綺麗。」
綺麗な名前…。そう言われたのは初めてかも。
名前をほめられて私がちょっと照れていると、アルフレッドは少し気の毒そうに私がうまく進めなかった理由を話してくれた。
「それにしても災難だったね。今日は商業記念日だから人が多くて道をうまく歩けなかっただろう?」
「商業記念日?」
「うん。この街は商業の都として有名なんだ。もともとこの領地が栄えるようになった理由が…って、ちょっと難しかったか。まあ、ここでは年に一回、商業記念日にはいろんな商品が一斉に市場や店などに売り出される日だから道が混んでるんだよってこと。」
「あ、だからユーグが忙しそうにしてたのか。」
理由を説明されて、年末や新年の初売りみたいなものか、と納得した。朝からユーグが大急ぎで朝ご飯を食べて家を飛び出していったから何があるのかすごく気になっていたのだ。
納得している私の横で、アルフレッドはたくさんの模様っぽいのが描かれた紙と睨めっこしていた。
あの模様なんだろう?ってあ!
「これって文字ですか?」
「うん。ルフレ、読めるの?」
「いえ。ただ、私のお兄ちゃんがこんな感じの物を見て勉強していたような気がして…。」
エスぺを経て、商人見習いになることを志したユーグは志望した商会からの合格を勝ち取るため、毎日研修と並行して膨大な量の紙と格闘していたのだ。
私もちょっとだけ教えてもらったから自分の名前と家族の名前は書けるようになったんだよね。でも、家族や自分の名前に使われている文字以外は読めないし、単語も分からないものばっかりだけど。
私が紙をもっとよく覗き込もうとすると、「これはこのレストランに必要な備品が書かれているから見ちゃダメ。」とアルフレッドから注意を受けてしまった。
残念。私も将来レストランで働きたいから何が必要なのか知りたかったんだけどな…。あ、そうだ!
「あの…。厨房を見せてもらうことってできませんか?」
「え?」
私はがばっとその場で頭を下げた。誠心誠意、お願いしなきゃ見せてもらえないかもしれない。私の将来のためにも、ここでいろいろ勉強しておきたい。
もう、ここでしかちゃんとした厨房を拝める機会はないよ!頑張れ、ルフレ!
しばらく固まっていたアルフレッドは私をまじまじと見つめて少し考え込んだ後、
「いいけど…。なにも面白いものはないと思うよ?」
OKを出してくれた。
良かったぁぁぁー!これで断られてたらどうしようかと思った。これでここの厨房がどんなかわかるよ!
私が心の中で大歓喜していると変なものを見たような顔でアルフレッドが厨房へと足を進め、すぐそばにある棚を指さした。
「とりあえずここから紹介していくね。ここは食料を保存しておくための場所。保存用の氷室や塩漬けにした肉を置いておくための棚があるんだ。後は、ストックしてある塩や砂糖。砂糖はもしかしたら見たことないかもだけど、この塩は見たことあるでしょう?」
そう問われ、私はコクリと頷くと、塩と砂糖の袋をじっと見つめた。
塩は見たことある。ウチでも母さんが塩を使っていたし。でも、砂糖はウチにはなかったなぁ。やっぱり高いのかな?
「あの、この砂糖って高いですか?」
「小金貨1枚でこの袋1つ。」
「小金貨⁉」
母さんがお金の単位を教えるときに、『平民で持っている人は少ないけれど、小金貨、大金貨もあるわ。まぁ、私達には縁のないものね。』と言っていたのを思い出して、私は少し身震いした。
砂糖、高すぎ。確かに私が前呼んだ中世の料理本によると、砂糖って近代に入るまで結構高価なものだったらしいけどさ。
砂糖があればケーキやクッキーなどのお菓子も簡単に作れると思う。ものすごく喉から手が出るほど欲しいものだけれど、私の財力だと手が届きそうにない。
「はい、ここが調理場。一応、調理するのに必要なものはそろってるよ。」
砂糖が手に入らないことを残念に思っていると、アルフレッドが食糧保存の場所から調理場へと案内してくれた。
あ、オーブンがある!うちにはなかったんだよね、オーブン。うちのキッチン?はスペースが結構狭くてあんまりいろんな種類の料理を作れそうじゃないんだよね。暖炉はあったんだけどさすがにクッキーとかは焼けないし。
大きなオーブンを見上げて私がどうにかして手に入れられないか考えていると、ひょこっと顔を覗き込まれた。
「なんだか考え込んでいるみたいだけど大丈夫?」
「ひっ!ごめんなさい。ちょっといろいろほしいものが出てきちゃって…。」
ぼうっとしていたことに気が付かれて、私は即座に謝った。それから、ぐるりと厨房を見回す。魅力的なオーブンに、高価な砂糖。そして磨き上げられた綺麗な調理器具たち。
いいな、このレストラン。絶対おいしいもの、たくさん作れるよ!絶対働いたら楽しい!
「あの、アルフレッドさん。私、ここで働きたいです!」
「へ?」
気が付けば、私は無意識に言葉を発していた。アルフレッドが面食らったように私をまじまじと見て、
「でも…。」
と渋るような声を出した。私は何とかしてアルフレッドを説得できないか頭をフル回転させて考えた。
前世の記憶があるから、料理もたぶんできると思うし、いろいろなレシピも知ってる。それに、衛生管理は病的な綺麗好きと言われる日本人だったので問題なし。文字と数字はまだ覚えられていないけど、これから必死で覚えていくし、前世の勉強過程があるから、頑張ればなんとかなる、はず!
「あの、私…」
「ただいま戻りました、アルフレッド様…ってあなた誰ですか⁉」
自分の中で説得できそうな理由を見つけて話そうとした時、後ろから女の人の声がした。
あけましておめでとうございます(少し遅いですが)
今年もファンタジーレシピ!をよろしくお願いいたします。
新年一発目はルフレがレストランを経営する予定のアルフレッドと出会うお話です。タイトルにもある通り、この人は後々、ルフレのお師匠様になるようです。
さて、次回は最後に出てきた女の人の正体がわかります。お楽しみに!