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市場へ行こう

「ルフレー朝だよー」


ん~。まだ寝れる…。


「起きなさい!いつまでも寝てるんじゃないわよ!」


母さんの怒り声とともに、ペイっと布団を引っぺがされた。



どの世界も母親に布団引っぺがされて起きるの共通なの?



文句は心の中にとどめておいて、私はむくりと起き上がった。



今日の朝ごはん、なんだろ?あー、まず起きたら顔洗わないとだよね。スッキリしないもん。



そんなことを考えつつ、ベットから降りて桶を取りに行こうとすると、


「ルフレ!また意味の分かんないことする前に、ごはん食べちゃって!今日はユーグのエスぺがあるんだから。」


母さんは私をせかしつつ、ごはんの支度を始めた。ユーグも、


「せかしちゃってごめんね。でも、2の鐘の前までに体験するところについてないとだからあまり時間がないんだ。」


申し訳なさそうにしながら、パンをもぐもぐと食べている。どうやら、ここの世界には6歳ぐらいの時に「エスぺ」という名の職場体験みたいなものがあって、いろいろな仕事を体験してから、自分が就きたい仕事を決めるそうだ。これには家族総出で協力するもので、エスぺがある日はみんな急いでご飯を食べて、行く人を送り出さなければいけない。


受験とかそんな感じみたいな雰囲気だね。


「今日はどこへ行くつもりなの?」

「木工職人。父さんがどんなことをしているのか気になるし。」

「そう。いい学びになるといいわね。」


カッチカチのパンと格闘している私をよそに、母さんとユーグはのんびりとおしゃべりをしている。


なんでそんな余裕そうなの!このパン、硬すぎて食べれないんですけど?どうやったらこんな固くなるのよ⁉天然酵母入れてないの?


なんとかちぎって食べようとしていると、


「ルフレ、何をやっているの?そこにミルクがあるでしょう?それに浸して食べなさい。」


母さんに怪訝そうな顔をされた。ふと隣を見ると、ユーグは木の器の中にパンを入れて、牛乳を注いでいた。


あ、なるほど。全然気づきませんでした。無知な私でごめんなさいね。でも、ルフレの記憶は教えてくれなかったんだもん!


記憶のせいということにして、牛乳を手に取り、器に注いだ。


「はちみつをちょっとだけ入れるとおいしいんだよ。今はいっぱいあるから特別に使っていいよ。」

「今はってどういうこと?」

「この時期ははちみつがいっぱい取れる時期なんだよ。花がいっぱい咲くから、ほかの時よりも安くなるし。」


はちみつをパン粥にかけながら、私はユーグの話を聞いていた。


あー、旬みたいなものってことかな?花がたくさん咲くってことは今は春?はちみつ使った料理も作ってみたいなぁ。フレンチトーストとか。トロトロふわふわのめっちゃ甘ーいやつ。


そんなことを考えているうちに、ユーグはさっさとご飯を食べ終わり、寝室に引っ込んだ。


「ルフレ。今日は気分転換に市場に行かない?ずっと家にいても疲れるだけだろうし。」

「行く!でも、母さん今日は仕事じゃないの?」

「今日は仕事を念のため休ませてもらったのよ。ルフレが目覚めたばっかりだから急に体調悪くなったりしたら誰も見る人がいなくなるでしょ?それに、寂しいかと思って。でも、元気そうでよかったわ。」


ごめんなさい、ピンピンで。ここの美味しいごはんで元気出ました。もともとルフレは健康的な体だったらしいし。


ちょっと後ろめたさを感じつつ、私はご飯を食べ終え、寝室に向かった。寝室には、家族全員分の服が木箱に分かれて入れられている。まあ、着る服といっても2、3着ぐらいをローテーションできるだけだ。この2日間で家のいろんなことには慣れた。


まだ、調理法とか食事方法はなじめないんだけどね!


まだ私の脳内には一花だった時の記憶が色濃く残っているようで、どうしても、食べ方とか調理法とかが体に入ってきてくれない。そこがちょっと困る所なのだ。


「ルフレ?着替え終わった?」

「うん。」

「じゃあ行くわよ。いいものがなくなっちゃうわ。」


母さんはもうばっちり準備ができているようで、木で編んだトートバックのようなものを肩に提げて、木綿のような生地でつくられたワンピースを着ていた。


この世界って女性はワンピース、男性はシャツみたいなのとズボンの組み合わせって決まってるのかな?ユーグも父さんも毎日同じ感じの物を着てるし。


母さんに急き立てられながら重い木のドアを開けて、外に出た。


おおー?なんかもっと開けてるかと思ったら石造りの階段しかないぞ?


「足元に気を付けて。たまに誰かが水瓶から水をこぼしてそのままになってる時があるから。」


なんですと⁉このひゅうひゅう風が吹き抜ける階段を手すりもなしに降りるってだけでも大変そうなのに、滑りやすくなってるところがあると?


おっかなびっくり階段を降り切り、いろいろな人が出入りするロビーのようなところを通り抜けた。


わぁ…。


白壁の大きな建物が石畳の道を囲むようにして建っていて、運河が街中を流れている。大きな建物の真ん中にはレンガでつくられた井戸があり、おばさんたちが洗濯をしながらおしゃべりに花を咲かせていた。


本でしか見たことなかった中世ヨーロッパの街並みみたい。


どうやら、ここら辺の平民はみんな集合住宅に住んでいるらしく、いろいろな人が建物から出入りしていた。

あたりをきょろきょろしながら母さんについていくうちに、開けた道へ出た。


「すごーい!」


思わずそんな声が出た。大きな道沿いに白壁の建物がたくさん並んでいて、入り口からたくさんの人が忙しそうに出入りをしている。運河のすぐそばには見たこともない花がたくさん植えられていて、とてもきれいだ。


溝を流れる汚物さえなかったらね。なんでこんなに汚いんだろ。


街中に充満する汚物のにおいに顔をしかめつつ、運河沿いの道を歩くこと数分…。


「母さん、母さん。あの壁何?」


いろいろなお店がひしめき合うエリアのすぐそばに張り巡らされている壁を指さして私が聞くと、母さんはあぁとうなずいて、


「あれは防壁。街を守ってくれる壁よ。この街全体を取り囲んでいるの。この街から出るには防壁のところどころにある門を通り抜けてかなきゃいけないのよ。」


と教えてくれた。


わー。防壁なんてあるんだ。すごい。


ちょっと感心しながら、母さんの後ろについて行って市場の商品を覗き込む。すると、いろいろな果物が売っているお店で気になるものを見つけた。


なんと!この世界にりんごとかみかんに似てる果物があるだとぅ⁉


思わず手に取ってジーっと見つめていると、


「ルフレ?何か気になるものでも見つけた?」


母さんがわたしがいないことに気づいて戻ってきていた。


「母さん、この果物何?すっごいいいにおいがする。」

「それはポムよ。安いしいろんなものに使えるから便利なの。」


どうやら、このりんごっぽい果物はポムというらしい。


「じゃあ、こっちのオレンジ色のは?」

「それはランゲ。ちょっと酸味のある果物よ。そのまま食べてもおいしいけれど、ジャムにして食べるのがおすすめね。」


母さんはそう説明すると、


「ほしいの?」


と聞いてきた。


「うん!」

「仕方ないわね。買い物に付き合ってくれるお礼よ。それにしてもルフレが何か物を欲しがるなんて珍しい。」


どうやら、以前のルフレは外に出たがらないばかりか、あんまり物欲がなかったらしい。そのせいか、ルフレの記憶は家の中でのことが多く、あまり外の情報が入ってこなかった。


もうちょっと外にも出ていこうよ、ルフレ。

一花時代は基本的に家で料理やらなんやらをしていることが多かった私が言えることではないけど。


果物を大事に抱えながら、その後も母さんについていった。野菜がたくさん並んでいるお店や真っ白な糸が売っているお店…。いろんなお店があるが、料理屋さんなどは見かけない。


なんでレストランとかはないんだろ…。そういえば、市場に来る途中でしっかりした構えのお店が並ぶ通りみたいなのがあったな…。ああいう所にあるのかな?


考えを巡らせていると、母さんが白パンを2つ持って戻ってきた。


「お昼まだだったでしょう?ちょうどいい屋台が出てたからルフレの好きなプレフリーサンド買っておいたわよ。」

手渡された白パンには大ぶりの唐揚げっぽいもの(プレフリーというらしい)が2つ挟まっていて、こい茶色のタレがかかっている。


おいしそう…。


母さんにならって、市場の少し開けたところにあるベンチに座り、白パンを包んでいる紙をそっとどけて、一口食べてみた。


んっ⁉何この美味しい食べ物は!たれをたっぷり吸いこんだプレフリーが味のついていない白パンとマッチして口の中が幸せ状態なんですけど!しかも、プレフリーのサクサク感、間に挟まっているレタスっぽい野菜のバランスがとてもいいっ!


感動しながら食べ進めていると、母さんが思い出したように買ったものを入れていたトートバックから何やら袋を取り出した。


「おまけってプレフリーの揚げかすを付けてくれてたんだわ。これをちょっと振りかけると味が変わるんですって。」


ビニールの袋にたっぷり詰め込まれていたのはいかにもサクサクしていそうなプレフリーの揚げかすだった。母さんがパラパラと振りかけたのを見て、私も真似してみる。


あ、味が変わったぁ⁉サクサク感がめっちゃ増した!たれを吸い込んだプレフリーと揚げかすが混ざり合うことで、また別の不思議な味が生まれた!


おいしい、おいしい、と食べているうちにすっかり完食してしまった。


めっちゃおいしかった。なんかハンバーガーのパティが唐揚げになったよ版みたいな感じだった。プレフリーの揚げかす、まだいっぱい残ってそうだったから帰ったらちょっとそれ使って料理したいな。いいもの思いついたし。


おいしさに浸っていると、母さんがすくっと立ち上がって、


「さ、元気も出たしお肉を買いに行くわよ。今日は豚の解体の日だからいいお肉が手に入るわね。」


にっこりと笑顔でそう言い放った。

またおいしそうな食べ物が出てきましたよ…。書いた私が言うのもなんですが夜に読むにはおすすめしない話だなぁって思います。お腹すいちゃうので。

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