新たな世界
『痛いよぉ…。』
ふわふわした体の感覚とともに、高くてかわいらしい声が頭の中に響いた。
うーん…。そんなこと言われてもねぇ…。
誰に返すわけでもなくそんなことを考えていると、ぱったりとその声はやんだ。同時に、ふわふわしていた体に猛烈な痛みと高熱が襲ってきた。
いたいいたい!誰よ、私の体をハンマーでガンガンたたいてるやつ!
そう思った瞬間に、パチッとはじけるように目が覚めた。
「うーん…。」
目をゆっくりと開けると、まず見えたのはいかにもクモが住み着いてそうな薄汚れた壁だった。
こんな汚れてる部屋、見たことないんだけど!少なくとも私の部屋じゃなさそうだね。
恐る恐る起き上がって周りをゆっくりと見渡してみると、部屋のすみっこのほうに木箱?がいくつか並べて置いてあり、その上に何やらごちゃごちゃと物が入ったかごが乗せられていて、私が寝ていたベットの隣には同じようなベットが隣同士くっつくように並べられていた。
一応マットレス的なものは柔らかいけど、なんかチクチクする…。しかも変なにおいするし…。
少しでもチクチク部分を減らそうと寝返りを打っていると、青色の髪が目に入った。
「へ…?」
わたしの髪ってこんな感じだった?それに、こんな高い小さな子供の声だったっけ?
「ルフレ?#&%$%@+*?」
急にそんな声がして私はびくっとした。
「はい?」
ダレデスカ、あなたは。ていうか、ルフレって誰?
見慣れない部屋に見慣れない人。そして知らない名前。もう頭の中が全然追いついてくれない、と思った瞬間、脳内に無理やり入ってくるかのように、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた記憶が叩き込まれた。
ぐるんぐるんにかき混ぜられてるみたいで気持ち悪い…。
その途端、見るものすべてが見たことがあるように思えてきてしまった。それに、さっきまではわからなかった言葉も、理解できている。まるで、私の体の持ち主と一体化しちゃったみたいに。混乱する頭に、
『目の前にいる人はお兄ちゃんだよ』
『お前はルフレだ』
周りの物が必死に訴えかけてくる。お前はルフレだと。
「ルフレ?ルフレ?ほんとに大丈夫?」
心配そうに私を覗き込んできた兄?だけど知らない人に、なんとなく触れられたくなくて、
「熱、ある…。まだ寝てたい。」
くるりと寝返りを打って接触を拒否すると、
「そっか。無理しないでゆっくり休んでね。」
そういって兄は部屋から出て行った。
ふう。とりあえず、状況把握だ状況把握。
えーっと?私の名前はルフレ。父、母、兄と暮らしている、ね。父親は木工職人、母親はお針子さんらしい。最初に姿を見たのが、兄のユーグ。私より2つ年上。ルフレの記憶を探りつつ、分かったことは、ここがわたしの見知った世界ではないことと、ルフレという少女の体に転生しちゃったってことだ。ちなみに、私の家族の髪色は結構派手派手で、父が赤、母が薄緑、兄が薄い赤色で、私が青色だった。ここの遺伝子、どうなってんの!と突っ込みたくなるところだ。
あとはちょっとここのご飯を知りたいですね。それが分かれば私はそれでいいんだけど。
すると、ドアがガチャリと開き、木の器を持ったユーグが現れた。
「パン粥なら食べれるかなって思ったんだけど、どうかな?食べれそうだったらゆっくりでいいから食べてね。もうちょっとで母さんも帰ってくると思うから。」
ナイスタイミング!
それに、いいにおい。
どうやらお腹がすいていたらしく、体中が食べたい!食べたい!と言っている。
まあ、言われなくても異世界グルメ、堪能しますけどね!
遠慮なくスプーンを手に取り、ゆっくりとスープに浮かんでいるパンをすくって口に入れた。
「ん。おいひい…。」
思わず幸せな声がこぼれた。コーンスープみたいな味のスープを真っ白いパンが吸っていて、ただのパン粥なのに、とってもおいしく感じてきた。
この白いパン、なんだろう?小麦だけでできてんのかな。
スープはおいしいけど、なんかうまみが逃げてる気がする…。
作ってるとこ一回でいいから見てみたいなぁ。
うーんと考え込んでいると、バーンといきなりドアが開いて一人の女性が入ってきた。
結構美人さんだ。ちょっと髪の色と目の色が気になるけど。
そんなことを思っていると、
「よかった…。目が覚めたのね…。」
急に抱き着かれた。記憶によると私の母さんのようだ。すごい美人なんだけど、髪のつやがあまりなくてお手入れしてあげたくなる。
「三日も目が覚めないから心配したのよ。もうだめなんじゃないかって。でも、ほんとによかった…。」
なんか…。私もきっとお母さんにこんな顔させてたんだなぁと思うと…。
ごめんね、親不孝な娘で。
心の中で謝っていると、
「ごはん食べた?なにか作るわよ?」
と、母さんが聞いてきた。ついさっきパン粥を食べたばっかりだけど、まだまだお腹はすいている。こうなったら選ぶのは一つしかないでしょ!ついでにご飯作ってるところも見られたらうれしいし…。
「まだ、お腹すいてるの。何か食べたい。」
「わかったわ。何か食べれそうなもの、作るわね。」
部屋を出ていこうとした母さんに、
「あの…。ご飯作ってるとこ、見てもいい?」
「いいけど…。急にどうしたの?」
ちょっと怪訝な顔をされてしまった。
あ、やばい、怪しまれる。何とかしてごまかさないと。
「わ、私もご飯作ってみたいなーって思って?」
ちょっとひきつった笑みを浮かべつつ反応をうかがった。
「手伝ってくれるってことかしら?なるべく、無理しないでちょうだいね。起きたばかりなんだから。」
しばらく考え込んだ後、母さんはどこをどう解釈したのか、にっこり笑ってOKしてくれた。
え、見るだけでも私は十分だったよ?
まあ、いいか。ここの調理法、気になるもんね。
なぜか上機嫌の母さんに連れられて、私は部屋を出た。
前回からだいぶ時間がたってました。すみません。
さてさて!本編の始まりです。早くも母親に怪しまれてますが、大丈夫なのか⁉