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『code 04』 正体は俺!?

 そうだ。あの時......自分の胸を触って取り乱していた俺は、いつの間にか目の前に迫るローブの者の存在に我に返った。もちろん抵抗しようとしたのだが簡単に腕を取り押さえられてしまった。


 そして階段下に控えていた、物腰からその集団のリーダーと思える人物に少女が付けているリングと同じ物を首に取りつけられたんだ。


 まあ、あの場面で自分の胸を揉みしだく?......いやいや、胸に手を当て絶叫している不審すぎる人物を前にしたのなら当然の対応だと思う。


 そんな不届き者を忠義を尽くしている主人の前に放置しておくなんて、俺がローブの者の立ち位置だったのなら即座に切って捨てたことだろう。


 そう考えるとあの場ですぐに殺されなかったのは御の字だった。しかしあの絶対者......首領に似通った何者かの前で自分が犯したであろう醜態に今更ながら顔から火が出そうになる。


 もう一度、目を閉じている少女の首に付けられたリングに目を向ける。そう、これを装着された刹那に意識を失ったんだ。


 少女に近づき、リングに手を伸ばし掛けた瞬間、前触れもなく彼女の目がパチリと開く。


 どこまでも透き通るヴァイオレットの輝き、魂を吸い込まれそうになる紫電の瞳と視線が絡み合い、しばし息を吐くことも忘れ見詰め合う。


 ――やはり彼女ではない。もしかしたらと期待していた気持ちはその瞳を見た瞬間に砕かれた。


『スタールビー』それは彼女を象徴するとともに二つ名として呼ばれる由縁となった瞳の色と表徴。神秘的な赤い瞳には生まれながら星形の紋様が鮮明に浮かんでいた。


 しかし少女の瞳には紫色に輝く気高さが垣間見えるものの、星形の紋様など何処にもない。目を開いたことにより顔の印象も劇的に変わったのか、やはり彼女と少女の共通点は髪の色しかないことに気付いてしまう。


 ヴァイオレットの瞳が問い掛けるように、じぃと俺に注いでいる。何かを喋ろうと口を開き掛けるより早く、その艶やかな唇から言葉が紡ぎ出された。


「ありえねぇ。なんで俺が目の前にいるんだ」


 とても見た目が可憐な少女から発せられたと思えない乱暴な物言いに目が点になる。


「アイツらの幻覚? いやそんな局面ではなかった......いったい、俺は何処にいるってんだ。まさかあのまま死んで......お前は俺のドッペルゲンガーだとでもいうのか」


 少女は呟きながら首を振ってその考えを打ち消したのか、素早く立ち上がり警戒するように油断なく周囲に目を配る。そして何か勝手が違う感触を覚えたのか首に付けられたリングに手を伸ばす。


「なんだこれは......つぅ! 力が抜ける!?」


 もたれ掛かっていた壁をつたい、へなへなと崩れ落ちペタリと座り込んでしまった。


「ありえねぇ!? 誉れ高き『パンドラ・ゼーベ』並ぶ者なき、コード・ツヴァイ『音速の風脚」『喧嘩上等!かかってこいや!』」と呼ばれたこの俺がなんてザマだ」


 そういえば『喧嘩上等!かかってこいや!』って二つ名なんですか? そもそもそれ二つ名なんですかって問われ続けた黒歴史が......。


 そんな事を思い出しながら言葉を掛ける隙もなく呆然としてしまっていると、唐突に頭の中に思念言が届けられる。


『驚いたわ。目の前にいる娘は嘘偽りを言っていない。99.999%の確率で真実を述べている......その事から彼女の思考は間違いなく貴方である可能性が高い。もしくはそう刷り込まれた存在』


『ルナ......シーツ!? いたのか......』

『あら? 私が貴方から離れられない表裏一体のユニバースであることは百も承知と思っていたけど......認識を改める必要があるのかしら』

『いや、そういった訳ではないのだが......先ほどは反応が無かったから』

『そう? ファイナルブローをチャージするのに全エネルギーを費やしたからかしらね......あら? その割には私も貴方も、損傷なく接していられるのは変な話しね......それにいつの間にこんな謎めいた所に来たのかしら』


 呑気に話し合ってるように思えるが、その間も『ルナ・シーツ』は周辺の警戒を怠っていない。すなわち現在ここら一帯には俺に害をなす存在がいないことを示している。もちろんそこには目の前にいる正体が判明していない少女も含まれている......無力な存在として。


『――少し待ってね。この周辺をサーチしてみるから......あら? ダメみたいよ。この部屋の外はジャミングされているようだわ。どうやらこの部屋自体が堅牢な障壁で包まれているみたい』


 淡々と真実のみを伝える。そもそも戦略次元電算システムの人工知能である『ルナ・シーツ』は感情を有しているようで、それは見せ掛けでしかない。出来ないことを無理に出来るとは絶対に言わない。


 だけど俺が自分で考えて行動している......と思っていることとルナが喜怒哀楽を表現豊かに演じていることが本当にプログラムに沿っただけの行動かなんてことは実際のところ分からない。もしかしたら......。


「いったい、ここは何処でお前は何者なんだ! どうして俺と同じ姿をしていて一言も喋らないんだ!」


 相変わらず乱暴な口調で少女は問いただす。傍から見ればルナ・シーツと思念で会話しているのも黙り込んでいるとしか見えないのだろう。実際のところ今の状況とは全く関係なく、もの思いに沈みそうになっていただけだが。


「ルナと思念言で話をしていた......お前には彼女の声は届いていない......違うか?」


 ハッとして何かを呼び出すように集中しているが少しして落胆したのか肩を落とす。その態度から確信する。何故か解らないし、どういったカラクリなのかは謎だが、やはりさっきまで俺はこの少女として存在していたのだと。


「自分の胸に聞いてみろ。とくと確かめるんだな」


 少女は俺の視線になにかを感じたのか目線を下げる。そこに普段ならまずあり得ないポーズで両足を広げている......俗にいう女の子座りになっている自分の姿を目にする。


 そして淡くふくらむ双つの存在に気がつく。


 キョトンとした顔でそこに手を添え、ナンダコレハといった顔つきになると、今度は恐る恐る服の中に手を入れ胸の辺りでもぞもぞとした動きをみせ


「なんじゃーこりゃああああ!」


 とてもクリアな澄み渡った高い声が何もない部屋の中に響き渡る結果となった。


「下がねぇええええええええ!?」


 どうやら一歩、デジャヴに浸っていた俺より先をいったようだ。

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