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『code 23』 魔王軍幹部(前)


 月音の知識、思考をシュミレートし超科学と魔術の偶然の果てに創製されたルナ、身体的特徴をトレースして世界の理の間で創造されたフィルツィス、そしてシュリッセルと名付けられた月音の在り方を思い起こす謎の少女。 


『ルナ......さっき程までの俺と今ここに居る俺とでは、なにか接していて違和感はあったか』

『今の貴方とさっきまでのツヴァイの人格が別だったってことを言っているの? それなら言われるまでまったく気が付かなかったわ。知っての通り私は貴方の体温、心拍数、体調あらゆる状態を熟知している。二年間ずっと一緒だったのだから些細な事でも見逃さないわよ』


 ミランとどんな会話をしているのか知らないが、それなりに楽しそうに喋っているシュリを見て思う。中身が俺だなんていまだに信じられないところではあるが、実際のところ俺もあの中に居る時は、違和感なく行動出来ていた。


 今あの中に居るアイツもツヴァイでいる時はたぶん同じ事を考えているのだろう。


 もしかしたらどちらかがオリジナルで片方が創られた精神体のようなモノであるのかも知れないが、今はこの世界に呼ばれ月音を取り戻す力が二人分あることをプラスと考えよう。


『パンドラ・ゼーベ』そのものである首領と俺の存在意義である月音を二度と失ったりはしない。いつだって、どんな形になろうとも俺は俺なのだから。


 ルナと思念で会話をしている間に広間に通ずる小部屋からローブを纏った仕えが一本の杖を持って現れ、首領の後ろに粛々と控える。


「よし準備は整ったようだな。それでは改めてツヴァイとシュリッセルに魔王軍の幹部を引き合わせる。ミラン司式は任せたぞ」


「ハッ! ありがたき幸せ。滞りなく進行いたします。それでは早速ですが、第一軍から順に紹介させて頂きますわね」


 ミランによると魔王軍は第一軍から第六軍まであり、第四軍は先に首領から聞いていた不死軍団で、今は明らかに敵対勢力となっている。そこの軍団長だったアルルハインは首領がそれまでこの地域を治めていた魔王を打ち破る際に極めて貴重な戦力として活躍していたと口惜しい気に語った。


「裏切り者には死の制裁を。それが不死者とはいえ、次に会した時には必ずや魂の根源から滅してみせますわ」


 ミランは凄みのある笑みを浮かべ、呑気に思えるラシャも危険な気配を醸し出し同意する。


 俺に先輩を討つことが出来るのか......いや、必ずやってやる。もう二度と後悔をしないと誓った。『パンドラ・ゼーベ』に仇なす者は何者であろうとも殲滅するのみ。


「第六軍は今後、遊軍として活動していたミランとラシャにツヴァイとシュリ、それにルナツィヒを加え新たな体制といたす」


 首領の申し渡しにミランが訝し気にルナを見やる。それを目にしてフィルツィスがかってない変化を遂げたこと、今は名を改めルナツィヒの名を授けたことを語った。


「魔王様が授けられた女神の名を冠持つのであればこの者は、わたくし達の大事な仲間。共に『パンドラ・ゼーベ』を発展させましょう」


 ミランがそう語ると首領の後ろに控えるローブの者達も一様に深々と頭を垂れた。あの集団もゴーレムとして創り出された存在なのだろう。だけど自分で考え、一人ひとりが己の意思を持っているはずだ。


 ルナの中に生きずくフィルツィスも魔王軍大幹部のミランに個として認められ、感に堪えないといった表情を浮かべていた。


 第六軍に組み込まれた俺達にミラン達の獣人族がサポートする。そもそも獣人族は魔族というより亜人に近しい種族で人間国家にも多数が生息している。


 厳密にはミランたち一族は獣人族の中でも上位の存在と呼ばれる獣神族だそうだ。もちろん人間同士が国や個別に争っているように獣人すべてが味方についているわけではない。


 なんでもミラン達の父親であるレオンソードという人物と首領が数多の戦のあと分かち合い親友とまでなり、それを機に知己を得たミランが首領に一目惚れして臣下に加わったらしい。


 そして獣人といっても千差万別で犬や猫、牛といった哺乳類の形態から蛇、鰐といった爬虫類型など、その総数は雑多で人族に次ぐ勢力と言われる。その中で第六軍は主に哺乳類型の獣人で構成されているようだ。


 第二軍は重装騎兵の集団で爬虫類型の魔族がメインとなっている。その中でも軍団長は恐竜を思わす鰐の姿をした大柄の魔人だった。見た目は凶暴だが、話してみると穏やかな知性を秘めた物事に動じない男に思えた。


「俺の名はラグロック。ここ本拠地の防衛を主に行っている。それにしてもギガディを一撃で下したのは見事だったぞ。あの高慢ちきの鼻をあかしたのは実にスカッとした」


 どうやらギガディの主は見た目そのままで周りからも好かれていないようだ。ああいったタイプとは逆にラグロックを筆頭にこの手のパワータイプは実に判り易い。前の世界でも理屈などお構いなしに力こそが至上主義の仲間ばかりだったしな。


 俺は席を立つとラグロックの角質化した頑丈な鱗で覆われた拳と握りこぶしを打ち交わしあった。


「迷いのない良い拳打だ。こいつ共々、最前線で活躍できる日を楽しみにしてるぞ」


 隣に居るこれまた巨漢の戦士に向かって頷く。


「おれは第一軍を任されているバルトだ。オーガの中でも希少種にランクするハイオーガという種だ。魔王様の親衛隊は、殆どがおれの種族の者で構成されている。この上のない誉れなことだ」


 額の中央に立派な角を生やしたその男は獰猛な牙を覗かせながら口角を上げた。首領とよく似たその姿は歴戦の勇士といったところか。


 オヤジ......前の世界ではその鬼そのものの風貌から不安と恐怖の対象として組織外からは畏れられていた。それがこの世界に来て異貌を気にすることのない同胞を見つけ出すことが叶ったのか。


「そうだあのお方こそ我々の神とも敬う鬼神様だ。おれ達が守るなどおこがましい話ではあるが、この世界を手に入れるにはあの方でさえまだまだやるべき事は数多にわたる。アルルハインの謀反には煮え湯を飲まされたが、魔王軍の戦力増強の要としてお前には期待しているぞ」


 俺達は、がしっと手を握り合う。バルトはニヤリと笑い、くいっと指を立てて挑発するともう片方の手を差し出してきた。


 ほほぅそうきますか。見上げる程の大男とはいえ挑まれて引くわけにいかない。がっつり組み合った指に徐々に加えられる力に対抗するべく、こちらも力を増していく。もちろんコードを用いるなんて無粋なことはしない。


 バルトの上腕二頭筋がこれ以上ないぐらいに盛り上がり、血管がピクピクと躍動する。目も充血してきて青筋も浮き上がり、まさに鬼の形相を地でいってる。まあ、傍から見たら俺も似たような顔付きになってそうだが。


 上背の差は如何ともし難し、俺を地面に押し込めようとあらん限りの力でおい被さってくる。


「ツヴァイ! ボクとの約束を忘れちゃダメだからね! 誰にも絶対に負けないってあの夜二人で誓ったよね!」


 おいおいおい! いつ誰が誰と何の約束をした!少なくともラシャ! お前と何かを誓いあった覚えはこれっぽっちもないからな! だいたいあの夜ってナニ? キミとはついさっき会ったばかりですよね?


「いったいいつの間に、そんな約束をしたんだか......安心しろ! 月音は俺が必ず幸せにしてみせるからな! お前はラシャと末永く楽しく暮らせよ」

「まあ。わたくしの弟をどうやって凋落したのやら、ですが身内の幸せを願うのも姉としてやぶさかではないですわ。お二人の今後に幸あらんことを」

「命を賭けて戦った二人は知らぬ間にお互いを認め合い、それは本人たちも気付かぬうちに恋に昇華していたのね。ああっマスター! 私はたとえ男同士とはいえ、あなた達の数奇な物語をずっと見守っているわ!」


 ぐぬぬぬっ やつらからそれは腐臭が漂ってきやがる。しかもニマニマしながら好き放題いいやがって! 後で吠え面かかせてやるからな。


 気がつけば俺達の周りをそこに集った魔王軍の全員が取り囲み、やいのやいの言いながら勝敗の行方を観戦していた。


>>NEXT

 次話『code 24』 魔王軍幹部(後)

 4月17日 21時頃投稿予定です。






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