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『code 20』 対なる力


 仕切り直しとばかりにミランはラシャを招き寄せ、何ごとか耳打ちする。


 そうやって寄り添っていると雰囲気は陽と陰まるで違うとはいえ、瓜二つの類いまれな美貌が並び立つと獣人特有の野性味も相まって、妖しいまでの艶やかな佇まいを見せつけられる。


 そりゃ、あれで片方は雄だって言われても信じられないわな。


「魔王様、この者たちとわたくしたち姉弟が二対二で戦うことをご了承下さいませ」


 内緒の話しが終わったのか甘えの声が入ったミランの願いを首領は面白そうに聞く。


「ふむ。しかしここではそなたの力を思う存分には発揮できぬぞ。それにツヴァイは兎も角としてこのシュリッセルに関しては実戦経験が無いに等しい。ハンディ的にはそれで問題ないだろうが、お前はこの提案を受け入れる心構えはあるのか?」


 首領は頬杖をつき、ニヤリと笑う。俺が断るわけがない事を熟知しているのにそれは楽しそうに問うのもどうなんだろう。


「ええっ!? 実戦を経験したことがないなんて、そんな雑兵オン雑兵が魔王軍に入ってなんの意味があるの!? 冷やかしならさっさと出てけ!」


 そしてラシャにこの雑魚が! と言わんばかりに指を刺され、俺の闘志にメラメラと火が灯る。


「誰が雑魚だ! お前みたいな見た目が男の娘の獣人になめられる俺様だと思うなよ! 姉弟まとめてお仕置きしてやるぜ」


 実際にはこの身体になってどのような戦い方が出来るか未知数ではあったが、馬鹿にされ黙って受け入れる気はさらさら無い。


 二人に向かってビシッと中指を突き立てる。


 まさかシックなドレスをまとう可憐な美少女が、そんな乱暴な言葉を吐くとは思っていなかったのか、ラシャは目をパチクリとさせる。しかし言われた内容が頭に入ったのかしばらくするとみるみる顔を怒りで真っ赤にしていく。


「まあ野蛮ですわ。貧相な見た目にはそれ相応の脳みそが詰まっているようですわね。口のきき方一つとっても素性が知れていますこと。ここは魔王軍、いえ魔王様のためにも是が非でも強制執行が必要なようですわ」


 怒りに燃えるラシャを抑え、ミランは前に出る。俺の言葉遣いがよほど気に入らなかったのか腹に据えかねているのがよく判る。


「もし貴方たちがわたくしたちと戦い生き残ることができたのならば......そうですね。わたくしの下僕として一から躾けをしてあげましょう。まあ、万が一にもその可能性はありませんけどね」


「ハッ 今のうちに言ってら、後でお前たちが土下座して詫びる未来が俺には見えるぜ」


 ツヴァイも中指をビシッと立て挑発する。


 睨み合う俺たちは首領の小気味良い笑いを含んだ声で我に返った。


「ミランよ。戦うのはよいが二人は我が認めている仲間だ。命を獲るのは許さぬ。それはツヴァイ、シュリッセルそしてラシャもだ。ここでの勝負に命を賭ける意味などまるでない」


 ミランが言葉を失う。それは俺たちの命を奪えないと諭された事ではなく、首領が俺たち......人間如きに負けるはずのない自分たちの身を気遣われたことがショックだったんだと思う。


「本当......目がくらみましたわ。これほどの屈辱を味わったのは久方振り。わたくしの堪忍袋の緒がぶち切れる前に一方的な蹂躙劇を始めましょうか!」


 言葉を終えると同時にザッと後ろに下がり、その美しい口から詠唱が漏れ聞こえてくる。それに付き添うようにラシャが前に立ち守るべき壁となる。


 俺とツヴァイは目を合わせ瞬間的にやるべき分担を決める。ミランとラシャは双子の姉弟だけあってコンビネーションは完璧なのだろう。だけどあちらが一心同体ならば俺たちも二心ではあるが一体、ツヴァイがやるべくことは考えるまでもなく判る。


 実戦経験が無いのはあくまでもこの身体であって、俺の思考そのものは如何なる状況からでも戦い成果を挙げるS級戦闘員の技能が蓄積されている。


 とはいえこの身体がどのような戦い方に向いているのかは実際のところ手探り状態ではあるのだが。


 ミランの詠唱が終わり魔法が繰り出される。


「漆黒の闇よ かの者どもに纏え ”ダークネス”」

「太陽の輝きをこの双手に! コードLv.Ⅳサン・フラッシュ! 煌めく陽光を我が力に! コードLv.Ⅴサン・ラッシュ!」


 詠唱を聴き、フィルツィスの知識からルナが先読みして最適の攻撃を繰り出すようサポートする。周囲に押し寄せてきていた闇をツヴァイはバトルグローブを打ち鳴らし、目もくらむ閃光を発することで撥ね退けた。


「ニャアアアアッ......がっ!?」

 闇と共に迫ってきていたラシャはその光を直視してしまったのか、続いてツヴァイから無数の拳を浴び、後ろにいたミランともども吹っ飛ぶ。


「先ほどの趣旨返ししてやったぜ! まだまだこんなものじゃないだろう。オラッ! 掛かってこいや!」


 ラシャはよろめきながらも立ち上がると口を手で拭い、そこに付着した赤色の汚れを不思議そうに見つめる。


「......血。これってボクの......うわあああアアアッ!」


 手に付いた自らの流血を顔を伏せ震えながら見ていたラシャが小刻みに震える。


 徐々に毛並みが逆立ち体がひと回り大きくなってゆく。そして雄叫びを上げ、ぱっと見は人間と区別できなかった姿から獣じみた風貌に変わるとツヴァイに襲い掛かる。


 先ほどよりも比較にならないほど速い動きは目で捉えることが出来ない。


「コードLv.Ⅲブースト! チッ......追いつかねえ! ならば真の加速をこの手に!コードLv.Ⅳアクセルレータ!!」


 ブースト系の上位コードを発動して対抗するツヴァイをつい目で追っているとゾワっとする気配に襲われ


「戦闘中によそ見なんて、そんな余裕はなくてよ!」


 声と同時にとてつもない衝撃が腹部を襲う。


「あら。的確にガード出来るなんて、思ったよりはやりますわね。それにへし折ったつもりが折れてもいないようで......骨と皮しかない割りにはしっかり対応できているのね」


 とっさに肘で拳をガードしたものの軽量級とは思えないミランの重い撃ち込みを受けて腕が折れなかったのは、俺の全身を纏う銀の粒子の力か。


 しかし後方支援だと思えたミランなのにどうやら近接格闘の心得もあるようで的確に急所を狙ってめったやたら打撃を繰り出してくる。


 その一撃がこれまたどれをとっても重い。


 銀色の粒子を撒き散らし、防戦一方になるのだがそれにしてもと思う。


 なんでドレスってこんなに動き難いんだ!


 足を上げて防御しようにもスカートがまとまりつき動きが制限される。いっそうの事脱いでしまおうかと思ったがミランがそんな隙を見逃すわけがない。


「意外とやりますわね! ではこれはどうかしら? 闇の眷属よ。主なる王に通ずしキンドレッドが命じる。引き裂くはマルチダークネスクロー!」


 ミランの背後から巨大な影が三体沸き上がり、死角はないとばかりに三方向から複数の鋭い爪を振りかざす。


 迫ってくる爪を限界まで見切り、ドレスに接触するタイミングを狙い上空高くに舞い上がる。衣が裂ける音が辺りに響き、空中で無防備になった俺の隙を見逃すはずもなく三体の影が追撃を仕掛けてくる。


 そして影は俺を取り囲み......次の瞬間、黒いケシ粒となって宙に掻き消えた。


「な、なんですって!? 先ほどといい、わたくしの漆黒の闇の精霊をいとも容易く無に還すなんて......貴女いったい何をしたの!」


 よし!邪魔なドレスを敢えてズタズタにしたおかげで動きに制限がなくなった。華麗に着地を決めると澄まし顔で応えた。


「雌雄を決しようとしている奴に敢えて教えるわけないだろう。ベー」


 中指ばっかり立てる挑発も芸が無い、それに今は女なんだからと目元に可愛らしく指を添えて、あかんべえしてやった。


>>NEXT

 次話『code 21』 決着の行方





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