表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の秘密組織のS級戦闘員ですが~異世界にTS転性!?からの魔王軍幹部にジョブチェンジしました!  作者: Ciga-R


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/27

『code 19』 ミラン・ルーレットの帰還


「ぐがああっ!?」


ラシャの姿が見えなくなった刹那、ツヴァイが声を上げてのけ反る。


 続いて倒れるわけでもなくユラユラと体を揺らしよろめく。その動作は自分の意思で行っていないのは明らかで、実際のところ宝珠の力で強化された俺にはラシャが目にも止まらぬ速さで動き回り、あらゆる角度から拳や蹴りをツヴァイに向け放っているのが見て取れた。


「――ツヴァイさん、がんばって」


 消え入るような声が横から漏れ聞こえる。どうやらルナはツヴァイの中にサポートしに戻り、フィルツィヒのみとなったようだ。


「そのボディスーツって高位魔法の付与された糸で編み込まれたみたいで妙に硬いねえー でもこれでどう?」


 高速で動き回るラシャなのに声はやけに鮮明に聞こえる。次の瞬間なにかをしたのかツヴァイは再び、ひきつれた叫びを上げると激しい音をともなって柱に激突していた。


 どうやらゼロ距離でツヴァイは腹部に複数回に渡り掌底を撃ち込まれたようだ。


 これって......さきほどギガティに決めた複合コードそのものを真似されてるよな。


「ふふっ 自分の技を喰らった気分はどう? ねぇねぇ気に入ってくれたかな?」


 腹這いになって倒れ込んでいるツヴァイを動きを止め、姿を現したラシャが見下ろす。舌なめずりしながら楽しそうに問う。その姿はまさに猫が鼠をいたぶっているように見えた。


「て、てめぇ......俺が大人しくしていれば調子に乗りやがって、女だからって容赦しねえ」


「あはっ 甘いことを言うね。それにしても女ねぇ......ボクに向かってその暴言は許さないよ。それにさっきの忠告ちゃんと聞いてなかったようだね。まったく人間風情が図にのっていると......百回は殺してあげる!」


 蜘蛛のように地面に身を伏せ顔だけ上げ睨みつけるツヴァイに対し、ラシャの顔から楽し気な表情が消え、これ以上ないほどの不愉快な様子をみせる。


「そのまま地面に永遠に這いつくばっているがいいさ!」


 高速でその姿をにじませるラシャの言葉に重ねて、ツヴァイの「加速を我が力にコードLv.Ⅲブースト!」と叫ぶ声が響き渡った。


 残像と残像が重なりあい、離れてはぶつかりまた近づいては遠のく。いったい幾つの拳や蹴りが交差したのか、しばらくして動きを止めた二人は肩で息をすると再び睨みあう。


「ボクの動きについてこれるなんて、思った以上にやるね」


「お前もな......速さで俺と競うなんて自慢してもいいぞ」


「言ってら......って姉さま!? もう戻られたのですか!?」


 ラシャが唐突に言葉を途切らせ、勝負そっちのけで正面に見えていた扉の方に向かって叫ぶ。


 戦いの途中とはいえ首領が見ている前で、また今までの戦いを通してこのような状態からの不意打ちはないと考えたのかツヴァイも振り返り......あっけに取られる。


 その間抜けな面に俺も扉がある方に振り返り......たぶん同じような表情になったと思う。


 そこには長髪の毛並みをこれぞお嬢様然とした縦ロールに巻き上げ、顔付はラシャに瓜二つの少女が落ち着き払った態度で首領に対し臣下の礼を行っていた。


「親愛なる魔王様へ、ミラン・ルーレットつつがなく任務を完了し、ただいま帰還いたしましたわ」


 高貴な出を思わせる優雅な喋り方は出来の良い淑やかな姉、対してラシャはやんちゃなボーイッシュな妹といったところか。


 その見るからに只者ではない姉の報告をとても満足な様子で首領は聞き入っている。


「よくぞ無事に戻った。後ほど詳しく報告を聞かせてもらおう。それにしてもこの短期間で成果を上げるとは流石だぞミラン。極めてエクセレント!」


 最高級の誉め言葉を受け、下げていた首がたちまち朱に染まる。顔を上げると心から誇らしげな面持ちで首領のみ見詰めている。そこには忠誠心の高さと恋する乙女の一途さがあふれ出ているように思えた。


 しばし世辞をかみ締めるように堪能していたミランは、ここに来てやっと首領以外が視野に入ったのかラシャに目を向け、続いてツヴァイ、俺の順に視線を移動させる。


「この者たちは? 人間のようですが初めて見る顔ですわね。ラシャがその者と戦っているようですが、侵入者をいたぶるゲームでもしているのでしょうか」


 ラシャに似ているが首領以外を見る眼差しが極めてさめきっているため、その物言いと相まって殊更に冷ややかな印象を受ける。


「いや、この者たちは我が信じるに値する......そなたやラシャに負けず劣らない、これからの『パンドラ・ゼーベ』にとってかけがえのない同胞となる、ツヴァイとシュリッセルだ。その実力をここに集う魔王軍の幹部たちに知らしめるためラシャと勝負を行っている」


 楽し気に語る首領は絶対わざと言ってると思う。実際にその言葉を受けてミランの周りの温度が急激に下がったように感じた。


 わたくしたちと? 一緒? 魔王様が信じるに値する?? 首領の言葉を反復しながら小さく呟き、それは不思議そうにこてっと首を傾げている様子は、無表情なだけに余計な怖さを見るもの全てに与える。


「こんな奴らが魔王様の腹心候補だなんてさー ボクのこの憤りを姉さまも解ってくれた?」


「――それで貴方は何を悠長に遊んでいるのかしら。まさかと思うけど窮鼠猫を嚙むという格言を知らないわけじゃなくてよね。あまり遊んでばかりで万が一にもお父様......誉れ高きレオンソードの顔に泥を塗るようなことはなくてよね?」


「ニャ、ニャニャ......にゃんてことを!?」


 にゃんですと!? やはりというかニャとか普通に言うのね。


 やっぱりネコ耳にはニャン語が似合う!


 別にケモナーってわけでもないのだけど、うんうんと悦に入っているとひたりと姉が底冷えする視線を向けてきて、無遠慮に上から下へと何度か目を走らせるのを感じた。


 ふふん、持って生まれた俺の才能と女になったとはいえこの美貌とスタイルに恐れ入ったか!


「貴女がシュリュッセルですか......。これまたぱっとしない平坦な棒のような小娘ですこと。せっかくの魔族のドレスもそんな貧弱な体に包まれて......嘆かわしいことですわね」


 あッ!? なにこいつ俺に喧嘩を売ってるの! なになに自分はちょっと胸が大きいからって図にのってませんかねぇ。


 まあ、確かに控えめなとこは認めるけど、これでも貴女の妹には勝ってるのですがね!


 俺がラシャの胸元をチラっと見たのを察したのか、馬鹿にしたような吐息をもらす。


「はあ......正味のところ、わたくしの弟より勝っている。雄より僅かながら優っていることが女として、貴女のその小さなプライドを満足させるのかしら?」


 お、おっす!? 貴女さま今なんと仰りました? なんか幻聴か弟ととも聞こえたような気がするのですが......。


「あーあ、やっぱり雌だと思われてたんだ。こんなにも見た目が猛々しい勇壮なボクをつかまえて女扱いなんて......本当に人間って失礼しちゃう種族だよね」


 どこがじゃ! 居並ぶ魔族も自分の姉すら微妙な表情でお前を見てるぞ。だいたい男ならなんでそんなに腰が括れて艶っぽい動きしてるのじゃ!


「弟のことはひとまずおいときましょうか。このような者でも貴きレオンソードが大事な跡取りにして高位獣人族の闘士。さすれば......わたくしとラシャにて貴方たちが真に魔王様の信じるに値する者なのか見極めましょう。この勝負受けて頂けますわね」


 それはエレガンスな仕草で一礼するとミランは見る者の魂が奪われるほどの華やかな微笑みを浮かべて宣告した。


>>NEXT

  次話『code 20』 対なる力




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ