『code 01』 終わりと始まり
――覚醒する。思考が唐突に蘇り、無意識にバネ仕掛けのような動きを行い飛び退く。
そのまま手を軽く地に付け、屈み込むと前方に鋭い視線を投げ掛けた。
うかつ過ぎる......戦闘最中に意識を無くすなど、まずあってはならないことだ。今このように動けて、考えていられる状態であることを神に感謝したい気分だ......もちろん神などこれぽっちも信じちゃいないのだけど。
しかし、この凄まじいまでのプレッシャーは、いったい何事なのか。
この空間を制圧する途方もない気が薄暗闇の向こう側から吹き付けてくる。それは先ほど相見えたアイツらのボスでさえ軽く凌駕しているのが肌で感じられる。
桁違いのオーラ......そして極めて禍々しい。
俺は我知らず額に掻いた汗をぬぐう......汗をぬぐう? 手の甲に感じた粘つくような感触。
ありえるのか......誉れ高き『パンドラ・ゼーベ』選び抜かれた戦闘のプロフェッショナルが集う第一種特務戦闘課、その中でも並ぶべき者が極僅かにしか存在しないS級戦闘員のこの俺が冷や汗を掻くなんてことが。
前方から片時も目を離すことなく、戦闘及び全てのサポートを担う戦略次元電算システム......俺の為だけに編み出された頼れる相棒『ルナ・シーツ』を呼び出すべく意識する。
何時もなら、うっとうしいほどの勢いでこちらが知りたい以上の語り掛けをしてくる『彼女』が、この一大事にどうしたことか応えがない。
それはあり得ないことであり、間違いなく俺の身体に何かよからぬ異変が起きていることを物語っている。
目の前に広がる薄暗闇に今一度、目を凝らす。
――そして違和感の正体に気がつく。
闇を暗視することが出来ていない。今現在、包まれている程度の闇は強化された俺の眼であれば容易く、この場所全体を見渡すことが可能なはずだ。
この場所......この場所? 俺は何故こんな訳もわからぬ所にいるのか。しかし完全に知らないところかといわれると首を傾げたくなる......俺はここを何故か解らないが知っている。
それにしてもいったいどれぐらいの時間、意識を失くしていたというのか。先ほどまで数々の犠牲を払い、やっとの思いで突き止めたアイツらのアジトへ最終決戦ともいえる『パンドラ・ゼーベ』の持てる最大戦力にて突入した。
その先鋒を務めたのは俺を含むS級戦闘員、選ばれし三名の戦士だった。本当は十名いたのだか今までの戦いで亡くなっていたり、先の戦でも二名が幹部ともども首領を守るため戦死していた......そして首領も。
それは『パンドラ・ゼーベ』にとって弔いの戦だった。
普段の戦いであれば単騎で一つの都市を壊滅しえる一騎当千のA級や集団戦闘においてはA級とも互角に渡り合えるB級戦闘員達、この戦いに全てを託し己の身をいとわぬバックアップにより、ついにアイツらの中核『司令部』に数多くの犠牲を払うことで進入を果たした。
そしてそこで待ち構えていたアイツらとそのボス、総司令官『金色のシャウトロン』と対峙するに至る。
アイツらとは正義の名の下に集いし五名のヒーロー、ヒロイン達。各自が色にちなんだ戦闘スーツをまとい、象徴されるシンボルカラーに見合った攻め手、守り手を担う。おそろしいことに彼ら一人ひとりの実力はS級戦闘員クラス、さらに恐るべきは複数人で組んだ際にとんでもない力を発揮する点、五名全員が揃った時の戦闘力は理不尽そのもので俺たちS級すらも労せず駆逐する。その為ワンマンアーミーを信条とするA級、S級のエキスパート達が何人も帰らぬ者となっていった。
アイツらにはアイツらの理想と信念、俺達には俺達の野心と行動原理、首領への忠誠......目指す未来に違いはあれど、それは組織対組織の戦であり、正義や悪といった一区切りだけでは言い現せない関係性がそこにあったと思う。
己の力を過信するあまり個々の技量だけに頼っていた俺たちは、何度も勝利を確信してはその都度、奇跡としか思えないアイツらのチームプレーに辛酸を嘗めることになったんだ。そのため俺たちも単体ではなく、いつしかチームを組み対抗していたが。
戦闘態勢を崩すことなく、つい先ほどあった事に思いを巡らせていると不意に目の前に光が灯る。
瞬間的に目を瞑る。それは暗闇で唐突に光を見てしまった際に目の機能を奪われてはならないといった繰り返されて行われた訓練のなせる技ではあったが、得体の知れないモノを目の前にしているこの状況では不覚としかいえない反応だった。
しかし、何事も起こらない。訝しく思いながら光に慣らすように少しづつ目を開く。
思ったよりは淡い光だったようで、すぐに目が慣れてくる。その正体は前方に見える薄紫と白色にゆっくりと色を変え、頭上高く地肌のままでいる天井近くまで流れる光の粒子が、地面に描かれた魔法陣と思われるモノから放たれる輝きだった。
その魔法陣を均等に囲み一様に首を垂れているため、まるで存在を感じさせない頭からフードを被りローブを纏った立ち姿が総勢六名いるのが目に映った。