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『code 18』 真打登場


 二人が対峙する。ツヴァイに比べギガディの上背は頭二つ分は飛び抜け、横幅も優に二倍はありそうだ。お互い防具は軽装だがギガディは素肌の上から簡易な胸当てを着け、鎧不要と思える筋肉がはち切れんと見ているだけで暑苦しい。


 同様に体にフィットした黒のバトルスーツに胸当てを装着しただけのツヴァイも鍛え抜かれた腹筋がスーツ越しに浮き出ている。筋肉ダルマのギガディに対しスラリとした立ち姿は黒ヒョウを思わせ、その身のこなしは軽やかで堂に入った姿は自分だと分かっているのに不思議と見ているだけで鼓動が早くなってくる。


 なんだろう。このあり得ない感情は......。俺って実はナルシストの気があったわけじゃないよな。


 とてつもない悪寒が走り抜け、なにかを追い払うように首を振って全力否定する。そうだ、それに今はそんなことよりこれから行われる戦いに意識を集中しないとダメだ。ここで俺達の実力を示さないと今後の扱いが思いやられる。 


 だいたいここに集った魔王軍の幹部たちはこの対決にいったいどのような反応を示しているのやら。どうにもこうにも異世界から召喚され、すぐに首領のお気に入りになった俺たちが気に食わないのか敵意むき出しの視線を浴びてる気がするんだよな。


 まあ、そりゃそうだ。俺が逆の立場でも思う。ポッと出てきた敵対する種族のそれも自分達より脆弱と思える者を今から幹部だと言われても、はいそうですかとは納得しないよな。


 ツヴァイ......ここは何がなんでも必ず勝てよ。


 そういえばルナはなにをあんなに心配していたのか。何かが引っかかり彼女に目を向けると周りに目を向ける余裕もないのか、二人の戦いを口に手を当て食い入るように凝視している。


 いよいよ自信満々のギガティの主である魔族の合図で対決の幕は切って落とされた。


「コードLv.Ⅴグラビティ・ナックル! 対なる力はコードLv.Ⅵダブル・フィニッシュ おらっ!土手っ腹にこいつを喰らい昇天しやがれええ!!」


 開始早々、ツヴァイが裂ぱくの気合いを込めた上位複合コードを発動する。


 ドオオオォーン


 広間に凄まじい音が響き渡りギガディの巨体が宙に浮く。


 なんだ......ちゃんと二つのコードを同時に実行できているじゃないか。


 現状あの筋肉ダルマがどれだけの力を秘めているのか判らないため、ダブル・フィニッシュを使ったのは正解だ。あのコードはその前に放った技を間髪入れずなお且つダメージを増幅して繰り出すことが可能だ。大技のため僅かなクールタイムが発生するとはいえツヴァイのヤツ、初手から加減抜きで攻めたな。


 さてあのデカブツに対してどれだけのダメージを与えられたのやら。


 宙に浮いていたギガディは大きな音を立て地に戻るとニヤリと口角を上げる。


 しかし次の瞬間、泡を盛大に吹き出しながら白目を剥いて大きな音とともにひっくり反った。


「な、な、なんだと......」


 ギガディの主も口をパクパクさせ、一瞬でピリオドがついた戦闘に唖然とする。打ち倒したツヴァイも何が起こったのか理解できていないのか、漆黒の騎士とギガディを交互に見比べ戸惑いを浮かべていた。


 戦った俺だから判る。あれではどうみても漆黒の騎士の方が何倍も手強いだろう。


「――いつまで醜態を我の前に晒すつもりだ。極めて目障りだ。そなた共々この場から今すぐ失せろ」


 静まりかえった広間に首領の容赦ない一言が響く。直面した魔族は蒼白い顔を真っ白にしたと思うと今度は茹でタコのように真っ赤にし、憎しみの篭った目でツヴァイを睨みあげると地に横たわったままのギガディの頭部を狙って足を振り上げた。


 しかしその蹴りはツヴァイのバトルブーツにガツンと受け止められ、それは情けない悲鳴を上げる。苦悶の表情を浮かべ呪詛を吐く魔族にツヴァイは人差し指をチッチッと揺らす。


「そいつに罪はねえよ。しいて言うならば強すぎる俺様に罪があるのかも知れないな......フッ」


 乱れてもいない髪をパサリと撫で付け、何かをアピールしたいのか俺に向けてニカッと微笑んできた。


 こいつマジうざ。


 先ほどツヴァイを見ていて感じた高揚とした気分が急速に消し飛んでいく。


 どうなんだろうね......アレと思いルナを見るとどうしたことか頬を染めて俯いてしまっている。ええっ!? あいつのあの仕草に何か照れなきゃいけない要素があるの!? ルナさんご乱心ですかい!


 なんて思っているとガバッと顔を上げたルナは心底疲れた様子でやれやれだぜと呟く。


「マスターも本当どうでもよいところに、これでもかって格好つける性格してるよね」


 お手上げポーズでため息混じりに溢す。よかったいつものルナに戻ってくれたようだ。


 いったい先ほどのデレルナはいったいなんだったのか。気になって問うとどうやら意識を切り替えることでツヴァイのサポートであるユニバースにも戻ることが出来るとのこと。問題はその間の意識はフィルツィヒのみなんだよねと呟く。


 フィルツィヒ......男慣れしてなさ過ぎ!


 いけない。人の振り見てなんとやらだ。月音に嫌われないためにも客観的に自分を考察することは大事だ。

 

 俺はまた一つ自分(ツヴァイ)の行いから大切な何かを学ぶのだった。


「ツヴァイ勘違いするでないぞ。そいつが並以下なだけで魔族の力とはそんなに柔なものではない......騎士たちよ、そいつ等をさっさとこの場より摘まみ出せ」


 二人が広間から連れ出されていく。魔族の男は扉の向こう側に消えるまでツヴァイをすごい目で睨みつけていた。


 うむ。粘着質ぽいキャラだったから後々やっかい事にならなきゃいいのだけど。


 先行きに若干の不安を感じていると広間の柱の影から鈴を転がすような声が届いてきた。


「魔王様の御言葉じゃないけど魔族があのような脆弱なものだと思われるのは、ボクとても心外なんだよね」


 柱の影から現れたものを見て......堪らず二度見してしまった。そこにはモフモフした毛皮で全身を覆った人間でいえば十五歳前後に見える少女が悠然と佇んでいる。


 ――なにこのネコ耳少女。


 長いまつ毛の下にキラキラと輝くアーモンド型の瞳、ツンと尖った鼻は少し上を向いている。フランス人形のようにびっくりするぐらい整った顔立ち、毛皮が覆っていない白い肌は陶磁のようにすべすべで、そこだけほんのり桃色の頬からピンと三本のひげが両脇に生えているのもこの上ないほど愛嬌がある。


 ――なにこの生き物。


 全身を覆う銀ぶちの毛並みはシルクのように艶やかでアメリカンショートヘアを彷彿とさせる。髪があるべきところから両耳がぴょこんと飛び出し、ふたまたのしっぽがチラチラと揺れる様子はこれまた堪らなく愛らしい。


 ――なにこの最終兵器。


 惜しむべきは今の俺とどっこいどっこいの慎ましやかな胸のふくらみ......いな、これだけ無いのなら絶対に勝ってる!


 うん、悲しんではいけないよ。これはこれできっと何かしらのニーズがあるだろうから。たぶん!!


「なんだか今......とてつもなく不愉快な気持ちになったかも......まあいいや、改めて紹介するね。ボクは古の獣神の気高き血を受け継ぐ、偉大なる獣王レオンソードが第一子、ラシャ・ルーレット。魔王軍の真の実力ってやつをその身に味あわせてあげるよ」


 ボクっ娘ですか......その言い方も仕草も最後にくすっと笑った全てがハートをズッキューンと撃ち抜く。ツヴァイもルナでさえも口をオーの字に空け呆けたように彼女を見ていた。


 いかん。慌てて俺もポカンと空いていた口を閉ざす。身近に自分を写す鏡を客観的に見れるって実にいいことだ。


 ラシャはふわりと飛び上がり空中で回転するとツヴァイの正面に着地する。


「さて、いざ尋常に勝負! 先ほどの筋肉だけのデカブツを基準にしないようにね。そんな甘えた考えだと瞬く間にこの世から消えちゃうよ......ボクからの優しさあふれる忠告、ゆめゆめお忘れなく!」


 ラシャは無邪気な笑み浮かべ、言い終えると同時にその姿をこつ然と目の前から掻き消した。


>>NEXT

  次話『『code 19』 ミラン・ルーレットの帰還




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