虫のコレクション
僕は部屋に並べたコレクションを見てため息をついた。
いつも僕と一緒にいてくれてありがとう。
「ずっと綺麗にしていてあげるからね」
それらを撫でて、僕は満足する。
「さっきの子も、すぐに仲間に入れてあげる」
これは、僕の姉に寄り付いた虫たちの、変身コレクション。
身も心も美しい姿へと変わった、君たち。
僕がその感情に気づいたのは、小学生の頃。
姉が中学に入学し、制服を着るようになった。
お姉さん、だと思った。
今までそのように思ったことはない。綺麗とかそんなこと考えたこともなかった。ただそこにいる、当然のようにいる人だった。
それが、きちっとしたとたん、別のものに見えて。
「お姉さん」というものを、認識した。
意識してなのかそうでないのか、僕にかまってくれることは減って、同級生の人たちと遊ぶようになった。
姉は、女性にも男性にも人気がある。
姉に触れようと、みんなして群がる。
触れるな。
僕の中に何かぐつぐつしたような、感情が回る。
僕の姉なんだ。
その人の弟は、僕だけだ。
僕より先に、なぜあの人が触れる。
その感情は、年を重ねても、ずっと僕にまとわりついたままだった。
姉は僕と話すときも、他の人と話している時と変わらない。
僕は数いるうちの一人だ。
僕は誰とも変わらない。そんなはずはないのに。
姉は僕のものだ。
姉は友人が減ったと嘆く。
以前より僕に話してくれることが多くなった。愚痴を吐露する。心を許してくれる。
僕だけに。僕だけだ。
大丈夫だよ、お姉ちゃん。
お姉ちゃんの友人、ずっとここにいるから。
お姉ちゃんが僕に話してくれる分、お友だちには僕がかまってあげるからね。
だから、僕にもっと話してよ。
もっと僕の前で涙を流して。
僕に頼って。
誰もいなくなっても、僕はずっとそばにいるからね。
さあできた。さっきの子だ。
まっさらにして、綺麗に拭いて。
これから液体の中に入る。
おっと、そろそろこれも補充しておかなければならないな。
また父に言わなければ。
トプンと、それが浸かっていく。
これから君は生き始めるんだ。僕の手の中で、新たな生命として。
汚らわしい前世は捨てて、綺麗になろうね。
また一人、僕の大切なお友だちが誕生する。
前より喋るようになった僕を、姉は喜んでくれているだろうか。
僕の成長と、あなたへの感情を、ずっとそばで見ていて。