断罪の魔天使と聖少女と魔王と偽りの記憶
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クロスディスターJADE
第二十話 作られた世界
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ぴっ。
映像のスイッチをオフにするよ。
時間を見つけては少しずつ消化していった映像作品、長かったエピソード3もようやくあと一巻で終わりだ。
「ねえねえスーちゃん」
「何だ?」
「この辺のところってさ、前に見たやつと同じ時代だよね?」
たしかあれはマール海洋王国でレジスタンスの地下アジトにいた時。
スーちゃんが暇つぶしに見せてくれたミドワルトの過去映像。
あの時に見た映像と今回の映像資料には、まったく同じシーンがあった。
映像の中ではSHINE結晶体って呼ばれてた大輝鋼石をロボットが運ぶところだ。
「そうだな。あれとは視点が違うけどな」
「あとさ! あのトーコさんってひと!」
ミドワルトの神話で『新世界のイブ』って言われてる人物。
神話自体は作り物だとしても間違いなく人々の口に語られてきた、その本人。
「ナータにそっくりだよね!」
「そうか?」
いや何言ってるの、そっくりじゃない。
「まあ金髪だし、似てると言えなくもないけど」
「実際はどうなの? あの人はナータのご先祖様だったりする?」
「知らん。少なくとも私の知ってる限りはそういうデータはないぞ」
他人の空似なのかなあ。
それにしては瓜二つだと思う。
「友だちが新世界のイブさんの生まれ変わりだったとかすごいなあって思ったんだけど」
「友だちが魔王で最近じゃ新宗教の神扱いにもなったナータの立場になってみるか?」
まあその話はおいておいて。
この後は大きな戦いが起こって、ミドワルトがヘブンリワルトから断絶して……
でも以前はミドワルトの方だけしか見てないから、翠くんたちがどうなるのかまでは知らないや。
みさっちさんたちとは知り合いだから複雑な気分だけど、映像で見てるだけの無関係な立場で言えば、あの子たちを応援したいって思う。
もちろん、そう思わせるように翠くんはこの映像資料を渡してきたんだろう。
感情移入しすぎて干渉しないようにってのはナータやスーちゃんからは再三言われてる。
個人的な好き嫌いで争いを起こして、多くの人を不幸にするのは前の魔王さんと変わらないって。
あくまでこのお話は過去の歴史。
誰が悪いかとか考えるのは無意味だし、害悪でしかない。
もちろん向こうが私たちの世界の平和を乱そうとしたりすれば話は別だけどね。
「そういえば今さらだけどさ、この映像ってどうやって記録に残してるの?」
映像の中には個人的なシーンや秘密の会話とかもある。
まさかこっそりと撮影してる人がいるってわけじゃないよね。
「人の記憶を映像化する機械を使ってるんだよ」
「なにそれすごい」
「似たような輝術もあるし、ミドワルトにだって同じような道具はあるぞ。記憶を頼りにシーンを自動構築してるから、実際の出来事と比べたら正確じゃない部分も出てくるけどな」
へー、なるほどね、
暗くて人の顔とかわからない場面とかもあったけど、そういうことだったんだ。
「逆に想像だけを頼りにまったく存在しないイメージを映像化することもできるぞ」
それは面白そうかも
あ、いいこと思いついた。
「それって私でも手に入るのかな」
「欲しいならアルジェンティオが持ってるはずだぞ」
フィリア市の方のお父さん?
「おまえがフィリア市を出る事になるしばらく前から繰り返し同じ夢を見てたろ?」
「私がプリママの視点で若い頃のお父さんに助けてもらうやつだよね?」
「あれ完全に捏造だから。外付けの機械で寝てる間にこっそり刷り込まれてただけだ」
「そうなの!?」
「ハルがアルジェンティオに助けられたことなんてないし。そもそも並のエヴィルが一〇〇や二〇〇いたところでハルが苦戦するわけないだろ。特にちょっと好意を持ってるようなモノローグなんて完全にアルジェンティオの妄想だ」
え、すごいショック!
言われてみれば夢の中で見たプリママってぜんぜん本人と印象ちがうし。
隷属契約をしてるみたいな雰囲気もあったけど、実際はそんなことしてなかった。
「なんでそんなことを……」
「おまえが自主的に冒険に旅立ちたくなるために誘導したかったんだろ?」
あのばか父、本当に卑劣なことしかしない!
……まあいいや、今さらあいつのことでイライラしても仕方ないし。
最初からずっと掌の上だったのは気に入らないけど今が楽しいから許そう。
「それじゃ、こんどミドワルトに行ったときに」
「私参上!」
ガシャーン!
唐突に窓を割って赤い翼の天使が入って来たよ。
この世界の平和を脅かす敵かな?
「あのさあ……」
「こんにちはルーチェさん!」
「こんにちは赤坂。ところで『ドア』って知ってる? 部屋はドアから出入りするものだって子どもでもわかる人類の常識だと思うんだけど」
「常識に囚われていては大切なものは守れないわ! それよりちょっと休憩したいからお茶とお菓子を用意してください! 砂糖はセルフでよろしく!」
私ほんとにこいつきらい。
はやく自分の世界に帰ってくれないかな。
「紅茶ならそこのウォームルポットに入ってるよ。お菓子は角砂糖しかないけどいい?」
「それはお菓子と呼ばないわ。チョコかクッキーをお願い」
わがままだなあ……
とりあえず言い争うのも面倒なのでお菓子を持ってくるよ。
※
キッチンルームに来てみた。
なんだか凄くいい匂いがする。
と思ったら先客がいた。
「プリママ!」
「あら、おはようヒカ……ルーチェちゃん」
「呼びやすい方の名前でいいんだよ」
さっきの映像資料の最後の方にも出てた魔法少女で、五英雄の聖少女で、私の実のお母さん。
私は物心ついた時からずっとルーチェって呼ばれてたから記憶にはないけど、ヒカリって名前はプリママがつけてくれた私の最初の名前らしい。
だから否定する気はないしプリママからならそう呼ばれるのは全然嫌じゃない。
どっちでも同じ『光』って意味だしね。
「なにやってたの?」
「クッキーを作ってたのよ」
「お菓子作りとかやるんだ。前から?」
「暇だったから最近フレスさんに習ったの」
暇なのわかる。
私も魔王って立場のせいであまり人前に出れないし。
おかげでゲームと配信と、ときどき映像資料を消化するだけの毎日ですよ。
たまに起こる世界間通信障害の時には発狂しそうになるけど。
はやく学校を作って私に子どもたちと関わるお仕事をください。
プリママもけっこう周りから気を使われてるみたい。
フレスさんと仲良くなってたのはちょっと意外かも。
「少し多めに作ったから、よかったら味見してくれる?」
「わーい。いただきます」
プリママが焼いたクッキーをお皿に移している間に私はお茶の用意をする。
そういえば二人きりでゆっくりお話しする機会ってなかったね。
何か忘れてるような気がするけど別にどうでもいいか。
「ヒカリちゃんは甘いのが好きなのよね」
「うん」
「よかった。フレスさんから聞いてたから特別に――」
「ちょっとルーチェさん、お菓子はまだ?」
がちゃりと扉が開いて赤い翼の天使が入って来た。
そういえば赤坂を待たせてたの忘れてたよ。
あれ、そういえばプリママとこの人って……
「もう何よ。こっちで始めてるなら呼んでくれれば」
「……何で……あなたが……ここにいるの……?」
絞り出すような低い声で呟くプリママ。
覗き込むと、なんかちょっと正気じゃない表情で赤坂を指さして手を震わせていた。
「あら、誰だったかし――」
「マジカル☆グレネード」
!?
「え」
ちゅどーん!
「ちょっとプリママ、なにやって」
「マジカル☆ガトリング!」
だだだだだだだだ!
うるさい! 煙がすごい!
映像資料で見たのと同じ召喚武器で有無を言わさぬ爆破と銃撃。
プリママは片手で銃を乱射しながら私の体を後ろから抱きしめた。
「ちょっ……」
窓を破って魔王の館から飛び出す。
あっという間に遠く離れた上空まで連れ去られた。
プリママはいつの間にか手に持ったファンシーなステッキを振りながら叫ぶ。
「マジカル☆ミサイル」
ぼひゅう!
大きな飛翔体が現れ飛んでいく。
それは直前まで私たちがいた魔王の館に着弾する。
目の前が一瞬真っ白になった。
ド……ゴォゥ……!
ゴォォォゥゥオオォォ……!
極覇天垓爆炎飛弾の数倍はありそうな大爆発が巻き起こる。
魔王の館があった場所から空まで届くほどのきのこ雲が発生した。
「ねえ、なにやってんの!? なんでいきなり撃ったの!?」
「大丈夫ヒカリちゃん、怪我はない!?」
「ないけど!」
こっわ!
プリママおそろしい!
そりゃ確かに赤坂はあっちの世界の文明を滅ぼした天使とかいう恐ろしいやつだ。
プリママとはずっと昔に因縁があったのも映像資料で見たから知ってた。
でもいきなりあんな大量破壊クラスの技を撃つとかある!?
え、大丈夫?
館にお手伝いさんとか残ってなかったよね?
ぶわっ。
爆発の中心地で大きな翼が拡がった。
エリィのと同等の巨大な、けれど三対六枚羽の赤い翼。
それは遠く離れた場所にいる私たちも届くほどの強い風を巻き起こす。
立ち上ったきのこ雲はそれだけで吹き飛んでしまった。
魔王の館は……ある。
周囲の木々は完全になぎ倒されているし、傍にあった池は蒸発してしまったけれど、赤い翼の天使はあのとんでもない大爆発を翼の防御で完全に防ぎ切った。
いや、っていうかこれかなりヤバイ状況じゃない?
「来るわ……」
プリママが呟いた直後、赤い翼の天使が飛翔した。
衝撃波を撒き散らしながら一瞬で傍までやってくる。
「やってくれるじゃない」
翼の色よりも鮮やかな赤い髪をさっと払う赤坂。
彼女は好戦的な、そして憎しみを込めた目で私たちを睨む。
彼女の両手にはあまりにも禍々しい装飾の二本の剣が握られていた。
さすがにこれは洒落にならない。
とりあえず、まずやるべきことはひとつ。
「ヒカリちゃん、絶対に油断は――」
「ニテンス」
「はにゃ」
私はプリママの頭に手を当てて輝力を送り込んだ。
プリママはぷつっと糸が切れた人形のように気を失う。
以前に「見かけたらころす」って言ってたけど、本当に問答無用とは思わなかった。
二人はエピソード1の終盤で決戦を繰り広げてる。
忘れてた私も悪かったけど、それを差し引いてもあれはひどい。
さて、問題は赤坂の方だね。
「落ち着いて。話し合おう」
「核ミサイルに相当する攻撃を警告なしで撃ち込んでおいてそれは勝手が過ぎないかしら」
うん、それは本当にその通り。
さっきのは明らかにプリママが悪いと思うよ。
でも今の本気で怒ってる赤坂を放置するわけにはいかない。
「私が代わりに謝るから。争いはやめようよ。ね?」
「そんな都合のいい話は……」
「お願い」
ちょっとズルいけど、仕方ない。
「……っ!?」
私は久しぶりに魔王化して白い蝶を召喚した。
触れればあらゆるものを一瞬で焼き溶かす超高熱のエネルギー。
それをざっと4294967297個ほど。
四方八方、三六〇度、地平線の彼方まで覆いつくすほどの空間に一瞬で配置する。
「毛先だけを残した銀髪に、赤い目の魔王化……これが天使を越える『外側の力』……!」
赤坂がエリィと同じかそれ以上に強いとしても、たぶん私は確実に彼女を滅ぼせる。
ただし自棄になって狙いを私の知り合いたちに定められたら大変だ。
やっつける前にみんなが無事でいられる保証はない。
それに以前のように限界まで力を振り絞った結果、私自身の意識がまたどこかに飛んでいったきり帰れなくなってしまう可能性だってある。
「恨まれている人がいるところに迂闊に顔を出したあなたにも非はあると思うし、ここは大人しく引き下がってくれないかな?」
もしどうしても嫌なら、やるしか――
「わかったわ」
赤坂は深く息を吐いた。
同時に両手に持っていた剣が消失。
背中の翼も一対二枚の人間サイズに縮小する。
「そんな力をちらつかされちゃ従わざるを得ないし。自滅を覚悟してまで手を出せないわ」
「ほんとにごめんね。あと舘を守ってくれてありがとう。」
「うん、よく認識した」
赤坂は口元だけの微笑を浮かべると、白い蝶の間を縫って遠くの空へと消えていった。
わかってくれたのかな?
とりあえずしばらくは流読みで跡を追跡させてもらう。
ないとは思うけど知り合いを狙うようならこの世界のどこにいても容赦なく攻撃するよ。
「ふう……」
心から仲良くできる相手とは思わなかったけど、やっぱりこうなっちゃうかあ。
ふたつの世界を巻き込んで本気で争うようなことにならなきゃいいけど。
過去に積もった恨みや憎しみは簡単には消えない。
ぜんぶ終わった出来事だって、このまま上手くやっていくのは難しいのかも。
to
クロスディスターJADE
第二十一話 最下層等外地区
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