太陽と青空を
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クロスディスターJADE
第五話 オレがヒロイン!? その名はディスタージェイド!
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ふわふわ、ふわふわ。
ゆっくり空の移動中。
向かう先は館から少し離れた場所。
広大な森林地帯と隣接する広い草原地帯。
そこにはいくつかの木造の建物が並んでいる。
私はせわしなく働いているビシャスワルトの人たちの間に降り立った。
「こんにちは」
「あ、魔王様じゃないですか!」
最初に私に気づいた角の生えた部族のひとが担いでた木材を置く。
それから岩のひとや、青いひとたちも作業の手を止めて跪こうとする。
「ようこそ遠路遥々おいで下さいました。魔王様におかれましては本日もご機嫌麗しゅう……」
「あ、そんな丁寧なあいさつとか大丈夫ですから! お仕事を続けてください!」
畏まらないで良いっていつも言ってるのに……
なんでか知らないけど私が来るといつもこの調子なんだよ。
おかげでカーディには「あんまりここに来るな」って言われちゃうし。
「王が下々の作業現場に来たら当然そうなるだろ。おまえはいい加減に立場を自覚しろ」
あ、噂をすればカーディ。
彼女は全身真っ黒な衣装を纏った吸血鬼。
だけどいつもと違って黄色くて固そうな帽子を被ってる。
「妖将様、切り崩してきた木材の束はどちらに?」
「北西の区画で建材に使うから村の端に積んでおいて」
「各部族ごとの主要作物を育てる予定の畑の区域分けについて……」
「代表同士でよく話し合わせて。揉めるようならこっちに持ってきていいから」
「魔王様にお茶をご用意しても」
「いらない。泥水でも飲ませておく」
カーディは働いているひとたちてきぱき指示を出す。
なんだかデキる女って感じでかっこいい!
でも、
「泥水は飲まない!」
「で、何しに来たの?」
つっこみを無視された上に面倒くさそうな顔をされた。
なんか最近カーディ私に冷たくない?
「いや、ミドワルトから来たみんなは元気かなって」
フレスと一緒にこちらの世界にやって来た村の人たちは、現在開発中のこの地域に集落を作ってみんなで住むことになった。
ミドワルトの感覚だとビシャスワルトのひとたちは『ケイオス』とか『エヴィル』とかって呼ばれて恐れられてるから、一緒の所で暮らすことで何か問題が起きてないかって心配だったんだけど……
「今のところは特に何事も起きてないよ」
「本当? ならよかった」
向こう側の小屋がいくつか集まって建っている方を眺めてみる。
そこではミドワルトの人たちとビシャスワルトのひとたちがぎこちなく会話してる光景があった。
「ビシャスワルト人はおまえの知り合いに手を出そうなんて思わないよ。揉め事なんて起こらないようわたしがしっかり見張ってるから、心配しなくていい」
この地域は今のところはまだ小さな村って感じ。
これからたくさんのひとが集まって大きな町になっていく予定だ。
「でも、カーディが街づくりに一生懸命なのって何か意外だよね」
「そうか?」
「こういう大勢のひとと関わることなんて嫌いだと思ってたよ」
私のイメージだとカーディってすごく面倒くさがりな印象なんだよね。
館でずっと本でも読んでるかと思ってたら、最近はずっとこっちに来てるみたい。
「自分の住み良いよう生活環境を改善するのに手間をかけるのはおかしくないだろ」
「今の環境はダメなの?」
「わたしは人が大勢いる街が好きなんだよ。部族ごとに分かれて細々と暮らしてるビシャスワルトの文化はあんまり好ましくない」
へーそうなんだ、意外。
あ、そういえば先生と会うまでは新代エインシャント神国の大きな街で暮らしてたんだっけ?
私たちと出会ったのもシュタール帝国の帝都アイゼンっていう、ミドワルトでも特に大きな都市だったし。
「複雑な社会の中で右往左往する人間を観察するのは楽しいぞ」
「それは良い趣味なんだか悪い趣味なんだか……」
カーディもいろいろ考えてるんだなあ。
ナータも研究とか機械工作とか頑張ってるし。
もしかしたら私だけがいつまでも遊んでばっかり?
いや、でもね、ひとつ言い訳してもいいかな。
最近みさっちさんから『ぱそこん』をプレゼントしてもらってね?
それでできるゲームとか昔の時代のアニメとか動画とかメチャクチャ面白くてね。
そりゃ寝る間も惜しんで楽しんじゃうわけですよ!
あとジェイドさんからもらった記録映像も見なきゃいけないし。
特にやるべきことがないだけでルーちゃんは魔王ですよ
断じて「にいと」や「ひきこもり」ではないのですよ。
「あ、ルーチェさん」
名前を呼ばれたよ。
誰かが私を必要としている!
「はい! 何でもしますよ!」
「? どうしたんですか?」
声をかけて来たのはフレスだった。
片手には紙束を抱えている。
「なんでもないよ。元気にしてる?」
「はい、おかげさまで」
フレスは聖女さまを思わせる人の良さそうな純朴な顔でにこりと微笑んだ。
どう見てもきゃぴきゃぴアイドルをやったり皇帝さまを暗殺しようとした経験なんてなさそう。
「まだちゃんとお礼を言ってませんでしたね。私のせいでこちらの世界のひとに多大な迷惑をかけてしまって本当に申し訳ありませんでした。村の人たちを受け入れてもらえたこと、すごく感謝しています」
「いいよいいよ。フレスには前の旅でたくさん助けてもらったし」
困ったときはお互い様だよね。
というか私は別に何もしてないし
「ここでの生活は大丈夫? なにか不満とかない?」
「はい。ビシャスワルトのひとたちは見た目は怖いけどみんな優しい方たちです」
わかるわかる。
別に戦争してるわけでもないしね。
見た目で判断しちゃだめだってここで暮らしてたらわかるよ。
「そうそう、ソフィがルーチェさんに会いたがってましたよ。よければこんど家にいらしてください」
「いく!」
ソフィちゃんはフレスの姉妹の末っ子で口数が小さくておとなしいかわいい子。
そういえば彼女とはこっちに来てからまだほとんど喋ってなかったね。
「この辺りの土壌はすごく良いから、ミドワルトの作物も育ちそうなんですよね。苗や種籾は村から持ってきてありますから半年後には地代も払えると思います」
「地代って税金の事? そんなの別に払わないでもいいのに」
「ダメだよちゃんと収めさせろ」
食べ物には困ってないし大丈夫だよって言おうとしたらカーディに怒られた。
「友人だからって些細な事で優遇してたら住人同士の諍いの原因になるぞ。税を徴収しておかないと街が大きくなった時に市場がコントロールできなくなるし、都市を発展させていくにはそのうち貨幣制度も導入していく予定だからね」
「あ、はい」
どうしよう、難しい事を言ってるよ……
やっぱりここのことはカーディにぜんぶ任せた方が良いのかも。
「あ。問題というか、村の人たちからの不満がひとつ」
「なに!? 私が解決するよ!」
「いえ、どうにもできないことなんですけど……空が」
そら?
私は頭上を見上げた。
そこにはビシャスワルト特有のマーブル模様の空。
ピンクやら紫やらの色が混ざらず水に浮かんだ絵具みたいに渦を巻いている。
「青空と太陽が恋しいなあって意見はありましたね」
「なるほどなるほど」
特に薄暗いわけでもなく、私はもう慣れちゃったから何も思わないけど、これは確かにミドワルトから来たばかりの人には違和感があるかも。
「ねえカーディ、あの空の模様って何なの?」
「あれは一種の輝力溜まりだね。分厚い雲みたいなものだ」
「じゃあ吹き飛ばせば太陽が出て青空が見えるようになる?」
「ならないよ。そもそもビシャスワルトに太陽も宇宙もない。この世界自体、新生二郎助が個人で組み立てた閉じられた惑星ひとつ分くらいの極めて小さな矮小次元なんだから」
力づくじゃどうにもならないってことかな。
でも、それっぽく見せることくらいはできそうじゃないかな?
よーし。
それじゃ(暇な)私の宿題と目標にしよう。
この世界に太陽と青空を!
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クロスディスターJADE
第六話 襲撃! 闇のロボット兵士!
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