ノロケの話
さて、もうわかると思うけど、デートしたってことは、よ。
翌日はしっかり惚気を聞かされる羽目になるわけだ。
「でね、でね、午後からも仕事があるから、ランチだけだったんだけどぉ
個室を予約しておいてくれてね、それで、見つめあってぇ、手なんか取りあっちゃってぇ
久々の男性に手を取られたんだけどぉ、ほら、うちの旦那の手ってちっちゃいじゃない?」
いや、しらんがな。
「彼の手っておっきくてぇ」
あ、そうですか。
「きゅんきゅんしちゃったぁ」
「え~うらやましいぃ」
まじでそこはうらやましいぜ!
「それでねぇ」
「はぁ。」
ノンストップゆりこさんのお口は止まらない。
いかに彼がかっこいいか、仕事で頼りにされているかを熱弁する。
あ、もちろん、私の手はしっかり仕事してますよ。
ゆりこさんは止まってますけどね。
「林さん!」
「あ、は~い!」
そりゃ呼ばれるよね。
「あ、それでねぇ。」
帰ってきたとたんこれですよ。
あの、さっき谷ノ上先輩に怒られてましたよね?
今回は手がしっかり動いてはいますけど、あの、それ、ちゃんとできてます?
あ~~~めっちゃ心配。
ぜったい二つの事同時進行できない人なのに、話しながらできるわけないじゃん!
「あ、間違えたっ!」
ほらみろ!
「ねぇ~~、沙耶ちゃ~ん、ここ、なんかおかしいんだけどぉ変な画面がでた。」
「え?」
慌てて画面をのぞき込む。
なにやったらそうなるの!!
「え~?何にもしてないのに、何で?」
「このボタン、押してますね。押さないでくださいってお願いしてたと思いますけど。」
「え?押してないよ?」
いや、押さないと出ないから!この画面!!
何やってくれちゃってんの?これ、復旧すんのめっちゃメンドクサイんだけどっ!
心でひーひーいいながらゆりこさんのフォローをしてる間、ゆりこさんは
「ちょっとトイレいってくるっ!」
と、スマホ片手にるんたった去っていった。
「え?」
ちょ、おい。
わし、おのれの尻ぬぐいしてるんだが?
せめて隣にいろよ。
なんもできないとしても隣にいるくらいはしろよ。
お前のミスやぞ?
しかもスマホトイレに必要か?
必要ちゃうよな?
お前それ、まさかトイレの中で彼ぴっぴと連絡とるつもりとちゃうよな?
ああ゛ん?
嘗めてるな。
ゆりこさん、かんっぜんに私の事嘗めてるな。
思わず目が座った私。
「山神さん、かーお。」
鬼の柳瀬さん登場である。
「そんな顔して仕事しない!」
「はい。すいません。」
「気持ちはわかるけどね。」
と苦笑する柳瀬さんもゆりこさんがしたことの尻ぬぐいを私がしている事も、ゆりこさんがおそらくトイレでさぼっている事も気づいているらしい。
本当に、いい年してなんてことなんだろう。
仕事に支障をきたしはじめてしまった上に、先輩や上司もなにやらゆりこさんの様子がおかしい事に気づいてきているので、ゆりこさんはこのままではやばい。
多分、本人はあまり気にしてないけれど。
「いいかげん仕事ができないのに、さらに仕事しないとなったらちょっとねぇ・・・。」
谷ノ上先輩がぼそっと呟いた。