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「……」
懐かしさに頬が自然と緩むのを感じた。
頻繁にやりとりする中で、なんの、恋だの、愛だのが再燃することはなかったし、別に、アニメなどで見るようなラブコメ的な展開なんて期待はしていない。
そう……期待などしていない。
ただ、ちょっとだけ”大人のお姉さんとの同居”というパワーワードに、心がぐらつかない男子はいないだろう。
そんな矛盾しかける妄想を止める電子音が再び鳴った。
『え? 私のこと、分かんないの??笑』
『仕方がないなー。ヒントをあげよう! 白いワンピースを着てるよ♪』
メッセージが表示されている画面から目線を上げて見渡すけれども、白いワンピースが視界に一つ二つ……人探しには難解レベルで多く視界に存在していた。男の俺からすれば「なに、今の流行りなのか?」と思わずはいられない。なんともヒントにならないヒントを出されてしまい、眉間にシワが寄ったのがわかった。しかし、シワの原因でもある「ヒントになってない」なんて、心の声をそのままRAINにのせるのも、若干の問題の予感がするので、自力で探すしかない。つまりは……推理力を試されている、と思えばいいか。
自分なりの落とし所を見つけて、小さく息を吐き出す。気持ちを切り替えて、周りを見渡しながら記憶を遡って、おぼろげであったユリの面影やイメージを抽出していく。
ユリは、年離れた俺と遊んでいたにも関わらず、年の差を感じさせない近所のお姉さんだった。むしろ、当時の俺からすれば、少し大人ぶった友人くらいの認識しかなかった。
そこから想像するに、大人っぽいより子供っぽい。全体的なイメージとしては、小柄な体格差を感じたことはない。
となると……どちらかというと、クール系より可愛い系の女性なのかもしれない。
昔、懐かしのイメージを頭の中で修正・再構築しながら言われた通り、南改札口に出る。
さすがにこの場所に住んでいるだけあって、ホームの混雑状況を把握しているのか、先ほどまでの人波と比べると、人も少なく、待ち合わせしやすそうだ。
指定された改札口を離れて、案内板や柱などの待ち合わせするときに待機しやすそうな場所を見回すが、それでも白い服を着ている女性は多いし、小柄……と言っても、春休みなので高校生らしき女の子たちが待合せしているようで、該当するような大人の女性が見当たらない。
もしかしたら、間違えているのかも?
不安になり、再び、RAINを開いて指先を動かす。
『どこにいる? 今、南改札出たんだけど』
『あ。俺、黒のキャップ被ってて、黒いリュック背負っている』
連続で送ったメッセージには、すぐに既読のマークがついた。
ユリも会えないことに対して不安があってメッセージを確認していたらしい。すぐに返事が来るだろうと画面を見ながら待っていると
「良ちゃん。久しぶりだねぇ」
そう、画面から声が聞こえた。正確に言うと、携帯の後ろからであるけども。
携帯を視界からずらすと”記憶のまま”のユリがいたのだった。
「ひっ久しぶり」
誰でもいい。言葉を失わなかった俺のことを褒めてほしい。いや、走馬灯のごとく1ヶ月前からの記憶を遡ってきたけれど。
目の前の相手は、引きつるような声を出てしまった俺を気にするでもなく、ニコニコと笑っている。
そのことに胸をなでおろしたのは一瞬で、それでもなお、まるで過去に戻ってしまったよう混乱が頭の中で起きている。何故ならば、視界に映る姿は、”記憶と寸分違わぬ”ユリが”現実”だと主張しているのだから。
脳は混乱したままだけど、視界から勝手に情報が流れ込んでくる。
ーー身長はあまり伸びなかったであろうことが察せられる小柄さ。たぶん20cm以上は違うと思われる。俺の身長が高いと言えるほどではなく、ほぼ平均身長の173cmだ。
・・・ホントのホントに、なにも変わっていない? いや、まさか。
不安と混乱に振り回されながら、瞬きをせずに取り入れた視覚情報を整理する。
元々小柄だったことも思えば、身長なんて大した問題ではない。むしろ、俺の脳内は、顔も変わってないと弾き出した。正確に言えば、多少、大人っぽくなった、とも思うけれど……中学生が高校生になったかもしれない、微々たる変化だ。声は、と言えば少し舌足らずさを感じる、とろみの混じった甘い音を奏でている。
整理された情報から算出された答えは、やはり、俺の方が”大人に見える”と断言できるほど、その姿は変わっていない。
「良ちゃん、大きくなったよねぇ」
冷静に考えても、第三者的に違和感がある光景に、少ないはずの人通りに不釣り合いな視線の矢が刺さるのも当然である。
数分前までの俺のラブコメな妄想なんて吹き飛んで、今は、どうしたら勘違いされずにこの状況を打開できるだろうかと焦る、新天地での第一歩。
衝撃的すぎる再会、現在に至る。