表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/47

42

 どうにか講義を終え、携帯の画面を確認するとRAINの通知があった。

 確認すると宇汐からのメッセージだった。


『あゆかが起きたらお腹空いたって言って、軽く食べちゃったんだ。

 でも、まだまだ食べる気はあるみたい。

 購買でパンとか買って、外で食べることにしたんだけど、どうする?』


 大学内には学食があるが、他にも休憩スペースなる持ち込みの食事ができるスペースも存在している。


「外か……」


 窓から見える空は雲が泳ぐ青空が広がっていた。

 気持ちが軽くなった気がする。


 そうだな、天気もいいし、たまにもいいかもしれない。


 了承すべく、OKの文字が入ったモーションスタンプを押して

『買って、行く。場所よろしく』

 メッセージを送る。


 すぐに既読がついて、場所と思われる画像とともに

『小ホールがある棟の裏側、この辺にいるからよろしくー』

 メッセージが届いたのを確認して、購買へ足を進めた。


「あ! 小鳥遊っ! こっちこっち!!」


 明るい声が響く。

 一眠りした上に、一度腹を満たしているあゆかはスッキリした表情をしている。


「さぁ。食後のデザート!」


 陽が当たる心地よい場所に座っていて、俺が着くなり、テーブルの上に置いてあるパンに手を伸ばす。

 食後のデザートと言うだけあって、砂糖の粉がかかったあんぱんやチョコロールといった甘い菓子パンが並んでいるが、デザートは別腹とは言うが、別腹過ぎないか?

 そんな俺の疑問が表情に出ていたようだ。何かを言う前にあゆかは言葉を続けた。


「今日は、頑張った自分へのご褒美も兼ねてるの!

 そもそも、早めに食べたお昼だって、いつもより控えめにしてるんだから!」


 聞いてもいないことを言ってきた。


「お、おぅ」

「うんうん。疲れた脳には糖分だよねー。制作で色々、根詰めてたみたいだし、連絡してくれればいいのにー」


 宇汐は俺に声をかけていたこともあってか、待っていてくれたようで、焼きそばパンなどガッツリとした惣菜パンを口にしていた。


「アホじゃないの? 夜中に連絡するわけないじゃない。ウチだって常識はわきまえてるんですけど」

「そう言うところは強引じゃないよねー」

「うっさい!」


 ポンポンと進む二人の会話は聞いていて本当に面白い。仲の良さを感じる。


「そういや、宇汐。今日は結構ギリギリだったな?」

「あー。ちょっと打ち上げに付き合いすぎちゃってねー。始発で帰宅で、起きたらギリギリ。間に合って良かったよー」


 のほほん。と語っているが、それって大丈夫なのだろうか。


「宇汐は付き合い過ぎ。大丈夫だと思うけど、ホント気をつけないさいよっ」

「あはは。俺は男だし、大丈夫。ありがとー」

「あのねぇ。男とか女とか関係なくて……」


 心配になるけど、語り口もそうだが、宇汐ならうまく付き合ってそうと言う謎の信頼。

 と言うか、この話の流れで、宇汐に言わなきゃ。そう思うのに、なかなか、言葉が出ない。

 どう思っているかわからない状況であまり重く言うのもなんだし、かと言ってもサラッと言うのも。

 二人の会話を聞きながら、思案していると、あゆかと目が合う。


「なに?」

「いや、別に……」


 そもそも、あゆかの前ではチョット話しにくいな。思わず息が漏れる。


「ちょっとー? 人の顔見て、ため息とか失礼じゃないかしら?」


 息を吸う、呼吸という動作にかぶさるようにかかる低い声。

 視界に入った引きつった笑顔がより恐怖を掻き立てる。


「いやいや、これは違うって」

「ふーん。あっそ。・・・あ、なんか糖分足らないから、追加で甘い飲み物買ってくるわ」


 朝のように言葉の応酬があるかと身構えていたが、あっさりと終わり、その上、宣言するように予定をつぶやいて、そのまま立ち上がって出かけてしまった。

 数秒、その後ろ姿を追っていた。

 瞬間的に風が吹き抜け、パンを買ったビニール袋が音を立て、ハッと気づく。


 ーーー2人っきりのタイミング。


 今、言うかしかないと、意を決して口を開いた。

「あ、あのさ。宇汐。ごめん」


「ん?」

「バイトんとき、効率が悪いとか、スタジオ一本にすればとか、その、お前がやってることに対して、なんにも知らない俺が口にしていいことじゃなかった。気分悪くした、と思うし、ほんと、ごめん」


 いざ、口にすると、うまく言葉を繋げることができない。

 頭の中であれこれと考えたけど、正直、まとまらなかったし、ユリの意見を鵜呑みにしてるわけじゃない。

 でも、ユリの言葉を聞いて、自分の発言を悔いたのは確かで。


 仲が深まったらーーーなんて言ったらおこがましいけど、宇汐を、目指すことを、知った上で言わなければいけない。そう思ったんだ。


「あー。仕方がないよー。良って、まず、頭で考えるタイプっぽいし」


 瞳の瞬く音が聞こえそうなぐらい見開いたあとに、宇汐はふっと目元を緩めて笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ