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どうにか講義を終え、携帯の画面を確認するとRAINの通知があった。
確認すると宇汐からのメッセージだった。
『あゆかが起きたらお腹空いたって言って、軽く食べちゃったんだ。
でも、まだまだ食べる気はあるみたい。
購買でパンとか買って、外で食べることにしたんだけど、どうする?』
大学内には学食があるが、他にも休憩スペースなる持ち込みの食事ができるスペースも存在している。
「外か……」
窓から見える空は雲が泳ぐ青空が広がっていた。
気持ちが軽くなった気がする。
そうだな、天気もいいし、たまにもいいかもしれない。
了承すべく、OKの文字が入ったモーションスタンプを押して
『買って、行く。場所よろしく』
メッセージを送る。
すぐに既読がついて、場所と思われる画像とともに
『小ホールがある棟の裏側、この辺にいるからよろしくー』
メッセージが届いたのを確認して、購買へ足を進めた。
「あ! 小鳥遊っ! こっちこっち!!」
明るい声が響く。
一眠りした上に、一度腹を満たしているあゆかはスッキリした表情をしている。
「さぁ。食後のデザート!」
陽が当たる心地よい場所に座っていて、俺が着くなり、テーブルの上に置いてあるパンに手を伸ばす。
食後のデザートと言うだけあって、砂糖の粉がかかったあんぱんやチョコロールといった甘い菓子パンが並んでいるが、デザートは別腹とは言うが、別腹過ぎないか?
そんな俺の疑問が表情に出ていたようだ。何かを言う前にあゆかは言葉を続けた。
「今日は、頑張った自分へのご褒美も兼ねてるの!
そもそも、早めに食べたお昼だって、いつもより控えめにしてるんだから!」
聞いてもいないことを言ってきた。
「お、おぅ」
「うんうん。疲れた脳には糖分だよねー。制作で色々、根詰めてたみたいだし、連絡してくれればいいのにー」
宇汐は俺に声をかけていたこともあってか、待っていてくれたようで、焼きそばパンなどガッツリとした惣菜パンを口にしていた。
「アホじゃないの? 夜中に連絡するわけないじゃない。ウチだって常識はわきまえてるんですけど」
「そう言うところは強引じゃないよねー」
「うっさい!」
ポンポンと進む二人の会話は聞いていて本当に面白い。仲の良さを感じる。
「そういや、宇汐。今日は結構ギリギリだったな?」
「あー。ちょっと打ち上げに付き合いすぎちゃってねー。始発で帰宅で、起きたらギリギリ。間に合って良かったよー」
のほほん。と語っているが、それって大丈夫なのだろうか。
「宇汐は付き合い過ぎ。大丈夫だと思うけど、ホント気をつけないさいよっ」
「あはは。俺は男だし、大丈夫。ありがとー」
「あのねぇ。男とか女とか関係なくて……」
心配になるけど、語り口もそうだが、宇汐ならうまく付き合ってそうと言う謎の信頼。
と言うか、この話の流れで、宇汐に言わなきゃ。そう思うのに、なかなか、言葉が出ない。
どう思っているかわからない状況であまり重く言うのもなんだし、かと言ってもサラッと言うのも。
二人の会話を聞きながら、思案していると、あゆかと目が合う。
「なに?」
「いや、別に……」
そもそも、あゆかの前ではチョット話しにくいな。思わず息が漏れる。
「ちょっとー? 人の顔見て、ため息とか失礼じゃないかしら?」
息を吸う、呼吸という動作にかぶさるようにかかる低い声。
視界に入った引きつった笑顔がより恐怖を掻き立てる。
「いやいや、これは違うって」
「ふーん。あっそ。・・・あ、なんか糖分足らないから、追加で甘い飲み物買ってくるわ」
朝のように言葉の応酬があるかと身構えていたが、あっさりと終わり、その上、宣言するように予定をつぶやいて、そのまま立ち上がって出かけてしまった。
数秒、その後ろ姿を追っていた。
瞬間的に風が吹き抜け、パンを買ったビニール袋が音を立て、ハッと気づく。
ーーー2人っきりのタイミング。
今、言うかしかないと、意を決して口を開いた。
「あ、あのさ。宇汐。ごめん」
「ん?」
「バイトんとき、効率が悪いとか、スタジオ一本にすればとか、その、お前がやってることに対して、なんにも知らない俺が口にしていいことじゃなかった。気分悪くした、と思うし、ほんと、ごめん」
いざ、口にすると、うまく言葉を繋げることができない。
頭の中であれこれと考えたけど、正直、まとまらなかったし、ユリの意見を鵜呑みにしてるわけじゃない。
でも、ユリの言葉を聞いて、自分の発言を悔いたのは確かで。
仲が深まったらーーーなんて言ったらおこがましいけど、宇汐を、目指すことを、知った上で言わなければいけない。そう思ったんだ。
「あー。仕方がないよー。良って、まず、頭で考えるタイプっぽいし」
瞳の瞬く音が聞こえそうなぐらい見開いたあとに、宇汐はふっと目元を緩めて笑った。




