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俺は、なにごともほどよく、平凡なる人生を送ってきていた……はずだった。
遠くでマイク越しのざらざらとしたアナウンスが聞こえる。
視界の奥では、波のように人の往来が繰り返され、ひとつとして同じ表情はない。
生まれてはじめて感じるザクザクと突き刺さる、抜けることのない痛み。それは遠慮なく刺さる視線だ。行き交う人々の視線がじわじわと精神を削っていく。
瞬きを忘れた瞳は、その原因をとらえている。
「良ちゃん、久しぶりだねぇ」
自分の視界、数十センチ下から出される、少し舌足らずさを感じるとろみの混じった甘い声。
数年振りに再会した幼馴染みであり、ご近所だったお姉さんがーーー
記憶と寸分変わらぬ少女のまま、目の前にいるのだから。
何も知らない人から見れば、家族とは言い難い”青年と少女”のいびつな組み合わせ。それは違和感でしかないことは確かで……俺は、宙を仰いで1ヶ月前の出来事を思い出していた。