8.買い物デート(2)
カフェを出たあと、シャロンとミモザは並んで家へと向かっていた――はずが、なぜか気付くと森林公園にいた。
足元に気を取られがちなミモザを心配し、手を引いて歩いてくれていたシャロンが目的地を勝手に変更したらしい。
「家に帰るんじゃなかったの?」
「オレガノ商会の店員がチケットをくれたんだ。森林公園の一角が迷路になっているらしい」
「へえ、面白そう。あ、あそこかな」
正面に常緑高木の生け垣が視界を遮っていて、中央にアーケードがあり人がちらほらと並んでいた。
二人はまるで吸い寄せられるかのように、入り口へと歩いて行った。
数分後――
「ねえ、シャロン。あなた生け垣より背が高いから、ゴールが分かるんじゃないの?」
「ゴールの場所は分かるけど、道までは分からない。あ、また行き止まりか」
二人はすっかり道に迷っていた。入ってみると意外に本格的に作られていて、先ほどなど、うっかり入り口に戻ってしまったところである。
「よし、次はこっちの道にいってみよう」
そう言ってシャロンはミモザの手を引いた。
シャロンの背中を眺めながら、手を引っ張られて歩き続けるのは、まるで小さい頃に戻ったかのようだった。
『次はこっちに行くぞ! 早く来い、子分』
記憶の中のシャロンは強引な主人で、ミモザは完全に言いなりな子分だったことも、しっかりと思い出す。
あの頃のシャロンは、どう見ても王族らしい豪快不遜な性格だった。
おやつをひとくち食べて気に入らなければ、すぐに別のものを用意させていた。
ミモザが嫌がっても、行きたいところへ引きずっていく。
頭も運動神経も良いが、癇癪持ちで周囲を困らせていた姿も良く見かけた気がする。
今とは別人のようにも感じるが、大人になってある程度成長したようにも思えた。
(でも、ちょっと想像していたのと違うのよね。料理したり朝市に行きたがったり。変なの)
今まで、さして興味もなかったシャロンの性格に、ちょっとだけ気持ちが向きはじめていた。
◇◆◇◆
家に帰ると、大量の荷物とクラント商会で試着を手伝ってくれたスタッフが店の前で待っていた。
「おっかえりなさ~い! もしかして、森林公園に行っていたんですか?」
「やだ、待たせちゃってごめんなさい!」
「いえいえ~! 今日はこれで仕事上がりなんで。むしろ、いつもより早くてラッキーって感じぃ」
店のとき以上の軽いノリで、スタッフは荷物を家へと運び入れてくれると、ご機嫌で帰っていった。
「……今からは、この荷物を整理しないとまずそうね。湿布薬とハゲの薬作りは明日になりそう」
「俺は夕飯でも作っているから、その間にすませてこいよ」
シャロンの好意に喜んで頷きかけたミモザは、はたと思い直して警戒した。
「ねえ、シャロン。あなたってそんな性格だっけ? なにか他に企んでいるんじゃないの?」
「夕飯を作ると宣言して、疑われる理由が理解できないんだが」
「だって、シャロンっぽくないんだもの」
「ふぅん。俺っぽくない、ねぇ……」
何か含むような言い回しが気になり、ミモザは思わず眉根を寄せた。
シャロンは顎に手を当てて、まるで面白いものを見るかのような顔をしている。
「そもそも、俺の性格にミモザはそんなに興味があったのか?」
「……お、幼馴染に向ける程度には、あったはずよ。多分」
思わず否定の言葉を口にしたミモザだったが、内心は、実はあまり興味がなかったことを認めた。
昔から、ミモザはシャロンの機嫌を窺うこと以外、あまり彼に興味が無いのだ。
気まずくて、思わず視線をはずしたミモザだったが、それすらも不味いと奥歯を噛み締めた。
こういう後ろめたい発言と態度を、シャロンは見逃してくれない。
しつこいぐらいに追及してきて、事実を暴くまで追いかけてくる執念深い性格に、昔はよく泣かされていた。
「まあ、いいさ。俺が食べる分を用意するついでにミモザの分も作るだけだ。深い意味なんてない。早く荷物を片付けてこいよ」
「?!」
そのままミモザの頭をポンポン叩いて、シャロンはキッチンへと行ってしまった。
なにかが変だ、おかしいと思う一方で、それを的確に言い当てられるほど、ミモザはシャロンのことを知らなかった。
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