6.魔女と魔法使いの本(2)
「おいミモザ。お前は今なにか変な勘違いをしただろう」
「していないわ! それよりシャロン、そんなこと聞いてどうしようっていうの?」
一気に警戒を強めたミモザは、シャロンの腕の下から本を引き抜くと、鍵を閉めて胸元に抱え込んだ。
「お前ね。何を疑っているのかは知らないけど、俺は商品開発するのに稀少性が高すぎる材料を使うことを心配しただけだ。オーダーなら待ってもらえるし必要量をその時だけ手に入れれば済む。でも、商品にするなら安定して入手できないとまずいだろう」
「――言われてみれば、そうね」
「湿布薬もハゲの薬も、難点があるのは入手しやすい材料で妥協して作っているからだ。まあ効果のあるレシピが開発されていないって理由もあるけどな」
本をしっかりと抱え込んでいたミモザの手が緩み、そのまま机に置かれたので、一応誤解は解けたらしい。
「そういうことも考えて作ってみるわ。ありがとう、シャロン」
「その二つが出来上がると俺も助かるからな。よろしく頼む」
「どういうこと?」
二つの薬は、国王と第二王子が個人的に薬研へ商品化を依頼したものであった。
受けた側は、評判の良くない既存品があることと、良品を作ろうとすると材料が無いため、厄介な事案扱いしているらしい。
これが他からの依頼なら一蹴して断れたのだが。
国王と第二王子が相手では、そうはいかない。
薬研は適当な理由を付けて完成を引き延ばし、やり過ごしているらしい。
「呆れたわ。そんなの不誠実よ」
「俺は二人の職権乱用の方が気になったがな」
どっちもどっちなのだとシャロンは鼻で笑った。
「でも、ならウチにオーダーしてくれたらよかったのに」
「個人で依頼するほど日常で困っていないからだろ。あったらいいな程度なんだよ。でも出来上がったなら喜んで買う。そういうところに顧客の要望があると思いませんかね。ミモザさん?」
「おっしゃる通りだと思います。シャロンさん」
「ついでに、高価な材料で必要とする人数も少ないものは、オレガノ商会も薬研も早々手は出さない。ミモザがそこを救ってくれるのなら互いに共存できるだろ」
ミモザの目から鱗がポロリと落ちていった。
「つまり、ウチだけの独自商品で一儲けできるって話にもなるわね!」
「そういうことだな」
大喜びしたミモザはシャロンの手を握って感謝をした。
「すごいわシャロン! あなた天才ね。私『やり手魔女』の名前にふさわしい湿布薬とハゲの薬を作ってみせるわ」
「光栄だな。できた分だけ父と兄に買い取らせるから、存分に作っていいぞ」
「なにそれ、素敵!」
計画を練り始めたミモザは、珍しくはしゃいでいた。
普段の彼女は薬屋の女主人として気を張っているせいか、見た目も振る舞いも隙がない。
きゃっきゃと騒いでいる姿は年相応に可愛らしく、シャロンもついつい口元が緩む。
「俺も適当になにか作ってもいいか?」
「ウチにある材料なら自由に使っていいわよ。あとで買い出しにも行くから不足があったらその時に揃えましょう」
「そうだな」
ミモザとシャロンは、書きだした材料と在庫と突き合わせて買い物リストを作成し終えると、出掛ける支度をするために部屋へと戻っていった。
少ししてミモザが荷物を持って一階に降りると、何故か着替えまで済ませたシャロンが待ちくたびれていた。
「おいミモザ。お前はもう少し可愛らしい格好ができないのか。せっかくのデートなのに」
「買い物にいく話だったはずよね?!」
一体どういうつもりでこんなことを言うのだろうかと、ミモザは理解に苦しんだ。
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