30.魔女を欲っする者(5)
「とりあえず、俺を見ておけば良いと思うんだが」
「――――それは、嫌」
バッサリと切り捨てられて、シャロンは若干、いや深く傷ついた。
それを悟られまいと、努めて冷静にミモザを説得しようとした。
「どうしてだよ!」
いや、無理だった。そこまで嫌われているはずが無いと焦ってしまったようである。
「だって、そういうのは、ちょっと。大体惚れ薬を使った症状って好きじゃないし。それに――」
心に宿った淡い恋心を雑に扱いたくなくて、ミモザはごねた。
シャロンは嫌がるものを無理強いすることはよくないと、諦めようとしたのだが。
「なら、親愛薬を店から取ってくるか」
「あ、最後の一本は飲んじゃって、もうないの」
「なにしているんだよ!」
そうなると、ミモザが再び親愛薬を作らないことにはどうにもならないという結論に至ってしまった。
「なあ、諦めて目を開けろよ。責任もって店まで連れて帰ってやるから」
「いーやー」
その顔が憎たらしく見えたせいで、シャロンはミモザのほっぺたを摘まんで引っ張った。
「ひょっと! なにひゅるのひょ」
「諦めて、目を開けろー」
「はなひて!」
どうやらシャロンは、幼い頃の意地悪モードに切り替わってしまったらしい。
泣いて形勢逆転を計るしかないとミモザが顔を歪めれば、察したシャロンが耳元で囁くという暴挙に出た。
「諦めろ。な?」
「み、耳イぃ!」
ミモザは慌てて耳を庇い、空いたほうの手でシャロンを押しのけようとしたが、目を閉じているのでそちらは空振りだった。
「なんかいい匂いがした」
「ちょっと、やめて! 近づかないでよ!」
見えないというのは、非常に不利である。
ミモザが繰り出す全ての攻撃はかわされて、シャロンに腰を攫われて身動きを封じられた。
ちなみに、シャロンはミモザが暴れてソファから落ちそうになったのを、抱きとめただけである。
「バニラの香りか?」
「シャロンが作って置いてくれたんでしょ! もう」
「ああ、そういえば。やっぱりいーなー。この香り」
「ちょっと離れて、近づかないで! くすぐったいのよ。うう~」
ミモザの声が怪しくなると、シャロンは頭を撫でてあやした。
ただし、体は固定されたままである。
「離して!」
「離したら、落ちて怪我するだろ」
「はーなーしーて!」
「い・や・だ!」
ミモザが泣くか、シャロンが怒るか。
普段ならそれでつくはずの決着は、硬直状態で止まってしまった。
互いに引かないと分かると、長年の付き合いで喧嘩慣れした二人は、まるで何事もなかったかのように別の話題をしはじめた。
「ねえ、シャロン。惚れ薬の効果って、相手を見ないとどのくらい続くのかな?」
「さあな。長期間有効で、感情が植え付けられた後は、相手を見るたびに気持ちが増していくから反永続的で悪質ってことしか記憶にない」
「そうよね。どうしよう」
「俺に聞くなよ」
散々シャロンの提案を蹴ったあとなので、冷たくされても仕方なかった。
「だって、そういうの、嫌だったんだもん。そんな、いい加減な感じで進むの、嫌なの」
言葉は尻すぼみではあったが、シャロンにはしっかりと最後まで聞こえた。
「ミモザ、それって――」
「あのね――」
二人が互いの気持ちに何となく感づいていたが、勘違いかもしれないからと、探りを入れようとしたときだった。
――コン、コン
「シャロン、ここに居るのですか?」
王妃の声が聞こえてきて、シャロンは目を閉じ、天を仰いだ。
「ミモザちゃんが惚れ薬の被害にあったと聞きましたけど、本当ですか?」
母親とは、いつも間の悪い時に現れるものである。
シャロンはいろいろ諦めると、扉を開けて王妃を出迎えた。
肩で息をしながら一人で立っている王妃と対面し、目を見開く。
「共も連れないで来たのですか?」
「え、ええ。慌てていたから置いてきてしまったみたいね。それよりミモザちゃんは?」
シャロンを押しのけて、王妃は部屋の中へと入っていく。
ソファに座って目を閉じているミモザを確認すると、その横へと座った。
「ミモザちゃん、大変な目に合ったって聞いたわ。ごめんなさいね」
「王妃様? ご心配をおかけして申し訳ありません」
「いいのよ! 小さな頃からの知り合いですもの。娘みたいに心配するのは当然よ。はいこれ、親愛薬」
「ふぁ?!」
王妃の取り出した親愛薬を見て、シャロンの口から変な声が漏れる。
「シャロン、どうかしましたか?」
「そんな下らないもの誰が依頼したのかと思ったら、王妃かい!」
「もぅ。相変わらずシャロンは言葉遣いが乱暴ね。それに下らないなんて失礼ですよ」
王妃とシャロンが揉めている横で、ミモザは親愛薬を飲み干した。
恐々と薄目を開けて、最初に王妃の姿を確認できるように体を動かした。
王妃の姿を目に入れても、必要以上の好意を抱かないことを知ると、ミモザはほっと胸をなでおろした。安心して体の力が抜けたせいで、ソファに沈み込んでいった。
「ミモザちゃん、もう大丈夫そうかしら?」
「はい、大丈夫そうです」
惚れ薬の症状なら消えていた。
ただし今は親愛薬の影響がありミモザの心臓は早鐘を打ち続けている。
シャロンと目が合わないように、王妃の影に隠れてやり過ごすことにした。
「ところでシャロン、バーベナ王女の件で陛下が呼んでいたから行ってもらっていいかしら。ミモザちゃんはわたくしが看ておきますから」
「~~わかりました。行ってきます」
良いところで邪魔をされ、挙句追い出されることになったシャロンは内心苛立った。
それでも、国王陛下の呼び出しは断れないので、しぶしぶ頷いて部屋を出てく。
シャロンが立ち去ったことで安心し、ついで寂しさが込み上げてきたミモザは、両手で顔を覆ってしまった。
その様子を王妃が心配して声を掛ける。
「ミモザちゃん、本当に大丈夫?」
「はい、少し休めば効果が消えるはずですから」
落ち着いたのなら、きっとシャロンとは今まで通りの関係に戻れるはずだ。
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