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やり手魔女のよく効く薬 ~店を守るために幼馴染の計画に乗って訳あり婚約したけれど、どうやら彼には別の思惑があるらしい~  作者: 咲倉 未来


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18.再会の思い出

 トラヴァー学園卒業後、シャロンの生活は思いのほか順調であった。



 調薬研究施設では、最初こそ王族ということで、周囲から遠慮がちに扱われた。


 ただ、寒くなり患者が増える繁忙期になると、調薬技術が高く手際の良いシャロンは重宝された。


 学生時代に寝ても覚めても調合していたせいか、シャロンの手際は洗練されており材料の無駄も出ず、早くて完璧なのだ。


 次々に過労と病気で倒れていく同僚。

 その中で、シャロンは毎日尋常でない数の調薬をした。

 当然病気にも罹らないので、最後の一人になっても出勤し、朝から晩まで高速調合し続ける。


 その姿があまりにも頼もしすぎて、出勤した上司がシャロンの姿を見つけて、思わず手を合わせ膝をついて感謝をしたほどだ。


 そのことがきっかけとなり、またシャロンの庶民的で慎ましやかな生活――本人的には合理的かつ時短を追及した結果――が、周囲との距離を一気に縮めた。


 変化はこれだけではない。


 用事で城を訪れると、いつも王妃が待ち構えていて調薬研究施設のことを話しかけてくる。

 仕事の内容によっては兄たちや国王とも話すことになり、これも特に衝突もなくすんなりと済んでしまった。


 表面上は笑っていたが、シャロンは内心驚いてばかりいたのだ。


 全てを諦めて絶望の中に落ちたと思ったのに。

 その先に安寧があるなんて、誰が想像できただろうか。


 ただ流されて、出来ることをするというのは楽でいい。


 シャロンが順調に周囲との信頼を積み上げていき、仕事にも慣れてきたころ。





「調薬申請の窓口を担当してもらえないかな? 実はすごく面倒な調薬師がいてね。もう二人も潰されてしまったんだよ」


 シャロンは、上司から窓口業務に入ってほしいと相談された。


「今どき個人販売の調薬師なんて、大手商会にほとんど吸収されてしまったのに。珍しいですね」


「ああ、非常に高度な技術の持ち主でね。実は裏でこっそり()()と呼んでいるんだ」


 ドクリ、とシャロンの心が跳ね上がる。


「へえ。それは、どんな人物なんですか?」


「会えば一目でわかる。いつも暗い色のワンピースを着て、『この程度もわからないの?』と言って窓口を困らせるんだ。彼女が申請する薬は再現が難しくてね。中々検証が終わらない。それで許可証が遅れると怒鳴り込んでくるんだよ。シャロン君は優秀だし王族だしね。申し訳ないけど、これ以上犠牲者を出さないために助けてくれないだろうか」


 両手を合わせてお願いされたので、相当困っているのだろう。

 シャロンは、流されるままに引き受けた。





 街で個人販売している調薬師。

 そして魔女と呼ばれそうな人物など、ひとりしか思い浮かばなかった。


(絶対に、ミモザだろ)


 引き継いだ資料を見れば、十枚ほどの申請書が溜まっていた。

 どれも入手困難な材料に調薬も面倒なものばかり。

 一番古いもので半年前に持ち込まれたものがあり、さすがに怒鳴り込みたくなる気持ちも理解できた。


(ミモザが怒鳴る? いや、ないない)


 困ったら泣いて誰かを呼びつける奴だ。

 ミモザらしい話と、そうでない話に悩みながら、シャロンは申請書の検査にとりかかった。




 ――魔女の予約日当日


 シャロンは全てを準備して、魔女の訪問を待った。


 入り口のドアが開き、濃紺無地のワンピースにバスケットを持った女が、まっすぐこちらに向かってくる。


 シャロンは、遠目でもすぐにミモザだと分かった。


「こんにちは。あら、また窓口の人が変わったの? 説明しなおしなのかしら。まったく、今日こそ全部許可書を貰いたいと思っていたのに、すっごい迷惑!」


 ため息交じりに挨拶と文句をぶつけられて、シャロンは絶句した。

 ミモザはバスケットを乱暴に机の上に置くと、椅子に座って腕を組み不機嫌さを隠そうともしなかった。


 当然のように、ミモザはシャロンに気付かない。

 別人のように横柄な態度にもショックを受けた。


「久しぶりだな。ミモザだろ?」


「……。……シャロン?」


 目を細め、だいぶ時間を要して、ミモザはシャロンだと分かったようだ。


「窓口担当、シャロンになったの?」


「ああ、そうなんだ」


「そう。――これは仕事だから、知り合いでも遠慮しないわよ。で、また説明すればいいのかしら?」


 シャロンだと分かっても、ニコリとも笑わないミモザは、魔女の名に相応しい不愛想っぷりを披露した。


「いや。申請は全て確認したよ。作ってもらって問題ない。待たせてしまって悪かったな」


「そう、やっぱり確認できてない――ええ?」


 驚いたミモザが、口を開けたり閉めたりしている間に、シャロンは許可書を差し出した。


「他に用事は?」

「ないわ。今日は、これを取りにきただけよ」

「なら、これで終わりだな。またのご利用お待ちしています」

「……」


 ミモザは許可書をバスケットに入れると、黙って立ち上がり帰っていった。

 その後ろ姿を眺めながら、シャロンは激しい動悸に見舞われた。



 全くシャロンのことを覚えていなかったミモザ。

 気付いたあと、懐かしく思い出を語り合うこともなかった。


 所詮その程度の――失いたくない者のなかに含まれていない、シャロン(自分)


 そのことを思い出し、心が掻き乱される。

 こんな気持ちは、久しぶりだった。


 せっかく、流されて穏やかに楽に生きていたというのに。

 けれど、窓口に予約が入ると、シャロンはその日を心待ちにしてしまうのだった。




 ◇◆◇◆


 その日は、ミモザの予約以外にオレガノ商会の予約も入っていた。


 時間はずらしてあったはずなのに、なぜかミモザはオレガノ商会のクラントと二人で調薬研究施設を訪れた。


 それを見て、シャロンの中にどす黒い感情が沸きおこる。


 こういったことは初めてではない。

 窓口に予約を入れる者は限られていて、シャロンは、ほとんどの時間を申請のチェックに使えるくらいには、暇だ。

 いつでも予約できるというのに、クラントは、まるで狙ったかのようにミモザの訪問に合わせて予約を入れてくるのだ。



 仲良く喋りながら向かってくると、途中で立ち止まり、クラントはミモザの肩に手を置いて引き留めた。


(近い、近い、近い、近い。そんなに顔を近づけなくても、話しぐらいできるだろうが!)


 ミモザがやんわりと手を出して距離を取ろうとしていたので、シャロンが助けに行こうと腰を上げた。


 けれど、ミモザは話を切り上げたのか、そのまま窓口まで早足で逃げてくる。

 その後ろで視線を送り続けるクラントに、シャロンは苛立ち、それを誰にも悟られないように笑顔を浮かべた。


 窓口に座ったミモザは、何事もなかったかのようにバスケットから申請書を取り出すと、シャロンに差し出してくる。

 それを受け取ったシャロンは、ミモザのことを心配し手を差し伸べようとした。


「お前、オレガノ商会の(せがれ)に困っているんじゃないのか?」

「ああ、仕事を貰っているだけよ」

「距離が近かった気がするけど」

「……仕方ないわ。お得意様だもの」


 理由があれば受け入れるのかと、シャロンはミモザを軽蔑した。


「そうやって、我慢するのはどうかと思うけどな」


「ん~。でもお互いに仲良くしておかないと。困ったときに助けてもらえないじゃない」


「クラントにしか助けてもらえないわけじゃないだろう」


「もちろん。ベンジャミン先生に頼ることが多いわね」


 ベンジャミンの名前を聞かされて、シャロンは奥歯を噛み締めた。


 ミモザが卒業間近で学校を休みがちになったあと、ベンジャミンがいろいろ取り成したらしく、時期をずらして調薬師の免許を取得し、無事に学園を卒業したことを聞かされていたからだ。


 シャロンが心配して家に行ったときは追い出したくせに、ベンジャミンには素直に頼ったことが面白くなかった。


 ミモザの店は客が減り、あまり上手くいっていないはずなのに、周囲に頼りながらなんとか続けているのも、心配だった。


「店は大丈夫なのか?」

「うん。まあ、なんとかやっているわ」


 適当に話をはぐらかして、愛想笑いを返される。

 二人の関係は、調薬研究施設の窓口担当と申請に来た調薬師でしかない。



 シャロンが、何を聞いても、ミモザはこの調子だ。

 必要とされることをずっと待っているのに、一度も頼ってもらえない。


 シャロンのことを見向きもしない。


 目の前で他の男の好意を笑顔で受け取り、簡単に頼るミモザの姿を見るたびに、気が狂いそうになる。


 シャロンの心に、ズカズカと踏み込んできておいて、全く心を割いてくれないミモザが憎かった。




 この苦しさから、シャロンは解放されたくて悩んでいた。


 心の一番奥底に残っていた、悲鳴をあげる面倒な感情を捕まえようと必死だ。

 なにもかも手放してしまって楽になりたかった。


 シャロンを追いつめる感情こそ、捨ててしまいたいものなのだ。

 もう、うんざりだった。


 やっと掴んで捨てることができたとき、痛みに代わって、悲しみがどっと溢れでた。









(――どうして、好きだって、素直に言えないんだろうな)


 いつだって、自分が大きく見えるように振る舞って、相手が好意を向けてくるのを待ち続けた。

 自分は歩み寄らないくせに、不満を募らせて、気づいてくれない相手のせいにばかりしていた。

 その傲慢さが、あらゆる場面でシャロンを苦しめてきたのだ。



 気持ちを整理し、楽になったシャロンは、ミモザに頼られていたころの関係に戻れるよう働きかけることにした。

 ミモザに意識してもらい、今度こそ必要とされる相手になれるよう、動き出したのだった。

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