10.幼い頃の思い出(2)
シャロンは出されたケーキを一口食べて不機嫌になり、顔を歪ませる。
「このケーキは飽きた。下げろ」
その言葉にミモザは目を丸くする。
(こんなに美味しいケーキなのに。あきるほど食べたんだ)
ミモザの生活圏内では、ケーキなど年に数回しか出てこない代物だ。
驚きと同時に、なんだか嫌な予感がしてミモザは大きめにきったケーキを口いっぱいにほおばった。
「おい、お前も新しいのを食べるか?」
「え、えと。これ、美味しいです」
「ふーん。なら僕はもう食べ終わったから、遊びに行ってくる」
「あ! まってください」
食べ終わらないミモザをわざと置いていこうとしたシャロンは、中々に意地の悪い性格に育っていた。
一方のミモザは、ケーキよりも祖母の言いつけを守ることが大事なようで、フォークを置いてシャロンの後を追いかける。
「なんだよ。ケーキを食べてればいいだろう」
「でも、一緒にいるように言われているので」
「なら、お前は僕の子分にしてやる。お供しろ!」
なんで子分にされたのかミモザはよく分からなかったが、扱いは「お前」から「子分」に呼び方が変わっただけだった。
この当時のミモザは、シャロンよりも体が一回り小さく思考も言葉も少し遅れ気味だった。
シャロンが言うことの半分くらいしか意味が分からず、とにかく祖母の言いつけに忠実に過ごしていた。
一方のシャロンも、ミモザを相手にするときは適当なことばかり言っていたので理解できなくても、なんら気にしていなかった。
むしろ気を許せる分、ミモザのことを気に入っている節さえあるようだ。
シャロンは必死で着いてくるミモザを面白がり、彼女が失敗しそうな遊びを選んで、嫌がる様を見て喜んだ。
ただし、ミモザが本気で泣き出すと、シャロンは慌てて彼女の機嫌を取り、優しく接しはじめる。
そんなことが続けば、ミモザとてさすがに学習する。
都合が悪くなるとさっさと泣いて、シャロンを引き留める作戦に出るようになったのだ。
「うえーん!」
「おまえ、ウソ泣きだろ! 涙が出てないじゃないか!」
ただし、ミモザの作戦などシャロンにはお見通しである。
「そんなことないもん。うえーん、うえーん!」
「子分なら、泣いてないで主人にちゃんと付いて来いよな!」
シャロンはミモザの手を取ると引っ張るように歩いていく。
本気泣きでもウソ泣きでも、ミモザが泣けばシャロンは優しく接してくれるのである。
二人が連れ立って歩く姿は、いつの間にか城でよく見かけられるようになっていた。
話を聞いた王妃も、シャロンが同い年の女の子に優しく接していると聞いて、こっそりと覗きに行ったとか行かないとか。
この頃の王室は、二人の王子の将来を憂いた陰鬱さが常にあった。
その空気を掻き消して、シャロンとミモザの遊ぶ姿は、朗らかな雰囲気を運んでくれた。
それから二年の月日がたったある日、ついに患っていた王子たちの治療が終わりを迎える。
やり手魔女もミモザも城へ来ることはなくなった。
そして――
健康な体を取り戻した第一王子と第二王子は、今までの後れを取り戻すべく一生懸命に勉学と武術に取り組んだ。
それを見てシャロンは鼻で笑っていた。
今更頑張っても、すでに自分は余裕でなんでも習得する優秀さを知らしめたあとだからだ。
評価など、そうそう覆らないと高をくくっていたのだ。
さらに一年がたち、二年が過ぎたころ。
第一王子は勉学で頭角を現し、第二王子は武術で目覚ましい成長を見せ始める。
彼らの悲運な生い立ちと、そこからの逆転劇は周囲の気持ちを大きく揺さぶり、大勢の心を動かしていった。
二人の王子を応援する者たちが現れるたびに、ひとり、またひとりとシャロンの周囲から人が離れていく。
シャロンとて真面目にカリキュラムをこなしていたし、良い成績を修めてはいた。
昔と今で何も変わらないのに、周囲からはまるで波が引くかのように人が去っていく。
いつのまにか、周りが口にするのは第一王子の優秀さと、第二王子の武術の成績ばかりになっていた。
慌てたシャロンは、二人に負けまいとがむしゃらに努力し続けたのだった。
【宣伝】
下スクロールしていただくと作品紹介のバナーがあります。
他作品もぜひご覧ください。
(応援していただけると、すごく嬉しいです!)
。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。.。:+*゜





