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(3)機刃対機刃、そして馬元義

 既に、外気温はかなり高い温度にまで到達していた。狭い操縦席の中にも、その温度は伝わってくる。

 頭部映像機から映し出される画像と、操縦席内正面の画面に映し出される探知機を確認する。味方の数は一〇に対し、賊軍は一八、といったところか。

 数の上では不利でも、所詮は賊だ。そう思うと同時に、馬元義(ばげんぎ)は操縦桿に対して思念を送る。


 機刃は己の思考によって動く。それを操縦桿に伝えればいい。それだけで、縦横無尽に駆け抜けることが出来る。

 加速を思念したから、機体が加速した。同時に、横に二機、部下が付いた。

 それを確認すると同時に、更に自機の速度を上げた。


 出来るだけ建造物は壊すな。そう主には言われている。それを護ることは絶対であると、馬元義は思っていた。だから部下の機刃もすべて重火器装備はしなかった。

 同時に、賊を刈るならば近接兵装のみでも十分だと思ったこともまた重なった。


 相手の亜音が、こちらに銃口を向けた。

 撃ってくる。相手の武器は五.三五分(12.7mm)口径の機関砲だ。

 賊としては悪くない武器を持っている。恐らく正規軍からの横流し品だろう。


 警報が鳴り響いたが、すぐに側面への回避を思考し、伝えた。すぐさま、自機が側面へと回避した。

 同時に、そのまま更に接近していく。


「太平道のために、死すべし」


 言うと同時に、賊軍の亜音の胴体を槍で突き刺した。

 重火器を持つ手が、だらりと下にたれ落ちる。


 それを確認すると同時に、次の目標に向かう。

 銃器による攻撃が、いっそう激しくなった。一度舌打ちした後、槍を回転させ、即席の盾とした。銃弾が、僅かに機体にかすったのを、操縦席の計器類が知らせた。

 だが、動きを止める気は全くなかった。更に速度を上げて、また前の敵を一閃する。

 もう一機は、部下が二機がかりで仕留めていた。


 しかし、残った最後方にいる機体が厄介だ。火炎放射器を装備している。

 先ほどまでは火炎放射器で石作りの建物や死体を燃やすことに夢中だったが、流石に周囲に誰もいなくなったのに気付いたのか、こちらを向いた。

 火炎放射器に当たれば、流石に機刃といえど大破するのは目に見えている。

 一度、止まった。横に、すぐさま部下が付く。


(いつ)(びょう)、三機がかりで仕留める。乙は火炎放射器の銃口を引きつけろ。その間に鋲と私で仕留める」

『御意』

「良いか、死ぬなよ。まだ我らは大義を果たしておらぬ」

『承知しております』

「ではゆくぞ。太平道のために」

『はっ。太平道のために』


 全機が槍を構え、駆けた。

 すぐに乙の機体が先行する。案の定、それに火炎放射器の銃口が向けられた。

 乙の機体が、徐々に左側にずれていく。

 銃口が、乙の機体へと向いていく。


 その隙を逃さない。すぐさま加速して、鋲の機体が後方に装備されていた火炎放射器の燃料入れを切断した。

 それで動きが止まったのを確認したと同時に、横から、一気に槍で突き刺した。

 関節ごと腕が破壊され、胴体も貫かれたとき、相手の機体がまったく動かなくなった。


 すぐさま、槍を引き抜く。轟音を立てて、敵機が倒れた。


『馬元義様、賊軍、掃討完了です』


 部下から通信が入った。

 探知機で見る限り、増援は確認出来ない。勝利とみていいだろう。


「よし、ご苦労。負傷者及び住民の収容を急げ。負傷者を収容する」

大賢良師(たいけんりょうし)様の、ご負担にならないでしょうか?』

「あのお方は一人でも多くの者を救おうとなさる。我らが一人でも放っておいたら、あのお方は嘆かれるであろう。そのことは、お前達とて知っているだろう」

『はっ。出過ぎたことを申しました。では、急ぎます。漢軍が戻ってこないとも限りません』

「そうしてくれ。できる限り急ぐぞ」


 大賢良師、そう呼ばれている人物こそ、我が主である。

 主は人を癒やすことが出来る術が使える。常人には出来ない術だった。どうやっているのかは、まったく分からない。ただ『奇跡』とこういうのは言うのだと、馬元義は知っていた。それに何人もの人間が救われたのだ。

 自分もそんな者の一人だ。だからこそ、あのお方に仕えようと心底思ったのだ。

 同時にあの主の言葉には、不思議な魅力がある。西方の言葉では『カリスマ』というらしい。

 とにかく、そういった魅力がある人だった。


 しかし、癒やしの術は極端に体力を消耗するのか、数多くの人を癒やすと、大賢良師は疲労してしまい、時には一日中眠ってしまうほどになることもある。

 それだけが心配だったが、しかし、それでもあの方はやるのだろうという確信が、馬元義にはあった。たとえそれが、己の命を吸い尽くすことになろうともそれを承知でやる、それが大賢良師という存在だからである。


 人は馬鹿だと笑うのだろうか。否、そういう者は誰もいないだろう。

 何より、そういう者がいたとすれば、自分が斬りつけるまでだ。

 馬元義が手を握ると同時に、負傷者の収容を終えたと、部下から通信が入った。


「よし。撤収する」


 それだけを言って、機刃を街から移動させた。

 門を出ると、一転して静かな原野が広がっていた。外気温も一気に下がった。


 大きな月が見える。

 吉兆かもしれないと、柄にもなく思った。

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