檻の中の聖域
今回の短編はなろうだと当たり前のように出てくるアイテムボックスとか創造神とかの始まりや目的を考えすぎて眠れなくなったので吐き出すように書いてみたものになります
設定はふわふわなのでご注意ください
魔法技術全盛の時代、とある天才が【時の牢獄】という魔法を完成させた。
1度入れば出ることの出来ないその牢獄は現在、終身刑を言い渡された罪人を閉じ込めるために使われている。
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とある国で政治犯として捕まった俺は、悪名高き【時の牢獄】に入ることになった。
恐らく俺のとばっちりだろうが、生家である男爵家もお取り潰しになったそうだ。
しかしそれを聞いたところで、俺は何の感情も浮かばなかった。
前世、日本の事を覚えていたからというのもあるが、そもそもにおいて今世の両親は悪人であった。
民を物としか思っておらず、無体を働くのは日常茶飯事。
父、母共々無計画に子供を作りまくり、半分だけ血の繋がる兄弟姉妹は何人いるのかわからない。
それでもグレずに写本師として働いていた俺を誰か褒めて欲しい。
しかし、何故か国王打倒を目論むレジスタンスの仲間だと思われて時の牢獄に入れられるとは……前世を覚えていた事もそうだが、星の巡りが悪すぎやしないだろうか。
ちなみに、疑われた理由は本物のレジスタンスの奴が身分を偽って俺に写本と偽った暗号文の複製を頼みに来たためだ。
だってさ……そのレジスタンスの奴らがこの世界で初めて話の通じる兄妹だと思ったんだ。
そしたらこの有り様。
結局兄妹ですらなく、俺はレジスタンスの奴らに良いように使われていただけだった。
前世でも人見知りであまり人と話すのが得意じゃなかったけど、今回の件でそれを通り越して人間不信ですわ。
なので実のところこの極刑は気に入っている。
刑が決まった瞬間、ギロチンじゃなくて安堵で涙が流れるくらいだ。
……周りには盛大に誤解されたようだけどね。
□■□
時の牢獄に入って初めて解った事だが、この空間内では食事や睡眠、トイレなんかの生理活動は全く必要ないらしい。
時間の感覚はとうにないが頻尿気味だった俺が1度もトイレに立ちたいと感じないのだ。
時の牢獄……言い得て妙な空間だ。
ただ、この空間、真っ白過ぎる。
正直目に悪そうなので、俺はずっと目を瞑って生活していた。
……いや、涅槃のポーズでずっと過ごしていたから生活らしいことはしていないのだけれども。
そして俺には嬉しい誤算だったのが、この空間では睡眠は必要ないが眠れると発見した事だ。
夢が見れたのだ。
単なる空想も飽きてきた所だったので早速一眠りすることにした。
初めての目覚めはとても幸せだった。
日がな寝て過ごす生活は本当に夢のようだ。
起き抜けに喉が乾く事もない。
これなら何時までだって寝ていられる。
□■□
時の牢獄の中には誰もいないと思っていたが、人がいた。
よくよく考えれば当たり前だ。
ここには何年かに1度程度の割合で極悪人が送還されてきたのだから。
しかし、俺と同じくパンイチの爺がいるとは思わなかった。
ここはケツとか掘られなかった事を幸せに思うべきだろうか。
お互いに発声練習をしてから自己紹介してみると、なんとこの時の牢獄を作った本人だという。
マジでか。
「発狂してない人間に会うのは初めてだ」
と、マジマジと見つめられた。
俺にその手の趣味はないので鳥肌が立った。
よくよく聞いてみると、この空間は爺が誰とも会わずに魔法の研究に没頭するために作った魔法だったようだ。
なのに変な奴が入ってくるもんだから辟易していたらしい。
なので、そいつらはあっちで罪を犯した極悪人だと伝えた。
爺はあまり驚かなかった。
「予想通りだったのでな」
「ですよねー」
「となるとお前も極悪人ということになるな……」
「政治犯ってことでいれられましたけど、冤罪ッス」
「ほぅ。
まぁ、どっちでも良いな。
ワシはこれから外に出るしな」
「お疲れさまでーす」
「……お前は出たくないのか?」
「出ても楽しい事なんて無いですし」
「富や力や女はいらないと?」
「金、暴力、セックスとか何が楽しいんです?
よしんば楽しいにしても、人の営みの中にいるよりここにいた方が何倍も俺は幸せなんで」
「……なるほど。
こう見えるのか……」
「なんて?」
「いや、一応お前に管理者権限を渡しておこう。
いずれ心変わりすることがあるかもしれん。
そうじゃなかったとしても、無為に寝て過ごすよりは有意義になるだろう」
「はぁ。もらえるものはもらいますけど。
でもそれじゃあお爺さんが出れなくなるのでは?」
「マスター権限はそれより上位だから問題ない。
ついでに外に出たら別の牢獄を作って罪人はそちらに転送されるようにしよう。
あれは素材として優秀だしな」
「Dクラスですねわかります」
「その言葉の意味はわからんが……まぁいいか」
爺は俺に権限と力の使い方を教えるとそのまま外へと出ていった。
とりあえず俺はこの白すぎて目に痛い空間をほんのりクリーム色に変えた。
続いてベッドだ。
管理者権限があればこの空間限定でなんでも出来る。
適度に固いマットレスに手触りの良いシーツ、軽いタオルケット。
桧の香り漂う安眠枕。
ちょっとしたサイキョー感を抱きながらまたしても俺は夢の中へと落ちていった。
□■□
何でも出来るようになったのに寝てばかりというのもつまらないと思い、俺は創作活動を行うことにした。
有り体に云ってしまえば漫画を描き始めたのだ。
これが相当な暇潰しになり、あっという間に時間が過ぎていく。
好きなときに寝て好きなときに描く。
他に煩わされるものもない。
俺はついに安息の地を手にいれた!
□■□
リコーダーを新たな趣味に加えて少し経ったとき、何故かこの空間に人がやって来た。
漫画のページ数を参考にして数百年は経っていると思うが爺が出ていってから初めての事だった。
管理者権限でそこへ行ってみると全裸の少年がそこにいた。
……何故に全裸?
そこも疑問だったがさらに問題点があった。
この少年、透けている。
存在がシースルーだ。
なんとなく魂だけの存在なのではと思った。
頬を叩こうとして空ぶったからね。
そうこうしてたら、少年の目が覚めた。
すると何故か俺の事を神様だと言いやがる。
何度違うと説明しても無駄だった。
日本人風だしきっと中学生位だろうからラノベとかに影響を受けているのだろう。
どうするかなと考えていると、なにもしていないのに外に通じるワームホールが開いた。
混乱していると少年は勝手にそこへと飛び込んでしまった。
呆気にとられている間にホールは閉まってしまう。
……うん、俺は悪くない。
それよりも爺が帰ってきたのかもと思い、管理者権限で探してみたが誰もいない。
念のため、呼び掛けてみよう。
「誰かいますかー?」
「あっ、どうも」
「うおっ!?」
呼び掛けたら俺のとなりにいきなりショタっ子が出現した。
話をしてみると今世の世界の神様らしい。
「神様いるんだ」
「普通にいますね」
「でも冤罪かけられたときに助けてはくれなかったよね」
「救いのヒーローはいませんので」
「一億万円必要か。
ここじゃローンも組めないしなぁ……」
「そもそも貴方、救いとか求めてないでしょ」
それもそうだ。
「それで、神様がなんでここに?」
「この場所が世界の外側にあったので調査に。
ついでにちょうど魂がさ迷ってたので、回収しました。
……魂の状態で一度目が覚めてしまったので、
生まれ変わったときに記憶が完全に消えてるか心配ですが……」
「あ、だから俺も前世の事を覚えてたんだ」
「え?
そんなミス私は……あっ、あっちの神様のせいですね。
だから早めに人材を用意しろって言ったのに」
「というか神様、何見てるんです?」
「アカシックレコードですね」
「へぇ、それが……ほぉ」
「あぁ、この空間はあの子の作ったものなんですか、なら消しちゃうのは駄目ですよねぇ」
「あれ、立ち退かなくていい感じです?」
「異世界の知識で作ったものなら壊そうと思ってましたけど、
この世界で生まれたものなんで消せないですね。
これが元になって空間魔法のアイテムボックスが出来たわけですし。
というか出ていかないのです?」
「出ていけと言われるくらいなら殺してもらおうかなって」
「さすがにそれはちょっと。
貴方もそこまで死にたい訳じゃないでしょ?」
「ここに居られるなら死にたくないですね」
「……まぁいいか。
こちらとしては都合も良いですし」
ショタ神様との話し合いの結果、俺はここに魂が迷いこんだ場合ショタ神様のところへゲートを繋げるというお役目を頂いた。
なんでもこの空間は世界の外側にたん瘤のように作られているものらしく、魂がこびりついて侵入してしまうケースもあるとのこと。
「記憶関連の処置は終わりましたんで、よろしくです」
手を振ってショタ神様と別れると定位置のベッドに戻る。
どさくさに紛れてショタ神様の弄っていたアカシックレコードを盗み見てみたら俺がここに来てから既に数千年が経過していると知ってしまった。
案外時が経つのは早いものだ。
とはいえ、ここがある限りは死にたくないしもう少しゆっくりしていよう。
□■□
「と、貴方が考えてからまた数千年経ちましたよ」
今日もショタ神様が来ている。
「最近よく来るね」
「流石に貴方があっちにいた頃からもう1万年くらい経ちましたからね。
発狂してないか様子見くらいはします」
そんなに経ったかぁ。
「最近はリコーダーの作曲に忙しかったんで気づきませんでした」
「流石にそろそろ転生しませんか?」
「えっ!?
ついに立ち退き要求ですか?!」
「いやこの空間は消しませんけど。
もう古代遺物的扱いですし、最近は他所の神様も見学に来てますし」
「え……っ?
俺は会ったことありませんけど……」
「外側から見学しているだけですから。
まぁ、発狂してないようで安心しました。
なんなら神様の仕事とかやってみます?」
「ちょっと興味あるかも……どんな仕事があるんです?」
「ざっくりいうと仲裁ですかね?」
「なら良いです」
「……即答。
はぁ……最近は貴方が羨ましくなってきました」
それからショタ神様は俺が発狂しないかの観察を理由に、愚痴を吐きに定期的にここへと足を運ぶようになった。
□■□
「ついにこの時が来ました」
今日のショタ神様は神妙だった。
「あ、ついに?」
「この世界を店仕舞いしようかと思います」
「世界って終わるんだなぁ」
「生き残ってる知性体も貴方だけですからね。
今回も上手くはいきませんでした」
「寧ろ何をもって上手くいったと定義されるんです?」
「私と同じく創造神が生まれたら成功ですね。
創造神にとって世界を作ることは子作りと一緒なので。
風の噂でその世界のとある一族全てを創造神に昇格させる事に成功した世界もあるそうです」
「……下品な想像をしてしまった」
「人間でいう三大欲求に近しいものだと考えてください。
……君は解脱しちゃったけど」
「いやいや、睡眠欲はめっちゃありますから!」
「確かに……どちらかというと片寄ったといった方が良いですね。
それでどうします?」
「どう、とは?」
「数百年前から提案してるでしょう?
私と一緒に来ます?
それとも転生します?」
「……取り繕ってもダメだと思うんで、正直に話しますけど。
俺、外が怖いんです」
「知ってます」
「実は神様と話していても、話し終わると
『あのとき、こう反応したけど良かったのかな』
とか後になってウジウジと後悔する事が多いんです」
「悲しいことですが、それも知っています」
「一事が万事、前世からそうだったんです。
もし記憶をちゃんと消したまま転生出来たら、このウジウジって治りますか?」
「次で治るかは保障しかねます。
数回の転生を経て克服する人もいますし、克服する必要はないと悟る人もいます」
「……ハハ、長く生きたはずなのに、俺には克服する事も悟ることも出来なさそうです」
「……別の人生を経て初めて見えるものもありますから」
「そういうものなんですね。
……決めました、転生します。
時の牢獄と一緒に消してください」
「……解りました。
この数億年、一緒にいてくれてありがとうございました」
こうして俺の人生は終わった。
最後の一瞬がいつ来たのかはわからない。
□■□
私は何もなくなった場所で思考する。
『ずっと一緒にいて欲しい』
となぜ言えなかったんだろう。
解っている、その一言は間違いであると。
その選択は私も彼も狂わせてしまう要因になる……。
彼は未来永劫大成する機会を失い、私は彼への執着心を増して堕ちていくだろう。
だから本心を言わなかった正しい判断だった。
しかし、そう理性で覆そうとしても私の本能が自問してくる。
──嗚呼、そうか。
既に執着心は消せない領域に入っていたのか。
もう彼はいないのに。
転生させてしまったあとなのに。
今さらになって気づいてしまった。
もう……彼はいないのに。
私は新たに世界を構築した。
いつものように種は蒔かない。
それは他の創造神から見れば、異様な世界と移るだろう。
彼のいた所を模した空間。
ただそれだけの世界。
私はここで彼のようにベッドに寝ながら彼の夢を見た。
その夢こそ私にとっての聖域だった。
END
お読みいただきありがとうございました
アリ*:・(*-ω人)・:*ガト
創造神について補足ですが、今回の創造神は性別的な意味では中性タイプです
外見がショタだったのはその姿が1番主人公の警戒心を刺激しない格好だったからです