第6話 彼と彼女らの愛の喜劇を始めよう
こんにちは魂夢です。ようやくヒロインが!!
ぼっち部の部室は理科室や家庭科室同様に、二対二で対面する形の椅子配置の机が六つある感じで、その一番窓辺に彼女はいた。
「紹介しよう。彼女はぼっち部の部員、扶桑花 麗良だ」
小原先生がそう発言すると、扶桑花は座ったまま、すーっと顔だけを動かしてこちらを見やった。
「……ふっ。まさにぼっちって感じの人ね」
「え、俺に対する第一声がそれ?」
驚きだ、こうも初対面の相手にまるでDIOの如く投げナイフを投げてくるような輩がいるとは。
思わず素で反応しちゃったよ。
「小原先生俺帰っていいすか」
「だめに決まってる。今日は完全下校時間までは部活動に励んで貰うんだからな」
最悪だ。こんなことなら赤点補習覚悟で入部なんてするんじゃなかった。
もう既にすげぇ帰りたい。一刻も早くこの部屋から出なければ、俺の精神は限界を迎えるかもしれない……。
「先生、私もそこのぼっちと一緒に居たくありません。なにをされるのかわからないので」
彼女はそう言って自分の体を抱いて、眉間にしわを寄せた。
バカ、誰がお前みたいな奴に欲情するかっての! バカ言ってんじゃねぇよ!
「てか、お前もぼっち部にいるってことはぼっちってことだからね? そこ間違わないでね」
「あら、私が友達を作れないとでも? 私は好き好んでぼっちやってるの、見ず知らずのあなたにそんなこと言われる筋合いないわ」
なんだこいつ。意味がわからん。好き好んでぼっちやってるなんだよ、意味わかんねぇよ。
それに初対面でディスってきたのはお互い様だろ。
「はいはいストーーップ! 喧嘩はおしまい! 仲良くしようね? ね?」
俺が反撃に出ようとすると、恋綺檄が割って入ってきて制止する。
「喧嘩なんかじゃないわ、もっと一方的よ」
こいつ本っ当に嫌味な奴! 俺こいつ嫌い!
「……ここはそもそも何をする部活なんだ」
「ぼっちを集めて脱ぼっちよ、プリントに書いてあったでしょう? 文字も読めないの?」
ムカッときた。
「一々煽りを入れないと気が済まないのかお前は」
「図星だから煽られてると思ってるんじゃないの?」
俺と扶桑花がビリビリと睨み合ってると恋綺檄が止めに入ってくれる。
心の底からありがとう。今は君だけが頼りだよ……。小原先生も見てるだけでなんもしてくんないし。
「でここはなにすんの」
「ぼっちのコミュニケーション能力を高めるの。例えば遊んだりとか友達の作り方を学んだりとか」
いやいや大きなお世話だよまったく。別に友達なんて何人もいりゃあ良いってもんじゃないでしょ。
それこそ人数が多すぎたらアッチに気を遣いこっちに気を遣いで、大変そうだし、常に相手を理解しようとするのは疲れる。
「まぁ、追々って感じで。それまではこの部屋で三人仲良くしてろよ」
小原先生はそう言い残し、部屋を出て行く。
やめてぇ! 俺をこの二人と一緒にしないでぇ! 助けてぇ!
「と、とりあえず! よろしくね! 麗良ちゃん! あたしは恋綺檄 美嘉、こっちは松葉 荻野君」
俺は扶桑花を見ながら頷く。
「そう、覚えたわ。恋綺檄さんと松なんとか君」
「ねぇ覚えて? そんな難しい名前じゃないから。あとナチュラルにウソつくのやめてね?」
俺がそう言うと、扶桑花はそっと瞳を閉じ、恋綺檄は無邪気に笑って「なんかおもしろーい!」とか言ってる。
夕焼けに照らされた彼女、扶桑花は大変絵になる美しさを持っていて、もはやこの世の物とは思えなかった。
○
最悪な形で出会った俺と彼女だったが、今思えばこの出会いが無ければ真のエンドにはたどり着かなかったように思う。
こうして、俺と彼女らだけのラブコメが始まった。
笑えるような出来事だけが続くともわからない、ストレスで吐きそうにすらなるかもしれない、愛の喜劇が。
今、このぼっち部という場所から始まったのである。
努力嫌いな俺のラブコメが。
わぁぁぁぁぁぁ!!麗良ちゃぁぁぁぁぁぁん!!