第11話 彼と彼女は努力が嫌い
こんにちは魂夢です。ドリョコメのポスター完成しました!相変わらず挿絵出せないんでツイッターに飛んでいただけるとなにより……。
「えー! 麗良ちゃんそんなにかわいいのに彼氏いたことないんだ」
恋綺檄が目を見開いてそう言った。
今、恋綺檄と扶桑花はいわゆる恋バナとかいうやつをやっている。
なんでそんなことやってるかは、俺が部室に来た時にはもう始まっていたからわからない。
「そうだけど、それってそんなに驚くべきことなの?」
扶桑花がきゅるるんと小首をかしげた。
まぁ確かに不思議ではある。扶桑花くらいの美少女であれば彼氏の十人や二十人……は多すぎか、でも例えいたとしても不思議ではない。
「恋綺檄さんこそ、彼氏くらいいるでしょ?」
聞いて、俺は少しだけ驚いた。勝手な妄想ではあったが、扶桑花は色恋沙汰に興味は無いと思っていたが……。
そんなことは無かったようだ、認識を改めなければならない。
「いたよ。ずいぶん昔だけどね」
言って、恋綺檄はえへへと誤魔化すように笑うが、彼女の目はどこか遠くを見つめてるように見えた。
俺は初めて彼女と会った時のことを思い出して、一つ違和感を覚える。
彼女は俺に一度告白しているのだ。そして俺は当然それを断った。
でももし恋綺檄が本当に俺のことを好きなら、好きな人の前で元彼の話などするのだろうか?
「松葉君は……、いないわよねごめんなさい」
扶桑花は座りながらも頭を下げる。
「いやいたから、今はいないけど前はいたからな? 間違えんな?」
俺が言うと、彼女ら二人とも固まった。
そんなに驚かなくても良くないですかね……?
「ま、松葉君? 噓はだめよ?」
「いや本当だ本当。もう俺のことは良いから扶桑花の好きな人でも教えろよ」
俺が話題をずらす目的でそう言うと、恋綺檄がそれに噛み付く。
「そ、そうだよ! 麗良ちゃんの好きな人教えてよ!」
扶桑花はすこしだけうろたえる。
「わ、私は別に……、好きな人なんか……」
目を逸らした。完全にいますねこれは……。噓下手すぎでしょ。
恋綺檄が扶桑花を質問攻めの刑に処している間に、俺はスマホを取り出して適当なネットニュースにでも目を通していた。
彼女に好きな人がいるのは、なんだか違和感がある。
でも勝手な妄想を押し付けていただけだ。
なら、彼女のことを一つ知ったと言うことで良いんだろう。
○
我が校は三学期制で、一学期に二回、二学期に二回、三学期に一回、それぞれ定期試験が存在している。
まぁ何が言いたいのかというと俺がこの高校に入って最初の定期試験まであと一週間だったということだ。
「ではホームルームを終わる。試験まであと一週間しかない、自習室は空いているから、残る人はそこで勉強しなさい」
起立、礼、着席。俺は鞄を持ってそそくさと外に出る。
周りの喧騒から察するに、ほとんどの生徒が自習室を利用するようだ。
試験一週間前は部活も停止だし、久しぶりにさっさと帰れる。
「奇遇ね」
「うわっ、びっくりした……」
下駄箱の近くで扶桑花は俺に声をかけてきた。
「自習室は使わないの?」
「あぁ、そもそも家に帰っても俺は勉強しない。中学ん時も俺は基本ノー勉だからな。……俺は努力が嫌いだ」
俺は扶桑花の方を見ずにそう言って、下駄箱から靴を取り出して履く。
「……私もノー勉よ。私だって、努力は嫌いだもの」
俺ははっとして扶桑花を見やる。
彼女は俺に背を向けて靴を履いているから、表情は覗えない。
けれど、俺にはその背がなんだか輝いて見えた。
思った通り。彼女は俺と同じ努力嫌いだった。ということは俺が彼女に感じたシンパシーも、偽物でも紛い物でもなく、本物だったのだ。
「そ、そうか。とりあえず俺は帰るわ」
別に彼女と帰るわけではないから、俺はそう言った。
そして彼女が下駄箱を離れるまで、ついさっきまで履いていた自分の室内用の靴を見つめていた。