ミモザ part15
2人のお参りを済ませて住職に挨拶に行く。
「ありがとうございました。」
「今回はいつもより長かったね。ちゃんと会話はできたかい?」
「はい。多分聞いてくれていたと思います。」
「そうか。それはよかった。」
自分はカバンの中から封筒を取り出した。
「これ、今までの分です。」
封筒の中にはお金が入っている。約50万ほど。
「いいよ。そんなに急がなくて。少しずつ返してくれればいいから。」
「そういうわけにはいきません。自分も働いている身ですし、いつまでも住職のお言葉に甘えることはできません。受け取ってください。」
両親が亡くなった時、すぐに葬式とお墓の準備が必要だった。これは自分1人でできることではないので、今の父さん母さんが手伝ってくれた時に、この住職と出会った。住職は自分の状況を察してくれて、お墓の費用と管理費は自分が働くまで待ってくれた。しかも無利子で。正直、50万では足りていない。でもこの金額が今の自分が出せる限界だ。
「そうか。もうそんなに時間が経ったんだな。わかった。受け取っておくよ。」
住職は物思いにふけていた。
「そういえば、あの2人とはどうなったんだ?」
もちろんこの住職も自分たちの関係は知っている。というよりも、母さんがお参りにきたときに話したらしい。そのことを聞いても別に態度が変わることはなかったし、むしろ自分たちのことを心配してくれているみたいだった。
「それも含めて、今日きました。」
「そうか。いい報告をしたことを願っているよ。」
住職と話していると、もうすでに日が暮れていた。自分のスマホに1つの通知が入る。真心から『夕飯は?』と一言。自分は、『もうすぐかえる』と返信をした。
「もうそろそろ帰ります。ありがとうございました。」
「またきてくれよ。ご両親も心配でたまらないだろうからね。」
「はい。また近いうちに。」
住職に深く一礼し、家に向かった。
家に帰るや否や、すぐに2人がむかえてくれた。
「おかえり。ご両親は元気だった?」
「うん。そうだね。今度2人のこと連れていくよ。紹介したいしね。今日は父さんいるかな?」
「いるよ。」
「ならよかった。じゃあ、ご飯作ろうか。」
自分は2人を連れて、キッチンに入った。
夕食を済ませて、父さんの部屋に行く。軽くノックをすると、入っていいよと聞こえたので入室した。父さんは何か作業をしていたみたいで机に向かっていた。
「今日、ご両親に会ってきたんだって?どうだった?」
「元気だったと思う。自分の話も聞いてくれていたと感じるし。」
「そうか。よかったな。で、話ってなんだ?」
自分はすこし緊張しながら、父さんに自分の決意を伝えた。
「俺、佐々木家の養子に正式になることにした。いいかな?」
父さんは作業していた手を止めて自分の方を向いた。
「いいのか?どうしても渡邉の姓は捨てたくないと言ったのはお前だったろ?」
「そう思ってた。母さんたちとの距離ができてしまいそうで怖かったから。でも、このままじゃ、俺は真心と愛の家族にはなれない。それなら、俺も佐々木の家に入ったら正式に家族にはなれる。」
「そうか。わかった。今度一緒に手続きに行こうか。」
思ったより簡単に認めてくれた。深く聞くこともなく、理由も父さんは聞かなかった。
「うん。これからもよろしくお願いします。父さん。」
「ああ。2人のこと頼んだな。」
父さんは立ち上がって自分のことを抱きしめてくれた。今までこんなことはなかったので、久しぶりに父親の暖かさを感じることができたと思う。
「母さんや真心、愛にも自分から報告するんだぞ。」
「うん。わかった。」
父さんは自分から離れて、頭に手を置き、自分のことをじっと見てくれた。その目は暖かくやさしかった。




