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ミモザ part14

次の日。


目は冴え、雲ひとつない空が広がる。乾燥がひどくなる季節。雪の降る地域に住む自分たちとっては貴重な晴れ目。これから雪かきの季節が始まる。雪の降らない地域の人には羨ましがられるが、雪があっていいことなんてお米が美味しくなるくらいで、あとは何もいいことなんてない。雪かきは思ったよりも重労働で身動きが取れなくなる。雪かきをしたらしたで、雪かきが甘いと溶けて凍り、滑って危険だ。基本的に雪かきは力仕事になるのでうちでは自分が担当している。色の識別のできない父さんには雪道は危険すぎるので結果的に自分1人ですることになる。少しくらい真心達にも手伝って欲しいが極度な冷え性の2人が無理して手伝ってもらうのは気が引ける。


この時期になると自分は必ず1人であるところに行く。誰にも言わずに。車の必要がない距離なので基本徒歩。この歩いている時間が自分にとっては大切な時間でいろんなことを頭の中でぐるぐると回す。本当は1年でもっとこの場所に行きたい気持ちはあるけど、それじゃあ前に進めない気がして自分でルールを決めた。


いつも通りの準備をして、いつも通りに花屋の勤務につく。お昼休みになり、愛が大学を終えて花屋に出勤する。控え室で、


「今日、俺は午前で終わりだからあとはよろしくな。」


「そうか。今日だったね。いってらっしゃい。」


控室を出て、結さんに挨拶をする。


「今日はこれで失礼します。」


「はい。これ頼まれてたもの。」


結さんから手渡しで綺麗な花束をもらう。いつもなら、こう言ったものは持っていかないのだが今回からは花屋に働いているということもあり、結さんに頼んでおいた。


「ありがとうございます。相変わらずゆいさんの作る花束は綺麗です。代金は自分の給料から引いておいてください。」


「いいよ。今回はサービスしてあげる。いつもお世話になってるから。そのお礼ってことで。」


店で花束を頼むとそこそこの値段になる。少し悪い気もしたがせっかくなので言葉に甘えることにした。後から引かれていたとしても文句を言うことはない。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」


結さんに頭を下げる。


「よろしく言っておいてね。」


「私も。」


後ろの控室から愛の声も聞こえた。


「はい。きっと喜んでくれます。」


結さんからもらった花束を手にして自分は店を後にした。


目的地までは歩いて20分くらい。この道のりで話すことを整理する。年に一回と、決めてから話したいことは整理してから行くようにしてる。母さんは自分よりもっと短い頻度で行っているみたいだから今の自分のことは母さんから聞いてくれていると思う。それでも、自分の口からどうしても言いたいことを考える。今回は、それだけじゃなくて、もっと重要な話があるからこそしっかり整理した方がいい。


話すことを考えながら自分は足を進め、気づけば目的地についていた。自分が年に一回と決めている場所は、2人目の父さんと母さんが眠っているお墓だ。住職に挨拶を済ませて、水を持ってお参りにいく。母さんが毎回綺麗に掃除してくれているのでいつもピッカピカだ。


「ただいま。父さん母さん。」


挨拶を済ませて、水を掛け、線香を薫く。自分は話す内容をしっかり声に出す。2人と会話できている感じがするから。自分は両親のお墓の前に座る。


「どう、これ?今、花屋さんで働いているんだけどそこの店長が作ってくれたんだ。綺麗でしょ。母さん花好きだったからお願いしたんだ。その人は結さんって言って、最初はすごく感じの悪い人だったんだけど、人見知りだってことに気づいてから少しずつ打ち解けていったんだ。」


自分はこの一年であったことを次々と両親に報告する。病院の屋上から落ちて腕を折ったこと、病院で授業していること、隼人とさくらのこと。返答が返ってくることはないが2人は笑顔で聞いていてくれている気がした。時々、怒られるかもしれない内容もあったけど、今自分がこうして報告してくれていることで少しでも安心してくれればと思っていた。


「それでね、今回は一つ重要な報告があるんだ。」


自分は今回のことで決断したことを両親に伝える。


「俺、佐々木家に養子として入ることに決めたよ。渡邉寛から佐々木寛になるんだ。そうしないと、俺は真心達と本当の意味で家族になれないから。」


自分が決断したのは、目の前で眠っている2人の名前から今の家族の中に入ると言うことだった。本来なら、もっと早くそうすることが普通だったのかもしれないが、自分の中で2人から離れてしまう感じが怖かった。血のつながりのない、育ての親と。でも、今回の一件で結婚のことについて考えた。子供のことも。いくら考えても、これしか選択肢が自分の中で思いつかなかった。


「たとえ、佐々木になったとしても2人の子供だったことは変わらない。母さんからもらった優しさも、父さんからもらった愛情も絶対に忘れない。今の俺がいるのは2人のおかげだから。でも、これからのことを考えると、いいかげん2人から独り立ちしなきゃいけないと思ったんだ。今の自分には守りたい人たちがいる。今の自分には一緒に生きていきたい人がいる。俺たちは特殊な関係上、世間から認められないことが多いかもしれない。それでも、俺は2人と一緒にいたい。いいかな?」


自分の頬には涙の道ができていた。その時、優しい風が自分の涙をぬぐうように吹いた。その風に乗り、落ち葉がそっと自分の肩に乗る。大丈夫だよと、言ってくれている気がした。


「ありがと。これからも頑張るから見ていて。今度、2人を連れてくるよ。じゃあ、またね。」


自分は腰を上げて、目を閉じた。色々な思い出が蘇る。2人の笑った顔も、怒った顔も、泣いている顔も。その時もう一度、優しい風が背中をおす。自分は目を開けて、2人の姿を確認するようにお墓をみる。最後に、そのお墓に触れて思いを込める。


「いってきます。父さん、母さん。」


その言葉を残して2人から離れた。



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