ミモザ part4
長編の更新になります。
温泉旅行編の1日目です。
最後まで読んでいってください。
悶々と悩んでいる自分を不思議そうに2人は見る。
「そうだ。ここに来る途中にいろいろお店があったから行こう。お母さんたちにお見上げも買わなきゃ。」
愛の一声で3人揃って外に行く準備をする。旅館の人に掛け合ったら、近くまで送迎してくれるようだ。帰る時は連絡をすれば迎えに来てくれるらしい。車に揺られること5分ほど、近くの繁華街的なところについた。
「では、お戻りの際は連絡をしてください。ここでお待ちしてます。」
「ありがとうございます。では、いってきます。」
運転手の方と別れ、街を歩く。2人としっかり手をつないで。外で手をつなぐ兄弟もなかなか珍しいが、そうとしか見えないだろう。
「あっ、あそこいきたい。」
愛に手をひかれ、店に入る。昔ながらのお土産屋さん。ここら辺の特産品なのか、綺麗なガラス細工のお土産が並んでいた。どれも細かく細工がしてあり、光の反射が綺麗でどれも目を奪われるようなものばかりだった。
「どれか買って行こうか。気に入ったのをそれぞれ。」
自分の提案が嬉しかったのか、2人とも真剣に品定めを始めた。旅行に来ているので大きなものは買えない。自分は小さなものの中から選ぶことにした。商品が陳列されているところに行くと、自分はあおい小鳥の置き物に引き付けられた。
「それに興味があるのかい?」
急に後ろから声をかけられたのでびっくりした。振り向くと店の店主であろうおじいさんが話しかけて来た。
「それはね、私が初めて作った作品であまり加工も良くない。だからか、売れ残ってしまっていてね。あおい鳥は幸せを運んでくれるって言うけど売れなくてね。」
「おじいさんが作ったんですか。自分はとても綺麗で好きですよ。他の作品とは違う加工がされていて唯一っていう感じがします。もし、よければ自分買います。」
「良いのかい?こんな不格好なもの?」
「これが良いです。気に入りました。」
「ありがとうね。少しまけるよ。」
「いいえ。ちゃんと払わせてください。この作品に見合ったお金を払いたいです。」
そうこう話しているうちに、2人も買いたいものが決まったらしく、自分の後ろに大切そうに両手で作品を持って待機していた。
「声かけてくれれば良いのに。じゃあ、おじいさんこの3つください。」
「はいよ。お嬢さんたちそれぞれ梱包するから持って来てくれるかな?」
店主は2人を呼んで奥の方で何かしている。2人の笑い声も聞こえる。自分はそんなこと気にしないで店内にある綺麗なものに目を奪われていた。
「ありがとうね。」
数分後には梱包が終わり、お金を払って外に出た。買ったものは愛が大切そうに持っている。
「おくで店主と何話してたの?」
「それはねぇ。お姉ちゃん。」
「内緒かな。」
何か隠しているのは見え見えで、ここで質問しすぎるのは味気ないので、ふぅーんとだけ答えた。
そのあとは、買い食いしたり、足湯に浸かったり、また買い物したりと、観光を十分に楽しんだ。あっという間の2時間だった。自分の両手には大量の荷物が。途中、真心に財布を預けていたのでいくら使ったかはわからない。旅館の人との待ち合わせ場所に行くと、
「すごい量の荷物ですね。」
と、気を使って自分の荷物を半分持ってもらった。車に入った時点ですでに6時を回っていた。
「旅館に着きましたら、ご夕食の準備をしますので1時間ほど時間をいただきます。その間に温泉に浸かってはいかがでしょうか?」
「そうですか。わかりました。そうすることにします。」
重い荷物を長時間持っていたので自分の服の中は汗だくですぐにでも温泉に浸かりたい。
旅館につき、温泉の準備を始める。
「愛。かぎ持って行って。」
2つある鍵を愛のほうに渡す。貴重品などは基本的に真心が管理する。しっかりしているから。でも、お風呂に入る時間を考えると愛のほうが圧倒的に早い。自分も真心も基本的に長風呂なので早く上がる愛に鍵を渡した。
準備を終え、男風呂に入る。この温泉の時間だけが1人になれる時間。2人といるのもいいがお湯に浸かりながら、1人物思いにふけるのも悪くない。
まだ10月の頭。今年を振り返るには少し早いが、自分の人生が大きく変わった1年だった。結さんたちと出会って、病院の屋上から落ちたりもしたっけ。あの時はみんなに心配かけたな。念願だった授業もできたし、さくらとの別れもあった。あまり感情的にならなかった自分も、かなり人間らしくなって来たと思う。
真心も他の人の前で少し積極的になったり、口撃も覚えたみたいで最近は結構毒を吐かれる。自分に遠慮していたところが今まであったみたいだったけど、自分は今の真心の方が好きだ。
愛は大人の女性になりかけているって感じだ。さくらの一件の時感じたが包容力のある女性になっていた。自分でも愛が心の奥で何を考えて感じているかはわからないが、明るい中にミステリアスな部分があるのが愛の魅力でもある。
旅館のお風呂は広く、いろんな種類の温泉があった。温泉で温められた体を一旦冷やすために、水風呂に少しだけ使ってからもう一度温泉に入る。
ひとりになると、いろんな不安がよぎる。今後のこと、会社のこと、恵さんに言われて意識し始めた結婚と子供のこと。どんなに自分に問いかけても答えなんかでない。何かいい方法はないのか。早く決断しないといけないと自分を追い込む。
そうこう悩んでいるうちに早いもんで1時間は温泉に入っていた。これ以上入ると湯当たりするので体を冷やしてから上がった。
温泉から上がり、あらかじめ部屋に用意されていた浴衣に着替えて、部屋に戻った。どうやら自分が1番最後のようで2人ともテレビを見ながらくつろいでいた。
「遅い。にぃにが1番長風呂なのおかしいでしょ。」
「男が温泉好きで何が悪い。髪が伸びてきたからなかなか乾かなかったし、男は男で時間がかかるものなの。」
真心が立ち上がり自分の髪に触れる。
「ほんとだ。帰ったら切ってあげるからね。」
「よろしく。」
自分の髪は基本的に真心が切ってくれている。服にも髪型にも基本的に無頓着な自分は、服も髪型も2人の趣味に合わせている。と言っても2人の趣味が違うので、1日おきにテイストが変わる。ちなみに今日は愛の好みの服装だった。
「それじゃあ。いくか。」
自分の声と同時に愛が勢いよく立ち上がり、浴衣がはだけたまま外に出ようとする。
「待って愛。」
真心が愛を静止させて、浴衣をなおす。
「そんなにいそがなくてもご飯は逃げないよ。立派な女性なんだから服装はしっかりして行きなさい。」
「はぁーい。」
めんどくさそうな返事で真心に答える。
「でも、にぃにはセクシーな方がいいでしょ?」
肩を少し見せ自分を誘惑してくる。
「そうだな。奥ゆかしい感じの色気は好きだが露出狂は好きではないな。」
自分は愛に近づき耳元で、
「こういうのは自分にしか見せないから、色気が出るんだろ。俺以外に見せるなよ。」
と小声でいった。愛の顔は真っ赤になり、顔を伏せた。自分以外の男性経験がない愛の反応は少し幼い感じで可愛かった。まあ、自分も2人以外経験はない。
「何、愛に言ったの?」
「うん?すこしからかっただけだよ。それよりご飯だろ。」
鍵を持ち部屋を後にする。すこし鼻歌を歌いながら歩いていくと愛が、
「ご機嫌だね。」
「そうだな。最近、からかわれてばかりだったからやり返せて少し嬉しいのかもな。」
「ムキーッ。」
愛が後ろから耳を引っ張ってきた。痛いと言ってもしばらくはなしてくれなかった。それを後ろから真心が笑顔で眺めていた。
この旅館は部屋での食事ではなく、別館に部屋ごとの食事処がありそこで時間内に行けば、夕ご飯が食べられる。
しばらくして、料理が運ばれてきた。THE日本食といった感じで、綺麗に盛り付けがされていた。料理が運ばれるや否や、すぐに始まるのは食べられないものの選別。2人とも綺麗な盛り付けを無視して血眼になって嫌いなものを自分の皿に移す。
「せっかく綺麗に盛り付けがされてるのに。少しは見た目も楽しんだら?」
「嫌いなものはどうやっても綺麗には映らない。ねえ、お姉ちゃん。」
真心もうなずいている。自分はため息をつきながら、料理を口に運ぶ。どの料理も手が混んでいて、時間がかかりそうなものばかり。もちろんどれも美味だ。選別の終えた2人も美味しいといって食べている。
結果的に1.5人前ほど食べた。さすがに食べ過ぎた。部屋に戻るとすでに布団が敷いてあった。ご飯を食べて元気になった少し興奮気味な愛が自分の荷物を漁っている。
「夜はこれからだからね。」
愛は持ってきたスーツケースの中からいろいろなものを取り出してきた。たった1泊なのにスーツケースで来た理由がそれか。人生ゲームまでならわかるがツイスターゲームまで持っているやつを初めて見た。
「俺疲れてるから寝たいんだけど。」
「ダメ。寝かせないから。」
なぜか真心まで乗り気なので仕方なく参加する。まあ2人のための旅行だから仕方ない。帰ったらしっかり眠らせてもらう。
「その前に適当に飲み物買ってくるから。」
ボードゲームやトランプなどを拡げてどれにするか悩んでいる2人を置いて売店に飲み物とおつまみを買いに行く。3人とも成人しているから基本的にお酒しか買わなかった。
部屋の戻るとすぐにお酒を開けてゲームが始まった。自分はテレビゲーム類は苦手だがこういった人の表情を読んだりするゲームは得意で基本的に負けない。2人には悪いが普段負けている分ボコボコにした。
ゲームを初めてすでに4時間。さすがに愛も限界のようで自分の膝を枕にして眠ってしまった。愛の頭を撫でていると真心が後ろから抱きついてきた。
「また、何か悩んでるでしょ。話したくないならいいけど、愛も私もすでに気付いてるからね。」
「そっか。敵わないな、2人には。」
「やっぱり。そうなんだ。」
「でも、ごめん。もう少しだけ悩ませてくれないかな。今回ばかりは自分1人で決断しなきゃ行けないと思うから。2人のためにも。自分のためにも。これからのためにも。」
何かを察したのか真心は、
「わかった。なら、待ってるね。愛には私からいっておくから。」
すると、愛の顔が急に上がってきた。
「起きてるよ。ちゃんと聞いてた。」
愛は体制を立て直して正面から自分に抱きつく。
「私も待ってるから。しっかりしてよ。寛。」
「わかったよ。もう少し待ってて。」
このときどこか自分の中決心がついた気がする。どう行動すればいいかはわからない。でも、他人の目を気にすることはやめようと思う。どんな選択になっても2人となら、きっと。
2人にサンドイッチにされていて、その温もりから急な眠気に襲われた。愛の肩に頭をのせ、気絶するように自分は眠りについた。
最後までありがとうございます。
評価、レビュー、感想、コメント、ブックマーク等ありましたらよろしくお願いします。
Twitterを始めました。@siroiajisai1024 更新、活動報告などをしていく予定です。フォローの方よろしくお願いします。




